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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
39/70

三十二話 絶対におかしい

「──これ、貰っていきますね」


 そう少女は、意地悪そうに微笑んだ。

 その少女の手には、恐らく瀬奈が隠し持っていたであろう『旗』が握られており、それは確かな瀬奈の敗北条件を満たしている。


 意地返しのつもりであえて反応しなかったのだ。そしてそれは目の前の彼女もわかってくれていただろう。


「な!? お、まえ……影池、か!」


「漁夫の利、だーいせーこー。Cチームで『旗』を所持していたのは風滝さんでしたか。私に当たったのが良いことなのか悪いことなのか、それはこれからわかるか」


「──悪いね」


 そう言うと瀬奈は再び姿を消す。──けれど、足から垂れ出ている血のせいで完全には消えきれていない。それを誤魔化すような速度だが、痛みと俺の『術』のせいでトップスピードはだせていないのがわかる。


 そして、影池さんはそんな瀬奈を見ながら──消えたのだ。


「っ!? 空間、を、渡ってんのか!?」


「まあそのようなものですね。これ、向き不向きが酷いので、珍しいでしょ?」


「おちょくってんのかよ!」


「戦法として相手を煽り理性を失わせるのもアリではあるので」


 なんとなく話の流れから影池さんはテレポートができるのだと理解できた。そういう空間系統も少しばかし教えてもらったが、何でも脳の処理速度とかいう先天性の問題も絡んでくるとかで俺には使えないと言われてしまった。

 そして今、目の前では影池さんが色んなとこからでてきたり消えたしている。ロマンにあふれる能力ではあるが見ただけでも難しそうだ。だからこそ、こうして瀬奈も翻弄されているんだろう。


「……でも一気に撤退しないとこを見るに長距離での移動は溜めでもいるのか?」


「さあ、どうだろうね。試してみる?」


 透明化VS瞬間移動。中々に面白そうではあるが目の前にいる時間の方が短いのでよく戦いの状況はわからない。ただ、それ以上に地味に土埃とかが目に入りそうできつい。移動したい。


 けど影池さんがいるということは……そう、確かDチームだから向達がいるということか。乱戦状態に近いな。俺達のチームは圭さんが『旗』を持っていいてCチームは瀬奈が持っていてそれを今影池さんが確保した状況だ。

 残すとしたら先程まで戦っていた桜達Bチームも今はどうしているか気になる。


「……っ」


 時間にしたらきっと一分は経っていない。けど体は少しずつ動くようになってきた。視力も問題なし。どうにかこうにかこの場から離れたい……!

 ぐねぐねと体を動かしながら周りを見渡す。そうすると森の一部が凍っていたり燃えていたりと散々な感じだ。


 どうしたものか……


「──グァオォ!!」


「「「!?」」」


 獣の咆哮が聞こえた。森であるからか、場には似合っている。けれど場面には似合っていないだろう。


「な、に、あれ……?」


 長い一本角に、鹿のようなフォルム。犬のような耳に、猫のような尻尾。いや、それさえも無理やりに既存の形へと押し込めたに過ぎない。もっと悍ましく、おどろどろどしく、身の毛のよだつ見た目をしている。

 これは、妖怪ではない。そう直感が理解する。こんなもの、生物とさえも呼べないであろう。


「アイツ、まだ生きてたのか──!」


 そう叫ぶと同時に飛んだのは瀬奈だ。上へと大きく飛躍して名称のないナニカの大きな右振りを回避した。


「……もしや、『試練』!?」


「ああそうだ! コイツは式神かなんかだろうぜ!」


 式神。

 なんとなく、学園長に聞いたことがある。使役者に従う存在だと、そう。確か、学園長は他にも何かを()()()()()()()()。なんだ……?


 いや、それよりも今は目の前のこの式神の対処が先だ。というか、対処も何も俺は動けないのだからマズイ気もするが。


「……ってか、俺の方を向いてない?」


「……」


「ご武運を」


「瀬奈は黙祷ささげんのはぇし影池さんも逃げる気満々だなぁ!」


 くっそ味方がいない! ……そもそも味方じゃないか!

 ずりずりと這いながらなんとか距離を取ろうとする。でも、それでも相手は巨体だ。ほんの少し動くだけでそんな距離縮めてしまう。


 ──本当に、痛いのは嫌いだ。


「っ……」


 そのナニカの爪が俺を襲おうとして──風の刃が、それを防いだ。


「……え?」


「──」


 方向をパッと見ると──刀の音が聞こえた。


「──どうやら随分とピンチのようだね蒼!」


「……麗!? と、圭さん!」


 そこにはボロボロの圭さんと息を切らしている麗がいた。だとすると、あの風も麗が……? でも、他のチームとの共闘は禁止のはずだ。


「確かにルール上はそうだよ。けどあれは『試練』だ。偶々違うチームのメンバーが同じ『試練』に攻撃をしてしまった……ってことなら違反でもなんでもないでしょ?」


「そう。私達は同じ標的に攻撃をしているだけ。その攻撃が連続で来ようともそれらは全て偶然の産物になります」


「こ、こすい!」


 なんだその理論! 証明する手段がないからってすっごいめちゃくちゃだ! ……まあ事実としてそれに命を救われたので俺もそう証言しますが!


「とはいっても? ボクだって変に労力は使いたくない。だーかーら、なぜか戦っていてそれに集中している間に敵チームを逃がしちゃいましたぁ……ってことがあっても不思議じゃない」


「! ……大好き!」


「うわぁ、気持ち悪い。鳥肌立つね、やめて」


「あたり強ー!」


「状況は理解しましたね? 撤退です」


 圭さんの肩によりかかる形でなんとか立つ。けれど俺よりも圭さんの方が物理的にもめちゃくちゃボロボロそうに見えてしまう。


「圭さんも、大丈夫?」


「治りますので」


「……痛くないわけじゃ、ないでしょ。少しでも痛いって、そう思ったら大丈夫じゃないよ」


「──。そう、ですね。ありがとうございます」


 圭さんは一度大きく目を見開いて、そう言った。これが慰めになるとか、そんなことは思ってない。けど傷ついても治るからいいなんて、そんなの絶対におかしいだろう。


「……そういえば、状況ってどうなってる? 影池さんがこっちに来たからDチームも参戦してる?」


「影池さんが? ええ。Dチームが参戦して、それに加えてBチームも加わり全てのチームでの乱戦中です」


「マジで……!?」


 想像以上に想像以上な状況だった。というか、マズイ状況でもあるだろう。簡単に言うなら敵が三倍である。互いが敵同士とはいえ警戒しなければならない相手が増えるというのは普通にヤバい。


「『旗』は?」


「無事です、とだけ。ここでは誰が聞き耳を立てているかわかりませんから」


「そう、だね。……あとね、Cチームの『旗』は影池さんが持ってる」


「! そうですか」


 つまりDチームは最後まで奪った『旗』を持っていれば合格であり、逆にCチームは奪われた『旗』を取り返さなければ不合格確定である。このゲーム、怖いことにたとえ取り戻そうとも合格が確定したわけではないことだ。難しいと言うか、性格が悪い。


「再び同じ作戦となりますが、まずはメンバーの合流。そうして伯世さんに乗りこの場から撤退するのが良いかと」


「俺も賛成だな。三人がどこにいるかわかる?」


「戦闘の音からなんとなく、とだけ」


「なんとなくでも大丈夫だよ。でも問題があるとすればその撤退を許してくれるか、だよね」


 既に竜に乗るという手段はBチームに使っているし、なんならCチームには堕とされている。何かしらの対策もなしに再び乗ればまた不時着だろう。その未来が見える。


「……あ」


 ──『結界術』を使って守りながらならいけるんじゃないか?


「……? 咲崎さん?」


「いや、その……ちょっと試したいことがあってさ、いいかな?」


「ええ……」


 圭さんから離れて札を取り出して、そのまま宙へと投げる。そして先程と同じように、なるように。


「! それは、」


「……っし」


 ──そこには、目に見えない何かが、確かに存在していた。


「──成功だ」





 作戦はまず第一に三人との合流。そこから竜にまた龍の姿になってもらってそのうえで森のまったく別の方向へ爆速で移動。その際に受けるであろう妨害は他四人が対処する。

 『結界術』はどうやら未来が見えるらしい圭さんの助言で発動することにした。


 ので、今は戦闘音が激しい、氷が見える場所に二人で移動した。


「そういえば、俺的には麗を相手にするのってすごく難しいと思うけど、どうだった?」


「非常に戦いにくい相手でした。というか、『未来視』と『読心術』の相性が最悪で……」


「あー……」


 未来を読んでもそれもまた読まれてしまうのだから確かに相性は普通に最悪だろう。というか、それでここまでの負傷で抑えられた圭さんがすごいと俺は思う。


「っと、ここだね」


 少し開けた場所が見えてきたので草木に隠れて身をかがめる。というか、開けた場所という表現は適切ではないかもしれない。──生成された氷により木がなぎ倒されているのだから。


「ふっ!」


「っ、!」


「まだっ、まだ!」


「どわぁ──!?」


 葛は今、三人と戦っている。『術』により成長させた草木のことごとくを凍らされてしまっている水無月さん、先程の再戦かと息巻いている桜、めちゃくちゃ逃げ惑ってる……


正斬(まさき)さんです。Dチームの方ですね」


「ああ、正斬! なるほどね、完ッ璧に覚えたわ」


 俺個人として人の名前を覚えるのは苦手分野だ。というか、顔を名前が一致しないしなんなら名前だってあやふやに覚えてしまう。でもこれで正斬君のことは覚えられた、だろう!


「私が『術』を三人めがけて叩き込みます。その間に北原さんをこちらに」


「うーん、攻撃的。わかったよ!」


 そう言うと圭さんは指を鉄砲の形にして──三人めがけて光線のようなものを放った。けれどそれに殺傷力はなく、ただ眩しいだけ、だそうだ。

 そしてその隙に俺は葛へと『術』を仕掛けて鎖で腕同士を結んだ。それにすぐ察してくれたのか、葛はこっちへと走ってくる。


「撤退か?」


「察しが良すぎるね、惚れちゃう。あとは雷と竜の回収ができればミッションコンプリートで、詳しくは走りながらでいい? じゃないと──」


 ──飛んでくる岩に潰されちゃうから。


「桜の馬鹿力ぁ──!!」


 なんて、敵であるけど友人である容赦のない友人に対してそう叫んだのだった。

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