十五話 確かな強さ
校舎案内が終わった後はプリントが配られたり自分のロッカーの場所を決めたりと、朝から言われていたタスクを全てこなし、解散となった。
ちなみにキチンと予定を確認したった結果、再来週の日曜日に麗の家に葛と一緒に向かうことも決定した。
今日の得たものとしては新しいクラスメイトとの顔合わせが一番大きいだろう。色んな人……妖怪がいて、言うならば新たな出会いだ。
「蒼、一緒に帰らねぇか?」
「桜! いいけど……そういや向と瀬奈は?」
「あの二人は学食行くってよ。蒼も行くか?」
「んー。いや、大丈夫。その代わりだけど、購買に寄っていい?」
教室の中では帰る人、誰かと話している人と色々だ。教室にはすでに向と瀬奈は居なく、ついでに他にも何人か居ない。ならば恐らく複数人で行ったのだろう。
「そういえば、桜は部活何に入りたいとかある?」
「いや、特にはない……けど、運動系かな。体を動かすほうが性に合ってる」
そう言いながら教室を出ようとすると、ふと見知った人がいた。
「愛さん?」
「ん? ああ、蒼くん。今帰り?」
「うん。でもその前に購買に寄ろうって」
そこには既に鞄を方にかけた愛さんの姿があった。スマホを見ながら画面とにらめっこしていたようだ。
そして俺が購買に行く、そう言うと愛さんはどこか思いついたような顔をする。
「じゃあさ、わたしも一緒に行っていい? 少し買いたいものがあってさぁ」
「俺はいいけど……桜は大丈夫?」
「別に大丈夫だ」
──と、いうわけで。愛さん、桜、俺の三人で購買に向かうことになった。
「愛さんもお昼ご飯?」
「そう。あとは明日のご飯だね。食堂で食べていもいいんだけど、朝はわたし強くなくてさ、ぱぱっとおにぎりかパンにしちゃいたいんだ」
「わかるかも……」
朝はマジで何もする気が起きない。中学時代は朱が朝は作ってくれてたから良かったが、今は寮生活。他三人に頼りっぱなしなのは駄目であろう。
「ちなみに桜は料理が得意?」
「…………料理を、したことがない」
「……なるほど」
なんとなく思っていたが、桜ってお坊ちゃん気質あるよな。その『御三家』ってのは聞いているだけでもすっごいお金持ちそうだし、自分で料理なんて機会がないのか。
……なんて言っている俺も料理の経験なんて家庭科の調理実習ぐらいだが。
我が家では父さんと俺の料理はからっきしとなっていて台所へは用がない限り近づくなと言われている。別にメシマズではないと思うが、それでもおいしいってわけではないレベルの腕前。
「わたしも料理はなあ。まあおにぎりって失敗するほうが珍しいと思うし、大丈夫かなって。ほら、炊飯器があったじゃない」
「そういえば」
部屋に備え付けで冷蔵庫と電子レンジがあり、そして新品の炊飯器があった。種類的に四年が目安で購入そうなので、前にいた先輩方が卒業と同時に購入されたのだろう。あとは電子ポットくらいだろうか。
包丁とかの器具はなかったが、そこら辺は自費購入なのだろう。今度四人で話し合って決めたほうがいいか。
包丁、まな板、鍋……はあったっけ。
「向と瀬奈は料理って上手なのかな」
「……向は俺と同じそうだけどな」
「あー、そっか」
「──二人って、やっぱり『あの』鬼城院家と稲荷家なんだ。いやあ、数奇というか運命的というか、なんとも思わせぶりなめぐり合わせだなあ」
愛さんは二人の家を知っているのか。やっぱり、それだけ有名なんだろう。始めに桜に話を聞いてよかったな。
「……怖がったりしないの、少し意外だな」
「? ……ああ、まあそういう反応もあるだろうね。でもさ、わたしと貴方はクラスメイト、これから四年間も一緒になるんだよ? 怖がるなんてしないよ。わたしは貴方と友達になりたいから」
四年間も一緒のコと友達未満は悲しいでしょ? なんて、そう愛さんは言った。それはどこか思わせぶりで、それでもきちんとした一つの芯があって──それに、桜は確かに笑っていた。
「俺も、お前みたいな奴とは友達になりたいな」
「うふふ。まあまだ二日目、これからどーんどん親睦を深めていきましょう!」
彼女の左目は隠れて見えない。けれども、その瞳にはきっと右目と同じく確かな強さが宿っているのだろうと、そう思った。
*
購買についてまずはお昼ごはんを買おうとなり、そのままお弁当コーナーへと向かった。お惣菜もあるので好みには困らない。
「んー、ハンバーグか、唐揚げか」
「その二つで悩んでるのか?」
「どっちも好きなんだよね。でも、今日はなんとなくハンバーグの気分かな」
そう言ってカゴにハンバーグ弁当を入れた。その中にはついでにペットボトルの麦茶が入っている。ここらへんの買い物は父に貰っている生活費で工面する形だ。
「わたしはー、オムライス! あとはおやつにケーキとかも食べたいなぁ」
「……買うか?」
「いや、俺は大丈夫。桜は何にするの?」
「無難にのり弁だな」
見せてくれたカゴの中にはのり弁当と緑茶、そして焼き鳥が入っていた。
「そういえば売ってたね、焼き鳥。どうしよう……でも、そんなに食べれるかな」
「欲しいなら分けるか?」
「え? いいの? じゃあお言葉に甘えて」
後はついでに夜ご飯……いや、流石に学食で良いかな。
この学校の学食は校舎の地下にある。外校舎からも内校舎からも入れて、そしてまた別に外からの入口もある。校舎自体が少し小丘の場所にあるからか、食堂は外からでも入れる。壁に囲まれているが一面だけがほぼガラスであった。
そして食堂は基本的に平日の朝六時から夜の二十時まで開いていて、休日は閉まっている。つまりは休日は自炊しろということだ。価格も良心的で、学生の味方。メニューの種類もそれなりに豊富である。
「ってわけで、夜ご飯は学食にしない?」
「わかった。後で向と瀬奈にも言っておく」
二人は今頃は昼を学食で食べているから二食連続になってしまうかもしれないが、まあその罪悪感は押しつぶそう。見て見ぬふりである。
「そういえば、蒼くんと桜くんの部屋って家事当番とかは決めた?」
「当番?」
「うん。わたしの部屋も四人部屋なんだけどさ、洗濯・料理・掃除を色々細分化して決めたんだ。洗濯も回す人とか取り込む人、畳む人。料理も朝夕とか。掃除だって普通の部屋掃除から水回りって色々あるからね。ちゃんと決めたほうが楽だよねーって話になったんだ」
「なるほど……」
そういえば、そういった話はまだしたことがなかった。
昨日のお昼ご飯と今日の朝ごはんははお昼に買い込んだもの、もしくは持ってきていたもので片付けてしまったから、そういった話をする機会がなかったのだ。
洗濯もまだしていないし、掃除だって。まだ新生活一日目であるからどこも汚れていなかった。が、それは長続きしない。
「ちゃんと話さなきゃだね」
「ああ。喧嘩とか嫌だから、きっちりな」
「うう、はぁい」
あまり家事は得意ではない、というよりかは経験不足だ。家では風呂掃除・洗濯物の取り込み・ゴミ出し(きちんと回収からやってるよ!)ならやっているが、それ以外は本当に全然やっていなかった。というか、きちんと洗濯機回せるか……?
「男のコだから〜、とかは今の時代的に相応しくないし、というか寮生活だからしっかりするべきだとわたしは思っちゃうな」
「仰る通り過ぎてぐうの音も出ませぬ……」
慣れていくしかないのだろう。経験がものを言うであろうし。
「まっ、この話はここで一旦おしまい! 二人は他に何か買いたいものってある?」
「そうだなあ。昨日は食品しか買ってないから、ちょっと日用品を買いたいな」
歯磨き粉やシャンプー系は家から持ってきて入るものの有限であり、いつかはなくなる。こんなことで仕送りをしてもらうわけにもいかないし、自分で買ってしまおう。
──そんなこともあり、三人での買い物はもうちょっと続きそうだ。




