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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
38/72

三十一話 傷つけるという意思

 ──流石に真剣はマズイだろう。

 そう思ってもなお攻撃の手は緩まない。なんでだ、読めているはずだろ。


「っ、これ、たぶん麗だ! えーと、Cチーム!」


「だと、っすればメンバーは頭内さん、風滝さん、銅牆(どうしょう)さん、満月(みちずき)さん、水無月(みなずき)さんですね。場所的にここは森の中央……移動していたか、待ち伏せか」


「考察もっ、いいが……竜! 大丈夫か!?」


『全ッ然痛いよ!? 不時着してい!?』


「不時着前提かよ! もうちょい丁寧にオレらを扱ってくれ!」


 なんとか防ぐも攻撃は止まない。これ以上は竜へのダメージがエグいことになってしまう。だからこそ地上に降りようとすると……


「──雨?」


 水滴が、顔についたのだ。

 思わず空を見上げると、そこには()()()()()()雨雲があった。そして、雨は次第に強くなり──


「──ッ!? い゙、ったぁ!!」


 ──水滴は弾丸のように俺達を狙ってきた。

 容赦なく、淡々と、延々と。


『──ごめん!!』


 そして、そんな竜の悲痛な叫び声と一緒に、俺達は不時着したのだった。





「っ、恐らく最後の雨での攻撃は水無月さんでしょう。彼女ならば、説明がつく。そして、ここは……?」


「──確認した。中央の、北よりだな」


「北って、麗達の方っぽいよね」


 東西南北どこから攻撃がきたかは正しくはわからないが、Cチームの場所の候補は北と西なのだ。二分の一である。北でないことを、今は祈るしかない。


「麗……うん。想像通りに容赦なかった」


「節々にそんな感じはしてたがな。でも風の刃は誰だ?」


「それも麗じゃないかなぁ。前に刀使ってたし、その応用かも」


 断定することはできないが。そもそもメンバー全員の特性も得意な『術』の把握も俺はできていない。


「私が知っている限り、水無月さんは草木を操る『術』を得意としており、応用として水の『術』も使えたと。……憶測ですが、先程の川岸さんや五海さんほどの腕前はないと、そう思います」


 その二人は聞いた話によればそれぞれ水系統の『術』をとても上手に使えるんだとか。無から水を作り出したり、地面に落ちた水滴を宙に浮かして集めたりと……超常的である。


「風滝さんはその速度だけで言えば対処できるのは恐らく伯世さんのみ。それに、彼は姿を消すことができる」


「え!? 瀬奈って透明化能力持ってたの?」


「……知らなかったんですか?」


「う、うん」


 どこかジト……と見られるので気まずくなりながら顔を反らした。


 どうやらクラスで『術』に関する授業が行われた際にそれぞれ自分の得意とする『術』を披露していたそうだが、生憎と俺は学園長との座学授業があったのでそれに参加していない。


「銅牆さんは物質の操作が得意で、土に触れれば土の壁を作れたり岩に触れれば岩の剣が作れたりする『術』が得意です。そして満月さんは見ての通り、と言いますか……彼女は『人狼』という『種族』の妖怪です」


「『人狼』って、あの満月とかのやつだろ? 日の下でも強いのか?」


「身体能力で言えばとても高く、五感も人間より──あ」


 圭さんはそう自分の言葉に何かを気づきいきなり立ち上がった。それに怒らせたかと思っている雷がビクッとしているが圭さんはそんな雷には構わずに、焦るように周りを見渡す。


「よ、妖鏡? ご、ごめん。怒らせるようなこと言ったちゃったか? あ、謝る。オレ超謝るよ」


「いえ。そんなことはどうでもいい」


「どうでもいい!?」


「問題は、別です。皆さん、警戒を」


「え?」


 説明もなく、というよりかは説明している時間が惜しいといったように見える。


 何かある? 何か、か。圭さんが急に焦りだしたのは、そう、満月さんが『人狼』だと確認していた時だ。『人狼』である彼女は身体能力が高くて五感が……五感。

 五感は視覚、触覚、聴覚、味覚、──嗅覚。


「臭い……? っ、そういうことか!」


「警戒を緩めずに! もし戦闘になったのならば北原さんは水無月さんと、鳴雨さんは銅牆さんと。そして私が頭内さん、伯世さんは満月さん、風滝さんを咲崎さんが!」


 そう圭さんが言うと同時に、──刀が、圭さんへと目掛けて飛んできた。


「あ、っぶねぇ!!」


 それをギリギリで葛が氷の盾で受け止める。その刀は確かに圭さんの目の辺りを狙っており、傷つけるという意思が、あったのだ。


「──ちょっと! 麗ちゃん、危ないじゃない! 当たって怪我したら大怪我……めちゃくちゃ大変だよ!?」


「むしろボクはその大怪我を負わせたかったんだけどね。というか、彼女なら当たって砕けても大丈夫だろう? ルールの『不可逆の傷を負わせることを禁ずる』を破ってはいない」


「そうじゃないよ! 危ないの! ルールは大事だけどそれ以上に道徳も倫理も大事なんだよ!」


「奇襲したくせに大声で喋ってどうする! いいから行くぞ!」


 麗、と……銀色の髪に犬耳、満月さん。そこに瀬奈が注意に入ったのか。まあ、完璧な奇襲であったのにああも大声で会話をしていたらそのアドバンテージを捨ててはいるが。


「でも麗がそんな迂闊には思えないし……バレても問題ないってこと?」


「だろうな。蒼は相手……確か、風滝だっけか?」


「うん。おんなじ部屋のルームメイト。だからって手加減も手心もなさそうだけどね。それにそこまでまだ三人について詳しいわけでもないから……」


 相性の問題もわからない。けど『拘束術』を使って透明化する瀬奈の位置を掴めという意図があることはなんとなくわかった。


 そう葛と話していたら──刀が、飛んできた。


「っ、ぶない!」


 ギリギリの数センチというところで後ろにのけぞり回避するも、少し前髪が切れた気がする。飛んできた方向を見れば既に麗は圭さんへと斬り掛かっており、それを圭さんが地形を利用しながら避けていた。


「嫌がらせかよ……っ!」


 ガッと、思いっきり横腹を蹴られた。


「!」


「蒼っ!!」


「大丈夫! だから葛は予定通り水無月さんと!」


 蹴りの威力は全然強く、体が数回地面にバウンドした。まるで石切りの石になった気分だ。


「……いや、驚いた。まさか防がれるとは」


「っそれ、褒めてる?」


 ギリギリのギリギリ。ふと自分の隣で風が起こったような気がして咄嗟に腕を立てて守っていたのが功を奏した。あれがなければあと三バウンドくらいしていたんじゃなかろうか。


「容赦ないな〜」


「遠慮しない。追撃させてもらうぜ」


 札を右手に持ちながら、瀬奈のことを見る。見る。見る。み──


「そこぉ!」


「外れ」


「あれ!?」


 そこだと狙いをつけた場所に札を投げるも投げた瞬間に目の前から瀬奈の姿が消えてそのまま俺の背後へと移動した。


 間に合わない。


「ッ──!」

 どうするどうするどうする。背後に瀬奈がいて手には一枚の札。『術』が発動せずに落ちている札が目の前に一枚。今から振り返っても瀬奈が蹴るのが先。次にまた蹴りが入ったら痛みのせいでしばらくは動けない。そもそも今だってズキズキ体が傷んでいるんだ、容赦をしろ。ああ、くそ。使えるのも『拘束術』だけだそれでどう今この瞬間を突破する? たとえ発動できても今の俺じゃ見てない相手を縛るだなんてそんな高等なことはできやしない。屈むって言ったってそんなの絶対に間に合わない。どうするどうするどうする。


「ゲームセット」


「──痛いのは、ごめんだ!」


 すぐに振り返り蹴りがくる予測地点に再び腕を置く。そして、それと同時に俺の手から札が落ちた。


 ──賭けだ。

 成功するかわかならない、賭け。今までで一度もできていなかったし、できる確証なんてない。なんなら確率で見れば発動しないほうが多いだろう。

 でも、片鱗はあったんだ。


「! ──結界?」


「っ、しゃあ!!」


 ピシリ。目の前にできた透明なバリアのようなもの──結界に瀬奈の蹴りは阻まれて俺を直接傷つけることはしなかった。


 ──結界術。


 『試練』の時に発動させた『拘束術』に、どこか結界のようなものが見えたんだ。鎖を用いて自身を守る、そんな結界のような片鱗が。


 まだ学園長に一度しか見せてもらってないし、ちょっとだけ自分で練習したときも無事に発動しなかった。土壇場のギリギリで発動、ということだろうか。


「火事場の馬鹿力てきなあれってことかね」


 すぐに瀬奈と距離を取ってから札を飛ばす。結界に阻まれていた瀬奈の足に目掛けて、だ。


「よしっ!」


 札を飛ばしたと同時に瀬奈は手を伸ばしたがなんとか『術』は発動した。足に対して拘束したのだから、これで右足は好きに動かすことはできないはずだ。


「……不思議な感触だな」


「そーですか! ってか、おんなじルームメイトじゃん! ちょっとは手加減してくれよ!」


「はぁ……一番潰しやすいと思ってたんだけどな」


「ひどい!」


 確かに戦力的な面から見ればチームで一番劣っているのは俺だろうけども! それでも潰しやすそうはひどいんじゃないかな!?

 けれども状況……よいうよりかは戦力的に見ればようやくイーブン……に近しくなったのではなかろうか。片足が思うように動かせない状況、ならばそこまで動けないだろ──


「──え?」


 ぐるりと、世界が横に倒れた。音を立てて、くるりと。

 そこで理解した。俺が、倒れたのだと。


「え、ぁ」


 同時に激しい痛みが襲ってくる。頭を直接撃ち抜かれたみたいな、激しく鋭い痛みだ。


 ──いた、い。


「……あんまり、この手は使いたくなかったんだがな」


「っ、あ゙」


 チカチカする目でなんとか周りをみると、そこには血だらけの足をなんとか立たせているという具合の瀬奈が見えた。──『術』が消えているのは、直感的にわかる。


「なん、で」


「……あんまり、誰かを傷つけるのは苦手なんだ。だから、せめて寝ててくれ」


 そう言って瀬奈は俺に背を向けてどこかへ行こうとする。きっとどこかに援軍に行こうとしてるんだ。

 自分で蹴ったくせに傷ついた姿を見たくない。そんなことを、思っているように見えてしまって。だから、だろうか。


 ──ほんの少し、ムカついたのだ。


「っ!? お前、まだ──!」


 できるかわからない賭け、パートツー。

 だって瀬奈がちょうど失敗して地面に落ちてしまった札のところによるんだから──発動しろと、そう言ってるようなもんだろう。


「わっかんねぇやつだな! いいぜ、ならオレがお前縛ってゲームセットだ!」


 あー、まずい。

 なんかずっと目がチカチカすんの治らないし、体動かないし。脳震盪というやつだろうか? 知らんけど。


 でも、なんとなくぼけやけながら視界は見える。だから瀬奈が近づいてくるのもわかってて──その後ろに、黒髪の美少女がいるのも見えるんだ。


「──これ、貰っていきますね」


 ──そう少女は、意地悪そうに微笑んだ。

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