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人妖!  作者: 館内放送
入学編
19/27

十八話 言わなきゃいけないこと

 部活動見学は終わり、教室へと戻ると──そこには、ブスくれた顔の葛がいた。顔立ちが良いからか、そんな表情でもイケメンである。


「……えーと、その……あのあと、どうなった?」


「……俺の部活は理科部だとよ」


「あれま」


「あれま、じゃねぇだろ。見捨てやがって」


 どこか声に怒気を孕んでいる葛は自身の鞄に荷物を詰め終え、ため息を付いた。

 いやぁ、申し訳ないとは思ってるよ?


「ったく、二度と見捨てるなよ」


「善処するね」


「らじゃらじゃ〜」


「……」 


 反省はしています。けれども後悔があるかどうかと問われれば──無い!


「……お二人は北原さんを置いていったのですか?」


「……まあ、そう、なっちゃうね。いや、あの理科部の先輩押し強すぎだって!」


 思い出すのはあの桃色髪の先輩だ。

 押しが強い、というより押し売りをしていた先輩。あの時の周りの反応からしてああいった態度がいつもなんだろう。デフォルトであれかと思ってしまうが。


「ああ、私も入部届を押し付けられました」


「あの先輩全員にやってんの?」


「うへぇ、あの先輩俺は苦手かも……」


 押し付けられた入部届には部活動の欄に「理科部」と印刷されている。これを一体何枚印刷したんだろうか。


「ま、別に理科は苦手じゃないから良いけどよ……んで、三人は何の部活にするんだ?」


「俺はやっぱり陸上!」


「私は……今のところは。強いて言うならやはり新聞部でしょうか」


「……ボクは、まだ決まってない。けど、美術部の先輩に入らないかって言われたから、そこでいいかなった」


 そういえば、あの桜木と呼ばれていた先輩に麗は勧誘されていた。こう、麗の秘められた才能に惹かれたのだろうか。才能があるかは知らないが。


「ボクもそういった芸術への腕前は普通だよ。そりゃ技法とかは覚えてるけど、だからってセンスと呼ばれるものはボクにはないね」


「美術部の部員が全員センスとか才能があるってわけでもないだろう。好きだからそこに所属してるんじゃないか?」


 俺は無理やり好きにならされそうだが。と、葛はボソっと付け足した。ごめんて。


「俺は明日入部届出そっかな」


「でしたら私も。それに、部活動は途中入退部も、年度での変更も受け付けていますからね」


 この期間は自分の担任に入部届を渡すだけで済むが、この期間をすぎるとさらに顧問とその部の部長を通さなければならないのでちょっと面倒なのだ。部屋に置いている入部届に名前を書いて明日提出してしまおう。

 そう思いながら、俺も帰宅の準備を進める。


「そういえば圭さんは何館なの?」


「西館です。愛さんと同じ部屋ですね。三人は席近かったでしょう?」


「へえ、一緒なんだ」


 脳裏に思い浮かべるのはあの紫髪の小悪魔のような、けれども確かな強さを持った少女だ。なるほど、この二人が同じ部屋なのか。

 ──これは余談だが、俺自身もこの間知ったことになるが南館には五組は俺達しかいないらしい。


「葛は北館だよね?」


「ああ。伯世と一緒だ」


「……あれ? 二人部屋?」


「北館と東館は二人部屋なんだよ。四人部屋は西館と南館。で、ボクがいる旧校舎棟が一人部屋だね」


 なるほどなるほど。なんとなく理解してきたぞ。というか、部屋割りとかは完全に学校任せなのか。ランダム……かな。


「どうだろうね。何かを基準に決まってる可能性も無きにしもあらずだよ」


「そうかも。……そういえば、旧校舎って一人部屋なんでしょ? それってなんか事前に申し込むの?」


「……違う。何かしらの『事情』 がある生徒だよ、それを先生に申請したら入寮できるんだ」


 事情? つまり、それはどちらかというと「一人部屋にいたいから」じゃなくて「二人もしくは四人部屋だ無理」ということなのだろうか。

 でもなんで麗が?


「……ボクは『さとり』って言っただろう? だから四六時中人の心の声が聞こえるんだ。だから、部屋くらいはそんな”騒音”は聞きたくないんだよ」


 ──騒音。

 それは、そうだろう。考えれば、誰にだってわかることだ。たとえ人の内面であろうと、聞きたくないものを永遠と聞かされ続ける。そんなの、俺だったら絶対に嫌だ。


「生まれついての体質のようなものだし、全部今更だけど……それでも一人部屋で至近距離に誰かがいられるよりはマシだから」


「……大丈夫?」


「大丈夫、だよ」


 そう言う麗の表情はどこか暗い。それがどこからくる感情かは俺はわからない、けれどそれでもそれ以上は聞いてはいけないとそう思った。

 ……『事情』。つまりは、そういった種族の妖怪が学校へ通うための寮であるということか。


「咲崎さんは南館でしたよね」


「あ、そう。四人部屋で桜と向と瀬奈と一緒なんだ」


「……なるほど」


 ……やっぱり、なのだろうか。桜と向の名前を出すと、圭さんは少し硬い表情をした。

 うーん、そんなに有名なのか? 反応からして悪名ではないだろうが、それでもどういった生い立ちをしているのかが聞いただけで理解されるというのはやはり俺には別世界すぎる次元だ。


「……いえ、なんでもありません。これは、決めつけですし、失礼に当たる。……咲崎さん、一緒に帰りませんか?」


「……え? 俺? で、いいんですか?」


「ええ。できれば、貴方と」


 そう言った圭さんの瞳は──どこか、張り詰めたような感情を宿していた。


「……じゃ、葛はボクと一緒に帰ろうか。見送ってよ」


「別にいいが……」


「──わかった。一緒に帰ろう、圭さん」


 圭さんの目を見つめながら、そうはっきりと答える。ここで目をそらすのは、きっとダメだと、そう思ったからだ。


「……なんか告白みたいな流れだね」


「こっ!? 何言い出すんだよ麗!」


「勘違いをさせてしまったのならすみません。そういったものではなく……」


「それはそれで傷つくやーつ!」


「……ったく」


 わいわいがやがやと。

 結局、下校時刻を知らせる鐘がなるまで四人で騒いだのだった。





 二人とは別れ、そのまましばらくは圭さんと二人で帰路を歩いていく。


「それで、本当に大丈夫ですか?」


「え? あ、大丈夫だよ。俺もそこそこ頑丈だからさ!」


 カルシウムはきちんと取ってきたつもりだ。それに打ちどころも良かったのか、今のところはたんこぶになる様子もない。もし跡になりかけていたら冷やせば大丈夫であろう。


 大丈夫だと見せるように前髪をかきあげておでこを晒す。そうすると、まだ冷たい風が当たり少し寒い。


「あ、そろそろ分かれ道だね」


 見えてきたのは南と西を分ける分かれ道だ。俺と圭さんの寮からここでお別れであろう。そろそろ話を切り上げようと圭さんの方を見ると彼女は──とても苦しい顔をしていた。


「……貴方は──」


 何かを言おうとして、それが言っちゃいけない顔をして、だから蓋をしようとして。そんな、表情だ。


「……圭、さん?」


「……いえ。なんでも、ありません。──そう。なんでも、ないのよ」


 ──わからない。


 俺には、なんで圭さんがこんなに苦しそうな顔をするのか、なんでそんな辛そうな笑みを浮かべるのか、わからない。


「──」


 なにか言わなきゃいけなかった。でも、そのなにかは声にならなかった。──それでも、言わなきゃいけないことは、ある。


「──また明日! また明日、教室で!」


「……はい。また明日、教室で──蒼さん」


 そう言って互いに手を振り、別れる。

 一度だけ振り返れば、そこには少し笑顔の、そう見える圭さんがキラキラと夕日に照らされていた。





「──どうか、私に貴方を憎ませないで」

 そんな声とパキリとひび割れた音は、誰にも聞かれることなく太陽と共に沈んでいった。





 カチャリと鍵が回る音と共にドアノブをひねる。まだ四月だからか、ドアノブは冷たい。静電気で一度手を離してしまい、まるでそれが拒絶されたように思えてしまう。


「……」


 部屋に入り靴を脱ぐ。既に三人分の靴が玄関には揃えられており、ルームメイトが帰宅していることを知らせた。

 そういえば、今日は三人は放課後になにかするでなく直に帰ると言っていたことを思い出した。


「……」


 とりあえず、手を洗おう。そうしないと朱によく怒られるから。たとえこの場に居なくとも、朱の嫌がることはしたくない。

 声が聞こえるリビングではなく洗面所のある別室の扉を開く。そうすると──そこには桜が居た。


「……帰ったらただいまくらいは言ってくれよ」


「……そう、だね。ただいま」


 何と言うか、そういうのは憚れたのだ。わからないが、本当にここを「帰る場所」にしていいのか、わからなかったから。

 ──あの圭さんの表情が、まるで俺を許さないと言っているように見えてしまったから。


「……何かあったのか?」


「いや、……何にも、は違うけど。それでも誰かに何かされたとか、そういうんじゃないんだよ。──ただ、やっぱり俺はここに居て良いのかなって」


 そう零すと桜は少し驚いた表情をした。そして──


「なに弱気になってんだよ」


「……へ?」


 パチンと、その両手で俺の頬を挟んだ。

 一瞬呆気にとられ、状況が理解できなかった。けれどすぐに体制を理解する。挟まれたからか少し前のめりで倒れそうになるが、桜の両手で支えられた。力強い。


「えーと、この体制、何?」


「……ひっでえ顔」


「いや! 三人に比べると劣るかもだけど! そこまで酷くないはず!」


 美形とまではいかなくとも見ていて見苦しいものではないはず、だと信じて十五年間生きてきた。とうか、頬を挟まれれば誰だって良い顔ではなくなるだろう。


「まあ顔立ちなんて良いんだよ」


「それを言うのは決まって顔の良いやつなんだ……!」

「話が逸れたな。──だから、なに弱気になってんだ話だ」


 ……弱気。

 凹んでるとか、沈んでるとか、そんなにわかりやす表情をしていたのだろうか、俺は。


「……俺に打ち明けたときの”強さ”はどこにいったんだよ」


「……え?」


「初対面で、何言われるかわかんねぇのに、お前は俺に言っただろ。……そん時の覚悟とか諸々、どこいったんだよ」


「……それは」


 覚悟が、どこに。

 ──確かに俺はあの時先生に見られた時、上等だと、そう思った。それはきっと、先生が試すような目をしていたからだ。ただ、今日は違った。


『貴方は──』


 そう言おうとした圭さんは、辛く、苦しく──悲しそうだった。俺ではない誰かを見ていて、確かに俺に対する感情は暗かった。それがなにかは俺にはわからないけど、それでも──あれは拒絶だった。

 でも圭さんはそれを飲み、噛み砕き、嚥下した。言わなかったのだ。言いたくて、拒絶したい気持ちを全て押し殺して、呑み込んだのだ。


「……例えばさ、自分が嫌われてるって実感したら、桜はどうする?」


「え?」


 頬を挟んでいる桜の手をどかし、そう問うた。桜は一瞬だけ考え込み、そのままさらっと言った。


「……何もしないな、俺なら」


「……無視ってこと?」


「単純に言うならそうなる。俺の家柄から俺を初対面で嫌ってるやつなんて大多数だったから、そういうのを気にしてたらやってられねぇよ。──この理論、蒼にも当てはまると思うぜ」


「……そんなに嫌われる性格かな」


 好かれるとは思っていないが、そんな見ただけで拒絶反応が出るような性格なのか……


「いや、違うって。性格じゃなくて」


「わかってるって、冗談だよ、流石に」


「……はぁ。まあ、『人間』なんて、それだけで嫌ってるやつはいる。だから、マジで気にしてたら精神擦り切るぞ」


「割り切ったほうが良い、ってこと?」


「そうだ」


 ……そうか。だってここは、俺が無条件で嫌われる可能性がある場所だ。──ここは人間の世界じゃないから。

 だったら、そうなら──


「ま、まあ、俺はお前の性格を悪いって思ったことはねぇし……」


「──ありがとう、桜!」


「うわっ!」


 桜の両手を俺の両手で掴み、ぶんぶんと振る。


「ん、メンタル回復! 完全復活だぜ!」


「お、おお。ならよかった」


「そうだよな、気にしすぎだ! 直接言われたら流石に泣くかもだけど……それでも」


 圭さんは、俺のことを嫌わないようにしてくれたから。だったら俺も、圭さんのことを知っていこう。知って、話し合って、互いを好きになっていこう。


「好きになることが友情の第一段階……!」


「そう、なのか……?」

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