二十一話 超常的な超能力
──これは、入学してから二週間が立った頃の話である。
「……それで、その、なんで俺だけ呼び出されたんですか?」
本日は一週間に一度ある”とある授業”がある日であった。そして、本日の朝礼で俺は事前に先生から呼び出しを食らっていたのだ。
先生も先生──学園長である。
「ああ、ご自由におかけください」
「はぁ……じゃあ遠慮なく」
なんとなく高そうな革で作られたであろうソファに座るとビックリするぐらい沈む。ふっかふかだ。というか、この部屋にある装飾品や棚に飾られている物は見るからに高級品ばっかりだ。お皿とかある。なんだあれ。
「本日は一年五組は『術』に関する授業でしょう?」
「そうですけど……」
そう。とある授業──それは『術』に関して学び、実践するという授業であるのだ。連続して二時間。三時間目と四時間目が枠である。
そして、……これに関して俺はまっっったくわかっていない!!
「これから四年間も裏界で過ごすならば避けられないでしょう……まずは術の説明から、ですかね」
「よろしくお願いします!」
パン、と学園長先生は手を一つ叩けば、あたかもそこに始めからあったかのようにホワイトボードがどこからともなく出現した。
俺は昔から理科が苦手だったから合っているかわからないが、物理法則というのを考えないほうが良いのだろうか。
学園長先生はホワイトボードにマグネットで貼り付けられていたペンをキュキュと音を立てながら書き込んでいく。
……字、綺麗だな。
「『術』という概念は、今風で言うならば超能力的なものだと思っていただいて構いません。そして、『術』には主に二つの種類があります」
なるほどなるほど。最近のラノベやアニメでよくある学園異能力モノだったのか、この話は。けど、それも実際に見たことがないからなんとも言えないが。
「誰にでも使える通常の『術』と種族特有の『固有術』。この場合に私は天狗ですので、天狗固有の術を使えます。主に天狗であるならば風を操る『術』ですが、これに関しては通常の『術』にもありまして、しかしその場合は基本的に固有術の方が威力が強いです」
……なるほど?
つまり『固有術』>『術』なのだろう。そして、この『固有術』ってのが今では数少ないらしい『種族』を持った妖怪だけが使えるものなのか。血筋的なアレか。
「そうですね……『術』ならば蒼君にも使えるかと」
「え!? マジで!? ですか!?」
「マジですね。『術』ならば例え人間でも『種族』を持たない妖怪であっても扱うことができます。そして、君にはそれを身に着けていただきます」
「あれっ、義務!?」
権利ではなく義務と知った瞬間に気分が下がるの、なんでだろうか。学校で内職するときは良いのに家に帰った時にやりたくなくなる的な、あれか? 違う気がする。
学園長はそんなことも特段気にせずにどんどんホワイトボードに書き込み続ける。
「『術』を俗に言う属性でわけるのでしたら木火土金水と別れていまして、まあ他にも色々とあるわけですが主にはこの五つですね」
「なるほど……なんとなく察せますね」
木は木属性、火は炎属性、土は土属性、金は鉱石とか? 水は水属性だろう。風とかは応用なのかな。
「そして君に覚えてもらうのは──この五つではありません」
「えっ!?」
さっそく王道から外れるの!?
「君には結界術や封印術、拘束術を覚えていただきます」
「んー、物騒!!」
物騒だし陰湿そうだしなんか暗い! なんだろうか、俺ってそんなに性格悪いわけじゃないんだよ!?
「でも、実際になんでソレなんですか?」
「簡単に言うと、君には自衛の手段を身に着けてほしい。そして、それに一番てっとり早いのは相手を動けなくすること。……『術』を習って一年未満のあなたが攻撃系統の『術』を身に着けたとてどうこうできる、というのは楽観的ですから」
「う、……そう、ですね」
言うならば今から格闘技を習うようなものだろう。だとすると、例え楽観的に見積もって身についたとしても、それは咄嗟に誰かに発揮できると言えるかと聞かれたら無理であろう。
それも、格闘技ならまだしも習うのは超常的な超能力である『術』だ。
「……でも、俺が今から習うとして、色々と間に合うんですか?」
間に合う。それは近しいもので言うならば、林間学校だろう。
サバイバルと言われていて、なんなら麗からも使うとほぼ確定で言われている。だからこそ、身に付けないとまずい。
「そうですね……一つ、ならば、間に合うでしょう。だからこそ、あなたにはまず──拘束術を」
「拘束」
「はい。襲われた時、終わって相手を縛る時、何かと拘束というのは便利ですから」
そう言いながら学園長は自らの和装の懐に手を入れて、一枚の札を出した。書かれているのは、鎖のような模様だ。
そして、それを一枚取り出して──俺の方へと放った。
「? ……っ!?」
何があったかわからないままに、札は俺の方へと一直線に飛んでくる。
紙ってこんなにきれいに投げられるんだな。なんて、そう思っていると──体が、動かなくなった。
急に体の自由が効かなくなり、俺の体は何も理解しないままにソファへと倒れ込む。
「へ、ぇ?」
──理解が、追いつかない。なんだ、何が起きた、どうしてこうなった、なんなんだ。
そう思いながら端から見れば間抜けに見える体を動かしていると、ふと俺の目が自分の肌を捉える。
「……ひっ」
──肌には、鎖の模様が走っていた。
鎖の模様が、腕に、足に、顔に、腹に。全身に走り巡り、俺を縛る。
「......これが、拘束術、ですか?」
「理解が早いですね、良いことです」
学園長はそう言ってニッコリと笑い、そのままパチンと指を鳴らす。その瞬間に、俺の体は自由になる。
.....急に自由になると、一瞬だけ戸惑って動けねえ。
「ん、.....これを、覚えると?というか、覚えられるんですか?」
「覚える覚えないではなく──覚えろ」
少し、低い声でそう言われる。珍しい、命令口調であった。それに少し呆気に取られ、すぐに自分を取り戻す。
覚える、ってのとは当然俺がこれを使うってことだ。使える未来を、想像しなくてはならない。
「……努力しまーす」
努力は嫌いだが、言っとかなきゃダメだろう。
*
「──それで蒼だけ別授業だったんだ」
「そーなの。緊張とか諸々が混み合って、もう今日は帰りたい気分だよ」
「それは流石に許されないねー」
そんな会話をしながら、麗と一緒に昼ごはんを食べる。基本的に昼は食堂と四年の中で決まっていて、作りたい時だけ自分の分のお弁当を作る。
今日の俺には気力がなかったのでこうして麗と一緒に食堂ナウだ。
「ま、一朝一夕で身につくものではないけどさ、それでもやろうと思わなかったら絶対にできないものだからね。君の努力が実ることを陰ながら望んでたりなかったりするよ」
「いや、ちゃんと望んでくれると俺個人としては嬉しいんだけどね」
そうな軽口を叩きながら頼んだ定食を食べていく。ここの食堂はマジで美味いし安いのでコスパ最強だ。
「そういえばさ、不躾だけど……心を読むってのが『固有術』なの?」
「そうだね。ボク達『さとり』は心を読むことができる、それは種族特有の『固有術』だ。ボクはそこまで苦手なものがなくてね、その上で一応普通の『術』も扱えるよ」
こんな風に、なんて言いながら麗は人差し指をコップの方に向ける……そうすると、そのコップの中に水が注がれた。
「え、すごっ!」
「まあキチンと洗浄されてないから飲まない方がいいけどね。それに、ボクは苦手じゃないけど得意でもない……『術』による体力の消耗が、『種族』持ちは多いんだよ」
「なるほど」
言うならば、そこである意味バランスを取っているのだろう。『術』の強さも『固有術』の方が強く、燃費は良い。代わりに『種族』がある妖怪はそれ以外が向いていない。オールラウンダーには『種族』が無い方がいいってことか。
「まあボク自身の目標がオールラウンダーってこともあってある程度は克服してるよ。威力を絞ったりとかしてね。……にしても、拘束術か」
「うん、それが俺が覚えることになるんだけど、麗はできる?」
「できなくはないけど、これもやっぱり体力の消耗が多いね。長時間は難しい。っていうか、学園長の全身拘束とかはかなーり練習きたと思うよ?」
「マジか」
あの人ってなんとなくひしひしと伝わるが、やっぱり凄い人なのだろうか。あの時、まーじで動けなかったからなぁ。
「そのレベルまで行くにはあと一週間ちょいじゃ無理だろうね。……ま、それもこれも蒼の才能がものを言うと思うけどさ」
「才能ねぇ……ありそう?」
「こればっかりは実践してからだね。なんだったら、放課後に試してみる?」
「…………え? いいの?」
「ダメの理由がないじゃ無い。んじゃ、先生に言って体育館を使わせてもらおっか」
「そごでしてくれるの!?」
「してあげるよー。……そうだな、鬼城院君も呼んだら? 彼君が人間だって知ってるんだろう?」
そう言われて、桜のことを脳裏に浮かべてみる。桜は──自分のことを、『茨木童子』だと言っていた。
「有名人だよ、彼は。鬼城院家の次男坊、鬼城院桜。『酒呑童子』な兄とは違い『茨木童子』、これは父親からの遺伝だろうね」
「じゃあ桜のお母さんが『酒呑童子』なの?」
「そうだよ。──鬼城院家の『酒呑童子』。有名だし、悪名高くもある……これ以上は陰口になっちゃうがだから言わないけどさ」
お兄さんがいると、そしてお兄さんが『酒呑童子』だとは聞いている。けど、どうやら麗の口ぶりからして一番有名なのはお母さんらしい。一体どんな人なのか、想像も予想もつかないが。
「放課後……じゃ急すぎるから後で話しかけてみるね」
「ん、じゃあボクは先生に許可取りに行くかなぁ」
その後は最近のテレビやらトレンド、そんな話をして昼休みの終わる十分前に教室へと戻ったのだった。
*
恐る恐る声をかけて、話を伝える。そうすると、桜はなんでもないような顔で、
「わかった、放課後な」
と言った。
「い、いいの?」
「? ああ、別に構わないが……」
「イケメン……」
イケメンの中身はやっぱりイケメンなんだろう。
林間学校編、スタートです。




