二十四話 ひどい、さすがに
「桜もお疲れ様」
「ん」
模擬戦闘が終わった後。そのまま荷物を持ってきていたのでその場で解散となり、俺は桜と一緒に寮に帰っていっていた。
麗も寮に、学園長はまだ仕事だからと。もしかして学園長という職業はブラックなのだろうか。
「ってか、まじで桜って怪力なんだね」
あの現象を怪力の一言で済ましていいかは議論の余地が残らされているが、まあとりあえずは怪力でいいだろう。
「それが俺の『固有術』だからな。まあ、頭内みたいに身軽なわけではないが」
そう言って思い出されるのは先程の模擬戦闘での麗の動きだ。
麗はぴょんぴょんと跳ねながら桜を翻弄していたが、その際に壁を蹴って歩いたり二メートル近くはジャンプしていた。バク転とか側転をなんでもないように連続でしている姿は体操選手のようにも見える。
「あれは多分……『術』、だろうな」
「え? 風系とか?」
「いや、身体強化系の『術』を恒常的にかけているんだろう。それが当たり前になるためにもかなり年月は必要だがな」
いきなり身体能力が上がっても対応しきれないだろ? と、桜は言った。
さとりの『固有術』は心を読む、読心術だ。人の次の手を読み相手を翻弄している、その動きが異次元的だった。
相手の動きに完璧に対応した上で自身の刀を的確に相手の隙に当てる。その動きに身体能力で対処していた桜も、俺なんかよりよっぽど凄い。
「……アイツは、」
「? 桜?」
「…いや、なんでもない。それで、蒼は付いてこれそうか?」
「う」
……いや、無理であろう。
俺の身体能力なんて、ちょっとクラスで足が早かったくらいだ。それも中学での話。全体的な身体能力は平均ちょいであったっぐらいで、あんな動きをしていた二人に追いつけるなんてことは流石に言えない。
「まあ俺の身体能力は『固有術』由来だから追いつけるないの話じゃないが……まあ、頭内みたいに身体強化系の『術』を身につけるってのはアリだと思うぜ」
「うーん、ちょっとマジで考えてみるわ」
ああいうのがもし自分を襲ってきたら。そう思うと俺自身も鍛えるなんて次元じゃない細工をしないと無理であろう。自衛手段が物騒な気もするが、じゃなかったら俺なんて簡単におだぶつ火葬の墓場がオチだ。
「……いや、そんな危ない機会がないのが一番だけどさぁ」
自分が傷つかないためには傷ついた時を考えなければいけない。これがあまり好きではない。
「仕方ない、なんて思ったら駄目なのかなぁ」
──好き嫌いで物事を図るのは子供のすることだよ。
そう、昔に言われたことを思い出した。その言葉を否定しようと生きてきたつもりではあるのだが、どうやらそんな俺は高校生活で死んでしまうかもしれなさそうだ。
「……まあ、蒼が危険な時は誰かに頼るのが一番だと思うぞ。お前だって、こっちにきてまだ一ヶ月も立ってない……赤ん坊と同じだ」
「そうだなぁ。じゃ、その時は桜を呼ばせてもらうね」
「──ッ!? お、あ、……ありが、……そうだな」
「?」
でも俺も赤ん坊か……なら勉強しなくてもいいかな。
なんて馬鹿なことを言ったら怒られそうだが。なんて思いながらあと少し先にある中間テストを恨む日々だ。
「いやぁ、あとちょっとで林間学校。ヤバいね」
「そ、うだな! そろそろ林間学校でヤバいな!」
「どした?」
林間学校では俺も桜も別グループだが、まあグループ行動は六、七割程度だ。多いが全てではない。部屋だって大部屋でクラス十九人の男子十人が一つの部屋で寝るらしいし。
他にも色々とクラス全体で行う部分はある。なので俺も桜や向、瀬奈と一緒にといった部分はあるだろう。
「明日辺りに詳しい説明があるんだよね?」
「そう先生は言ってたな」
本日のHRで先生が明日の授業の内一つが委員会決めと林間学校の説明だと言っていた。
委員会……に関してはあまり決まっていない。仕事量が多そうなのはいやだが、目立つのも好きではない。根本的に面倒くさがりなのだ。
──後日、まさかの林間学校で『術』がマジで必須ということを知り、よく『術』も知らないくせにやらなくてはならないことを知り、呪術がないか調べたのは別のお話。
*
「──えーと、これって結局どういうこと?」
「簡単に言うと、作戦会議だな」
そう言ったのは葛だ。相も変わらずその整った顔で冷静に答えてくれた。
──今、俺は北館の五〇一号室にいる。そこの表札には、「北原・伯世」と書かれている部屋だ。そして、そんな部屋に今四人の男子高生、一人の女子高生がいる。
「私達は今度の林間学校でのグループワークで同じチームです。林間学校でのバタつかないよう、事前にこうして集まったほうがいいかと思いまして。そして……」
「僕と葛が同じ部屋なんだ。だからここで集まったほうがいいかなって」
と言いながら茶菓子を出してくれたのは伯世竜だ。白い髪に頭の左右から茶色の角が二本生えている温厚そうな人だ。いやまあ人ではないが。
そんなことを思いながら出してくれた煎餅を食べる。
「確か同じ部屋になったのは二人だけだったろ? 上手い具合にバラされたよな」
そう言ったのは黒髪を綺麗に越しまで伸ばしているイケメンだ。名前は鳴雨雷だ。入学式の時にすっげぇ綺麗な髪だったのを覚えている。
「メンバーは私、北原さん、伯世さん、咲崎さん、鳴雨さん。そしてしなくてはならないことは森の中にある『旗』を確保し最後まで持っていること、です」
「……最後まで?」
「えぇ」
そう疑問を言うと、圭さんはしおりの一番後ろにあった地図を拡大印刷したと思わしき紙を取り出した。すっごい事前準備だ。
「今回は四つグループがあり、旗も同数。しかし、この内のどれかがブラフ。……つまる所、確実性を取るのならば四つの『旗』を全て確保することが一番です」
……なるほど。四分の三だけじゃ安心できないってことか。まあ、確かに今回の先生の企てた試練で合格できなかった場合補講が言い渡されている。ひどい、さすがに。
「俺達はどんな路線で行くのがいいか……というか、妖鏡がリーダーをしてくれないか?」
「え?」
そんな葛の言葉に圭さんは少し困惑したような表情を取る。けれど、葛の言いたいことはわかる。
一班で一人リーダーを決めなくてはいけない。しれに、確かに圭さんは向いていそうだ。
「俺としては、になるが妖鏡は基本的に冷静で、そういうのに向いている……ように、俺は思うんだ」
「俺もじゃあ推薦で! 圭さんってほら、なんかこう、すっごいお姉さん感があるし!」
「お姉さん感に関してはよくわからんが、オレも同意見だな」
「僕も、かな」
「……そう、ですか。でしたら、私が責任を持って引き受けましょう」
満場一致。これぞ人徳だろうか。妖怪だが。
そうしてリーダー決めも終わり、そのまま話は戻って作戦を決める。
「にしても、試練なんて言うから他チームと戦うだけ……じゃ、なさそうだよね」
「簡単にデスゲームっぽいことをやらされんのにも驚きだが、確かに蒼クンの話にはオレも同意だな」
「蒼でいいよ」
「そうか? じゃあ呼ばせてもらうな」
よし、俺も雷って呼ぼう。
しかし、『旗』を持っているとどこかのチームとぶつかる可能性がある。『旗』を確保する過程で『試練』があるそうだが、しかしながらその詳細は語られていない。普通に全部教えてくれ。
「その『試練』ってのはきな臭そうだな……妖鏡はなにか聞いてるか?」
「いえ、なにも。恐らく円羅先生が何かしら考えているでしょうが……そうすると、最初の『旗』の場所が指定されているのも同じです」
そう、チームごとに目指すべき『旗』の場所は決まっており、それは他チームとの共有は禁じられている。なので、『試練』というのは俺達専用の可能性がある。
「『試練』なんて言ってるから僕達が苦手分野を付いてくるって思うけど……」
「そうですね、私達の扱える『術』などから分析されているでしょう」
「……これは俺からの提案なんだが、全員で扱える『術』を共有しないか? 個人情報ってのはわかってる」
「俺、はいいけど……」
葛の声のトーンからして『術』というのは誰かに簡単に明かすようなものではないのだろう。麗が自身のことを『さとり』だと明かしたときも、どこか躊躇いながらであった。人間である俺にはよくわからない何かがあるのだろう。
「言い出しっぺ……俺は氷系統の『術』が得意だ」
「……あれ?」
──そういえば、一番最初にあったときに、葛は『先祖返り』と言っていたような気もする。
そう思い葛の方を向くも、葛はこれ以上は無いと言うように次に言っている圭さんの方を向いていた。
「私は……真偽を見分けられます」
「真偽? ……読心みたいな?」
「いえ。似たようなこともできますが……私は嘘か真実かがわかります。読心という程ではございません。──しかし、今回の内容であれば『旗』が本物か偽物かがわかると思います」
「! マジで!?」
圭さんのその『術』はもしかしたら今回の特攻ではないだろうか!? これはもう俺達の補講回避の未来が秒読みだな!
「マジで心強いな、それ。流れで言うのも何だが……オレは雷系統の『術』が得意だ。あと、空が飛べる」
「ろ、ロマン……!」
「だろ?」
イケマンの雷使いでなんなら浮遊もできるのか。すごいな。
「僕は実は『白龍』っていう『種族』で、龍の姿になれるんだ」
「……く、わしく!」
なんかこう、十代の男心がすごく擽られそうだ。ほら、俺以外にも葛も雷もキラキラした目で見ている。ちょっと圭さんの瞳が冷たいが。
「えーと、力がちょっと強くて、あと空が少し飛べて……あ、けっこう速く移動できるよ!」
うん、純粋にすごい。なんだろう、これが標準装備なのか? だとしたら俺なんて、俺なんて……!
「うぅ、一番最後……俺はあんまり『術』が得意じゃなくてね、『拘束術』がちょっとできるくらい」
「へぇ、珍しいな。『拘束術』って向き不向きが大きいからできない奴はかなりできないぞ。オレもできねぇし」
「そうなの?」
ほんの少しだけ自己肯定感が上がりました。
でもその後から麗や桜と練習して成功率が上がったが、それでも全身単位で拘束というのはまだできていない。並行で封印術や結界術の基礎を座学で教えてもらっているが、できる気がしない。
「──どういった『試練』が待ち受けているか、それはまだわかりません。それでも私達は勝ちましょう」
「……そうだね。流石に、負けを潔くは認めたくないや」
「流石に俺もな。負けてやる気はないぜ」
「勝ち負けに拘る性格でもないけど……どっちかって言うと勝ったほうがスッキリするよな」
「僕も、勝つつもりだよ」
あの日が宣戦布告ならば、今日のは円陣のようなものだ。──絶対に負けないと、そんな決意の共有だ。




