十六話 見学に行こう
──入学式から数日が経ったある日。
新入生がクラスに慣れてきて、初回授業が始まってきている。教室では友人という枠ができていてグループができていたり、それぞれの名前と顔が一致しだしたこの頃。
「──部活見学、行こう!」
そんな麗の声が、終礼の始まる前に話していた俺と葛に確かに届いた。
「……そういや行くって言ったな。別に俺は今日でも構わないが……蒼は大丈夫か?」
「今日は特出して何か予定があるわけでもないからね。全然大丈夫」
入学二日目であったか。そこで麗と約束した「一緒に部活見学」に行くという約束は、今日に至るまで果たされていなかった。
それはまず単に部活見学が始まっていなかったのと、そこまで学校に馴染めていなかったのが要因であっただろう。
まあ、それでもゆうてまだ一週間経ってちょっとなんだが。
「……でも見学っていうけど、俺まだこの学校に何部があるのかそこまで知らないんだよね」
「なんか意気揚々としてるボクが浮いてるみたいじゃん」
「いやぁ、俺が怠惰なだけの気もするけどね」
「そうだよね」
ん? ……ん?
「ごほん。この学校は部活動の他にも同好会があって、それは数が多いから説明できないけど、肝心の部活はまずは体育会系から言うと──」
麗の話してくれた内容をざっとまとめるとこうである、
【運動部】陸上・バスケ・バレー・テニス・バドミントン・野球・水泳・サッカー・ゴルフ・卓球・体操・柔道・剣道・空手・弓道
【文化部】美術・吹奏楽・軽音楽・新聞・演劇・コンピューター・華道・書道・茶道・理科・料理
らしい。
というか、俺は知らなかったのだが一学年ごとにかなり人数に差があるらしく、俺の学年は一クラスだいたい二十人で六クラスであるのだが、上の学年なんかは四十人が八クラスと人数の差がえぐい。ので部活動の部員の数はどの部活もそれなりだとか。
麗いわくこの学校は基本的に出願さえだせば誰でも入学ができて、だからただ単に出願が多い年は必然と人数が多くなるんだと。
「それで部活の他には同好会もあって、これは生徒が三人以上集まれば作れる、まあ同じ趣味の人が集まるもの。部活との掛け持ちもOK。部活もきちんと書類を提出すれば掛け持ちできるよ」
「本当に色々と選べるんだねー」
「同時に悩ましくもあるけどな」
正直舐めていたがこの間先生に配られた資料、部活動一覧と同好会一覧を見るとそうは思えない。本当に多種多様なものがあり、どんな人であれ必ず嵌る内容がありそうだ。
「あとは委員会が生徒会、風紀、体育、図書、放送、保険、文化、美化、広報って具合にある。クラスで最低でも一人は出さなきゃいけない感じだけど、これは今度クラスで話し合うから置いとくね」
「なるほど」
今考えるべきはやっぱり部活であろう。入部届は一年中OKだが基本的には四月末までに出すように言われている。ので、今週かせめて来週中には決めてしまいたい。
個人的には運動部だが、全ての部活を見てから決めたほうが良いのが確かだ。体験入部も今はやっているらしいし。
「んじゃま、部室も資料に書いてあるし、行きましょー!」
「おー!」
「……なんだコレ」
*
部室は基本的に特別教室の設置されている外校舎にある。そこには同じく見学者であろう新入生と、部活動に勤しんでいる上級生の姿があった。
ちなみに、この学校では学年ごとにネクタイの色が変わる。一年生は赤だが、二年生になるとまた色が違うのだ。
なにはともあれ。
「ここは、科学実験室だよね」
今はどの部活も自由に見学して良く、少し緊張しながら入室する。
そこには、白衣を纏った複数人の影がいそいそと動いていた。
「何かの実験かな」
「だろうね。流石に内容まではボクも知らないけど」
「あ、色変わったな」
一人の上級生がフラスコの中の液体を混ぜると色が一瞬にして変わった。
「おおぉ……」
素直にすごいと思う。
ああいう実験って中学時代に授業でもやったが、きちんとグラムを守らなかったら成功しないなんてザラにある。
良いものを見せてもらった。そう思い、同じく外校舎にある別の部活の見学に行こうと実験室から出るために扉に手をかけると、──がしりと、腕を掴まれた。
「……へ?」
「──君達!!」
「うわっ、え、誰っ!?」
俺の腕を掴んだのは、一人の少女であった。どこか桃色がかった髪の毛をお団子でまとめ、安全のためにゴーグルを装着している先輩だ。白衣の下のリボンの色から推定、三年生。
「何々! 君達、もしかして入部希望者かい!? だとしたらとても非常に凄く助かる! なにせ理科部は慢性的な人員不足、更には下級生の部員不足で大きな実験もできやしないからね。さあ、入部届ならここにある! ここに君の名前を書いて、これから一年とはいわず私が卒業するまでの二年間、あわよくば君の在学中の四間この部活で仲良くしていこうじゃないか!」
「まって、はやい! 決断を急かすな! 要求を飲ませようとするな! 願望を出すな!」
なんっ、なんだこの人!? さっきまでキリッとしていた印象を受けたのに、今ではただの変人だ。
……あれ? この人、あの時の校舎見学で爆破してた人じゃね!?
「多分そうだね。あとのもう一人はあそこで取り仕切ってる先輩だろう。……ってわけで逃げるよ」
「ちょっと待ちなさいな! 私一応先輩だよ? だからきちんとしっかりかっちり話を聞くべきだよ!」
「なんたるハラスメント! ……あ、葛が話聞きたがってます!」
「……は!? え、なんっ」
「そうかいそうかい! ならば話は早急に進めなくてはね。なあに心配はない。君は単にこの部活に席を入れてくれれば良いんだ。籍じゃないよ? 私も君も十八じゃないし。いやあ、何分四年の先輩方が引退してしまったら存続の危機だからね! ってことで名前と印鑑を渡してもらおうか!!」
「いや、ちょっ、何二人逃げてんだ! まっ──」
ガラガラガラ、ピシャ。そんな音を立てて、科学室の扉は閉まった。
一人の尊き犠牲により、平和は保たれたのである。
「……次はどこ行く? こっから近いとなると新聞部だけど、そっちにしようか?」
「うん、そうだね!」
新聞部かぁ。やっぱりスクープとかを取っているのだろうか。校内新聞は教室の一番うしろに貼ってあるが、結構面白かった。ちらっと掲載されている四コマ漫画がお気に入りである。
新聞部は印刷室の隣の空き教室で活動しているそうなので、科学室のある二階から一つ降りることになる。
「次こそはまともな部活を!」
「フラグって言うんだよ、それ」
怖いこと言わないで!
*
──新聞部部室にて。
「あ、もしかして部活見学の人? ごめんね、今ちょっとドタバタしてて。後ろから見てていいからね」
そう言ってくれたのは黒い眼鏡をかけたどこか穏やかそうな先輩だ。こっちもさっきのマッドサイエンティスト(仮)の先輩と同じく三年生だと思う。それでも印象はぜんぜん違うが。
「来月号を作ってるんですか?」
「それもあるんだけど、ほら五月には林間学校があるじゃない? 基本的にそういったしおりとかは新聞部で作ってるんだ。表紙のイラストは美術部だけどね」
そう言いながら見せてくれたのは複数のしおりだった。どれも表紙に林間学校と記載されており、自然豊かなイラストやキャンプファイヤーのイラストが飾られている。
「来月号の締切もあるから、全員大忙しだよ。この間幽霊部員掃討作戦をしたばっかりだし……」
なんだその物騒な作戦名。ここもまともじゃ無い感じか?
「まあ幽霊部員の方がいけないともボクは思うよ。……それで何を聞きたい感じですか?」
「え?」
「……バレちゃったか」
そう言うと先輩は自身のポケットに手を入れて、そこからメモ帳を。胸ポケットに刺していたペンを取り出して、ずいっと体を押し出してきた。
「と、いうわけで。新入生インタビュー、協力してくれるかい?」
「え、っと。俺でよければ……」
「ボクもそこまで踏み込んだ話じゃなければ」
「ありがとう。それじゃあ最初の質問だけど──」
──一ヶ月後。
自身の答えた質問が校内新聞に乗り、恥ずかしさ半分嬉しさ半分になるのだが、それはまた別のお話。




