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人妖!  作者: 館内放送
入学編
22/25

幕間 『教員室にて』

 ──蒼が桜、瀬奈、向に宣戦布告をしていた時と同時刻、教員室にて。


 本日は部活動と委員会共に無く、一年五組の担任である円羅凪(えんらなぎ)は自身のパソコンと睨み合いながらすぐ側まで迫っている林間学校について考える。

 ──なにしろ、彼のクラスは問題児だらけだ。

 教員会議で揉めに揉めて問題児をどう振り分ける(おしつける)考えた結果、ヤバそうな連中を一括で引き受けるという貧乏くじを引いてしまったのである。


 あの日に風邪を拗らせていなければ。そう考えたって後の祭りだ。


「凪先生。少し授業のことでお話したいことがあるのですが、今大丈夫でしょうか?」


八百比(やおび)先生、どうしました?」


 そう円羅に話しかけたのは、とても長身な女であった。

 百八十はあるであろう身長にヒールを履き、高さで言えば円羅よりも高い。青がかった髪をハーフアップにまとめている姿はまさしく絶世の美女である。──しかしながら、そんな彼女の容姿のみに惚れたものは老若男女問わずにひどい目に合うと決まっているのだ。


 八百比玲奈(やおびれな)。二組の担任であり、数学の教員である彼女は──『人魚』である。

 美しい声で歌を歌い、人を惑わし船を堕とす存在。しかしながら、その美しさに抗うことがきでるのは数少ない人物であろう。


「五組の数学が少し遅れてしまい、できれば歴史の授業を頂けませんか?」


「なるほど……はい、大丈夫です」


 この日でいいですかと互いに予定表を見ながら日程を決める。そうして授業の進行に合わせて調整するのだって教員の仕事の内であるのだ。

 そのまま八百比は自分の席に戻ろうとして──ふと、立ち止まった。


「……何か?」


「いえ。ただ、私と凪先生が同じ学年の担任を持つだなんて、始めてじゃないですか?」


「……」


 ここで円羅は露骨に嫌そうな顔をした。それはもう、大げさに、大胆に、大っぴらに。隠されることのない不機嫌は、見ただけで話しかけるのを断念してしまいそうな表情である。

 ……しかしながら、ここで察して引き下がるような女であれば、八百比玲奈という女が問題児扱いされることはなかったであろう。


「うふふ。この学校って担任が変わらないから、一度も被らないと一緒できないですよね。私がここに務めて三……四()年くらいですけど、凪先生とも──神楽先生とも」


「──わ、たし、ですか」


 話しかけられた哀れな被害者は、円羅の隣で仕事に勤しんでいた石燕神楽(せきえんかぐら)りようであった。彼女は自身の2つにまとめてある髪を弄りながら、八百比の質問に答えていく。


「そう、ですね。八百比先生とご一緒したことは無いかと」


 嫌そうなのに見えていないのか見えて無視しているのか、八百比は石燕に絡み続ける。


「じゃああれってことですね、私と神楽先生はもっと仲良くなる余地があるのねっ。今度休日一緒に出かけません?」


「は、はぁ。……でも、その休日は……」


 石燕神楽。一組の担任であり、英語の教師である彼女は──『鈴彦姫』である。桃髪の髪を二つに下にまとめ、それを鈴で留めている。


 石燕はどうにかこうにか八百比から逃げようとするも、しかしながら察しの悪いと言うよりあえて聞いていないふりをしている八百比はうざったらしい。


「──玲奈サン、少し二組のことでお話してもいいでスか?」


「あ、秋人(あきひと)先生。どうかしましたか?」


 そう八百比に話しかけたのは、諏訪野秋人(すわのあきひと)だ。四組担任であり、理科教師。そして──『朱の盤』である。銀色の髪を襟足まで伸ばし、青いベストを羽織っている。


「いや、少し二組の子のことで話したいことがありまして。って、なにやってんスか?」


「えー。私はちょっと神楽ちゃんとお話したくて……」


「え、気安く下の名前でちゃん付けで呼ばないでください。セクハラで訴えます」


「早いな、訴訟が。……秋人先生、俺からも四組で話したいことが」


 円羅は少し会話にはいるのが嫌がりつつも、それでも話さなければいけないことがあり諏訪野に話しかける。嫌がりつつも。

 諏訪野秋人は教員師でも人気である。新任であり、明るく、そして人……妖怪懐っこい性格であるため、基本的に年上から人気であるのだ。そして、円羅も円羅で諏訪野のことは好ましく思っている。たとえ入りたくない会話にいようとも。


「──うわあっ! すいません、あぶないっ!!」


 そう円羅が諏訪野へと近づいた瞬間、女性の叫び声と共に二人の間に段ボールが挟まる。──それが数十個。


「っ、!」


「あぶっ、ね」


 パシッ、と二人はその段ボールが地面へと不時着するその瞬間に段ボールを掴み、なんとか拾い上げた。


「すいませんすいませんっ! わたしったら、またやっちゃった……!」


「……いえ。大丈夫ですよ、更科先生」


「ううぅ……」


 両手で顔を隠しながら涙声を出しているのは、赤髪を斜めにカットしたショートヘアの女性だ。気の強そうな容姿をしているが、しかし少し涙ぐんでいる彼女の表情を見れば誰もそうは言えないであろう。


 更科結衣(さらしなゆい)。三組の担任であり、社会の教師。そして彼女は──『鬼女紅葉』である。

 常日頃はその角を隠しているから誰にも気づかれないが、彼女は立派な『鬼』の種族であるのだ。だからこそ、段ボールを同時に十個積み上げても大丈夫なのであろう……しかし、それも躓いてしまったら意味がないのだが。


「これ、今度渡さないといけない教科書でぇ……」


「だったら余計に気をつけてください」


「はい……すいません」


 彼女はそうして再びヒョイと段ボールを持ち上げる。数十キロはあるであろうそれを、ヒョイと。

 諏訪野はそんな様子を見ながら苦笑して、ふと円羅の方を向く。


「……にしても、少し今年の五組はアレですね……うん」


 諏訪野はどこか気まずい表情をしながら、そう言った。彼もまた五組の理科の科目を持っていて、そしてどんな生徒が属しているかをなんとなく理解している。


「……知ってますよ」


「いや、それでも……まさかの『御三家』二つに火山家とか。それに、問題という点なら『鏡割り』の生き残り──そして、人間」


 稲荷向、鬼城院桜、火山園(ひやまその)、妖鏡圭──咲崎蒼。

 問題児という点で言うならば、性格的にこの学校にいる全生徒が問題児であるのだが、その上でも家柄諸々が絡んで問題児ということなら『御三家』は別格である。

 それに、この日本の裏界で絶大な財産を有し、ここ百年で成り上がった火山家。さらに問題が舞い込んでくるという意味であればあの最悪にして最低な事件と悪名高い『鏡割り』の生き残り。


 ──最後に交換留学の『人間』。

 『人間』という種族は、問題の大きさや重さだけでも別格であろう。当の本人はそういった自覚なくのほほんと生活しているのが余計に円羅の悩みと怒りを増している。


「他にも『さとり』の生き残りがいたりと問題は山積みですが……んなの、秋人先生もそうでしょう」


「あはは。こっちもこっちで訳あり事情あり癖ありな生徒が多くて……結局、どこもおんなじそうでスね」


「でもそういうオモシロイ子、私好きです」


「……そうですね」


「そうですかぁ? やっぱり、問題とかはわたし好きじゃないです……」


 結局のところ、この学園で働くというのはそういうことなのだ。そういった問題児を相手に学びを解く、それがこの学校の教師としての覚悟。それはもちろん、円羅だってわかっていて、やろうとはとっくのとうに決意している。

 そう思いながら、各々が作業に戻ろうとすると──


「──え。俺抜きで一年の教員集まってました?」


「あっ、悠太郎(ゆうたろう)先生!」


 教員室に入ってきたのは、赤がかった髪にホイッスルを首から垂らした好青年である。

 江湖悠太郎(えこゆうたろう)。六組担任の、体育教師であり──『化け火』である。


 ──基本、境妖学園の教員は『種族』を持っている。

 それはかつて『種族』を持った生徒がこの学園に恩を返そうとするのが理由だったり、そもこの学園の教師になるための条件である能力が『種族』を持ったものが有利であったりと、様々だ。


 ──円羅凪。五組の担任であり、社会教師。──『死神』である。


「なんか仲間はずれにされた感が……まあ、いいですけど」


「いや、仲間はずれってわけじゃねぇんっスけど……あ、だったら今度、一年の教員で飲みに行きません? 教員寮でもいいですけど、一年の情報共有もしたいですし」


「いいですね! 私が予約しちゃいます。神楽ちゃんも行く?」


「二度目ですよ、気安いです。……そうですね、私も行きたいです」


「わ、わたしも、……行きたい、です」


「……はぁ。俺も行きますよ」


「お、円羅サンも? じゃあ全員で行きましょう! 俺、肉がいいっス!」


 境妖の近くに焼肉店は三店舗ほどある。高校が近いので、部活の試合が終わったあとの打ち上げなどで利用されることが多いのだ。そこの内一つが個室があり、そこでは教員での打ち上げなどが年度末に行われていたりする。


「そういえば、会員証どこやったか」


「まあ八百比先生が予約してくれるらしいんで、俺等は別にいいんじゃないですかね」


 自身の財布の中身を見ながらそんなことを思う。

 今月のお給金が入ったばかり。そこからタバコを買ったとしても焼肉に行くことはできるであろう。


「──ずいぶんと、丸くなりましたねぇ」


「……教頭先生」


 円羅の後ろには、和服姿の()()()()老人が立っていた。名を比叡大和(ひえいやまと)、この学園の教頭を務めて数百年の男である。


「いえいえ、少し盗み聞きを。いやはや、円羅先生も新任の頃と見違えるようになりましたな」


 新任。そんなの、もう百年は前の話だ。

 ──あの頃の自分は、虚ろであった。

 振り返りたくもない過去を掘り返され、少し円羅は不機嫌な顔をするも比叡はそれを飄々とかわした。いつものように、他者の掘り起こしはするくせして自身については何も探らせない。


「……はぁ。垢抜けってやつじゃないですか?」


「…………垢抜け、は、違うのでは?」

幕間は三人称視点で書こうとしてるんです。最近、三人称視点が苦手なことに気づきました。現場からは以上です。

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