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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
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二十八話 思い出のカレー

 結果を語るのが先であろうか、過程を語るのが先であろうか。

 しかしながら過程を語るのならばほぼ一文程度で終わってしまう。──飛行可能な二人に鎖で飛行不可能な二人がぶら下がった。過程、終わり。


「……心臓に、悪かった!」


「お疲れ様です。どうぞ、飲み物を」


 そう言いながら圭さんは岩に置いていた事前に配布された全員分のペットボトルをそれぞれ渡してくれた。


 運動直後というのは水が染みるのだ。


「あ、そうだ。妖鏡さんは『旗』が本物かどうかわかるって、言ってたよね?」


「ええ。そうです。……少し、お借りしても?」


「お願い」


 そう言いながら竜は圭さんに『旗』を手渡した。そうして圭さんは『旗』をもう穴が空くんじゃないかってぐらいに見つめて、一言。


「……どうやら憂い事は晴れました」


「……つまり?」


「──本物です」


 努力が報われた瞬間の人の反応というのは本当にそれぞれで。

 はたから見れば、一人の男子高校生が天へとガッツポーズ、一人の男子高校生が屈んで一息、一人の男子高校生がごろんと地面に寝っ転がり、一人の男子高校生が「よっしゃああ!!」と叫ぶ。

 最初から俺、葛、雷、竜の順番だ。なかなかに奇妙というか珍妙な光景である。


「これでクリア条件は満たした……あと一時間はこの場で待機しましょう。恐らく他のチームも今日は動かないでしょう。明日、この『旗』を守り切る、それだけに専念しましょう」


 というか、他のチームもこれと同じような『試練』ならば誰だって疲労困憊で動けないだろう。事実俺がそうだし。


 他チームは『旗』が本物かどうか見分けられない。もしかすればそういった『術』をもつクラスメイトがいればそうはならないかもだが、基本的に他チームは疑心暗鬼であろう。白米いけるな。


「あー、なんか今日はなんもやる気がおきねぇ……りゅー、今日の夜ご飯ってなんだっけ?」


「転がったままはやめた方がいいと思うよ? 今日はカレーなはず」


 そう言いながら竜は雷を軽く起こそうとしながらしおりを確認する。まあ雷の気持ちはわからんでもない。


「にしても、俺達のとこはこんな殺傷力MAXの悪意しか感じない『試練』だったが、他のチームはどうなんだろうな」


「どうだろ──」


 そう葛と会話をしていると、ふと暗くなる。それはほんの一瞬で、見間違えの可能性が高かったが──同時に大きな音がしたのだ。


「……え?」


 なんだなんだと目を凝らし見てみるとそこには──ごろごろごろごろと転がっている岩があった。


「……えぇ?」


 ごろごろ。ごろごろ。岩は転がることなく森の木々をなぎ倒しながら軽く坂になっている森をどんどん駆けていく。

 それは、どこか一つの方向に向かっているようであった。重力とか、諸々の物理法則を無視して、どこかに。


 ……まるで、俺達めがけて飛んできた矢のようだ。

 そう思っていると、岩はなにか終点を向かたのか、爆音が響き──


「──ぎゃぁああああ!!」


 ──そんな悲鳴が数秒後に聞こえた。


「……向?」


 クラスメイトで、同じ部屋で、友達。

 そんな人物の叫び声が消えたような、気がしたのだった。





 一時間。

 何も起こることなく起こすことなく、無事に一日目の『授業』は幕を下ろした。残る『授業』は明日の三時間。スタート地点は動いていないため、『旗』のあった平地近くとなる。

 そんな状況を残し、俺達は林間学校の寮へと戻ってきた。


「──なにはともあれお疲れ様。まさか今日で全チームが『旗』を確保するとはな」


 お出迎えしてくれた先生はそんな言葉を淡々と言った。驚きなんて全くなさそうな声だ。


 コイツがあのトラップを仕込んだのだと知った今は、コイツの吸っているタバコを取り上げて腕に擦り付けてやりたい衝動に駆られる。もちろん我慢するが。


「わー、物騒だねー」


「麗。……って、ボロボロだね!?」


 いつものように軽口を叩いてくる麗にこちらも軽口で返そうとすると──そこには、あちらこちらに擦り傷や打ち身を作った麗がいた。というか、若干息切れている。


「だ、大丈夫?」


「へーきへーき。ま、これでボク達もゲームクリア……って、油断するのにはまだ早いか。なにはともあれ、蒼達もおめでとう」


「ありがとね。……これもまだ早いかな」


 本命はどちらかというえば明日の対人……ではなく対妖戦だろう。やはり用意された仕組みより、実際に”誰か”と戦闘するほうが何倍にも難しいだろうから。


「……ズルくない? 蒼のチーム。もう安心できんじゃん」


「俺の、ではないかな。圭さんのチームだよ。それに圭さんの力だからね」


 心を読んだであろう麗は少し苦虫を噛み潰したような表情だ。

 ずるい、と言われるが生まれ持った力も育ち身に着けた力も実力のうちだ。


「その意見にはボクも同意だね。……そうか、ボク達も圭ちゃんに見てもらえば……」


「ズルいってそれは!」


「ヒトノコトイウナー」


 作戦勝ちをしようとしているのか、麗は。

 そうしている内に先生は何かしらの準備を終えたのか、『授業』の次のカリキュラムに移る。


「──次は料理実習。カレー作りだ」


「うおお、カレー!」


「カレー好きなの?」


 ──カレー作り。

 昔読んだ漫画で、高校生がカレーを作っていた。地味に憧れだったのだ。


「……カレーって材料は、人参とカレールーとじゃがいもと……豚肉、ぐらいかな。あとはお米」


「家庭によっては違うけど、大体はそれであってるね。あとは玉ねぎかな」


「ちなみに俺は甘口派」


「ボクは辛口かな」


 カレー作りも先程の班で行うらしく、そのまま葛と合流して圭さん、竜、雷と一緒に先生から一班ごとの材料を受け取った。


「カレーは何辛にする? オレは辛さ至上主義者なんだが。百辛とかさ」


「お、敵だね。ハバネロ口に突っ込むよ?」


「速い速い、報復が速い。まあハバネロは美味いよな」


「うわぁ、ドン引き。葛は何辛?」


「いや、普通に中辛とかでよくねぇか。蒼は辛いの苦手なんだよな、じゃあ中和するように乳製品とか入れたらどうだ?」


「へえ!」


 バターとか入れてみようかな。


「あ、妖鏡さん、腕治ったの?」


「ええ。事前に部屋に予備の鏡をいくつか持ってきていたので、それをくっつけました」


「よかった。……料理、僕達だけでやっちゃおうか?」


「流石に何もしないというのは。『試練』でも最後は何もできませんでした、ここでは役立ちたいのです」


 そんな話をしている圭さんの右腕は完全に人の腕のそのままで、まるで何事もなかったかのようだ。技術力、というよりかは妖怪力か。


「……よかった。それでまずは材料を洗うところから?」


「そうですね。野菜を切り、炒めてそのまま鍋に入れて煮込んでルーを入れる……そうすれば完成です」


 圭さんは全員にわかりやすいようにそのまま全てを紙に書いて一人ずつに渡してくれた。有能すぎてちょっと凄すぎる。本当に同年代だろうか。


「あ、じゃあ俺は人参切っちゃうね!」


「そうだな……俺は米を研いでくるよ。実家でやってて慣れてるからな」


「んじゃまオレはじゃがいもで」


「私は豚肉」


「……あれ、僕が玉ねぎ!?」


「さーてと。作業に取り掛かりましょっ!」


 別に涙が出るから嫌とかじゃないよ。本当だよ。マジのガチだよ。


「やっぱり葛は本業?」


「手伝うことは結構あるからな。素人同然……ってわけではないはずだ」


 流石は旅館の若旦那候補。頼りになる。


 そう思いながら少し離れた場所にある蛇口で野菜を洗っていく。ピーラーで剥くとしてもしっかりと汚れは落としておいたほうがいいだろう。隣では葛が米を研いでいる。正直、俺は米の研ぎ方をしらなかったりなかったり。


「このくらいで大丈夫かな?」


「ああ。普段は料理とかするのか?」


「交代交代で料理当番してるよ、寮では。実家じゃあんまりかな」


 小中学校での調理実習は一応全て出席していたので壊滅的に料理が下手なわけではない。ハズ。

 そうして洗った人参を班の料理場所まで持っていって包丁を握る。


「俺の華麗なるこの、えっと、刃? 捌きをとくと見よ!」


「締まりませんね」


「ドストレートっすね!」


 人参を短冊切りだが乱切りだがいい感じに切っていってそのままボウルに。そこには既に切り終えてあったじゃがいもがあった。


「豚肉は一緒にしちゃだめだっけ?」


「確かそのはずです。そろそろ煮込みださないと時間が足りないかもしれません……ので、さっさとしちゃいましょっか」


 そう言いながら圭さんは次の指示を出して竜が鍋を取り出した。そこに野菜を入れて炒めてから水を入れるという流れだ。


 ここからの過程は面白みも特段ないのでとりあえずカットで!





「「「「「いただきます」」」」」


 手を合わせて、三対二で向き合いながら椅子に座って食べ始める。

 なんだろうか、自分で作ったというだけでとんでもなく美味しそうに見える。錯覚的なあれであろうか。


「ん、んー、美味しい!」


 野菜が少し硬いがそれもまた良き。ルーも絶妙な美味しさで、何よりお米がとても美味しい。


「中々に絶品じゃないかなぁ……うーん、美味しい!」


「いやぁ、あんまし普段は料理作んねぇけどこれはこれで良いな!」


「美味しいですね」


「これもまたこれでって感じな味だな」


 味わい深い、噛めば噛むほど……青春の味ってやつだろうか。


 パクパクとしばらくは全員黙食で食べ始める。特段問題もなく料理が作り終わったので俺達のチームが一番に食べ始めだ。


「──爆発した!」


「火ぃ火ぃ火ぃ火ぃい! 消せ消せ! 水持って来い!!」


「ちょ、髪っ! 燃え始め、ぎゃああ!!」


 ──今日も、平和であるな、ほととぎす。


「あ、ちょっと水取って。辛い」


「りょーかい」


「ありがと……ん。ってか、雷もこっから更に辛くするの良くいけるね」


「そうか?」


 雷はそう言いながらスパイスを大量に自分のカレーに入れている。見てるだけで辛くなりそうな見た目だ。

 そんな雷を、周りを見ながら再びカレーを食べる。


「──やっぱり美味しい」


 美味しくて辛い。そんな味のカレーだ。──思い出のカレーだ。


「まるで青春みたいー、的な?」


「……そうだね」


「その目を留めてくれ。地味に傷ついたぞオレは」

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