十四話 また置いていかれてる
さてさて。お待ち遠様、であるかはわからないが待ちには待っていた校舎案内の時間である。
クラスごとに二列ほどで並んで回っていく形式で、案内はもちろん担任である円羅先生だ。これも出席番号順であるため前後に麗と葛がいる。そして、隣が……
「よろしくお願いします。えっと、蒼さん、でしたっけ?」
「っと、あなたは確か……」
「すいません。先程は一度名乗っただけでしたからね。──私、妖鏡圭と申します。以後、お見知り置きを」
「は、はい。お見知っておきます……」
──目の前にいるのは、確かに同じ年齢であるはずなのに、どこか神秘的とさえ言える雰囲気をまとった少女だ。
灰色がかったどこかキラキラ輝いたているその髪は、腰のあたりまで伸ばされていて綺麗に一つの乱れもなく三編みになっている。まるで芸術品のようだ。
その透明のような色の瞳も、見つめるだけで吸い込まれる、そんな印象を受ける。
少女と表すには相応しくない、まるで大人のようだ。
「──蒼」
「わっ」
そんなふうに見とれていると、後ろから少し怒気の含まれた声で名前を呼ばれた。
何事かと、麗の方を振り向くと、そこには少し呆れているような表情をした麗がいて、一体どんな罵詈雑言を受けるのかと身を構えると……
「先、進んでくれる?」
「……え? あ。は、はいっ!」
きちんと周りを見えていない愚か者である俺こと咲崎蒼は、もうすでに廊下の端まで行っている列に置いて行かれていた。
*
なんとか列に追いついて、なんでもないような顔をしながら先生から説明を受ける。ジト目で見てくる麗は一旦無視だ。
「──この校舎は見て分かる通り教室のある内校舎もといい本校舎の周りを一周囲むように外校舎がある」
「本校者は五階建てで一階が職員室、そしてそこからは教室でフロアが上がるごとに学年が上がる。今は一年だから二階、二年になったら三階だ」
「そして、外校舎には主に特別教室があって実験室、美術室、音楽室、家庭科室が授業で使う頻度が高いだろう」
「どの教室もかならず二教室以上はあるから基本的には他クラスが使用しているからできない、ってことはない」
そう言いながら先生は本校舎から外校舎へと繋がる渡り廊下を歩く。
宙に浮いている設計になっているこの廊下はきちんと支えられてあり、きちんと屋根も壁もある。開閉式の窓は掃除のときに使うんだとか。
「今日は二年生以上の生徒は授業がないが、一部には部活のために来てる奴もいる。騒ぐな」
そう言いながら科学実験室の前を通ると、そこには複数人の生徒がなにかの実験をしていた。授業でないなら、理科部であろうか。……あ、
「──ちょっ、この馬鹿ぁ!!」
「私が馬鹿だったらこうはならな──うわああぁぁ……!!」
「やっぱ馬鹿じゃないのおおおぉぉ……!!」
……え?
──イマ、ヒト、フットンダヨ?
「……まあ、たまにこういうこともある」
「あってたまるか!!」
フラスコが爆発し、その爆風に飲まれ窓ガラスが割れた音と人の悲鳴。ここに名探偵がいなくともわかる、立派な爆発事故が目の前で起こった。
思いっきり吹っ飛んでったぞ!! ……まって、妖怪の学校ってこれが事件にならないの!? ちょっと頭おかしくない!?
「先生は嘘をついてないようだし、本当によくあるんだろうね」
「入学する学校間違えた!!」
今からでも退学したい!!
「それができないのが蒼の立場」
「立場ってクソだな!」
誰だ交換学生とか発案したやつ! ありとあらゆるタンスの角に小指ぶつけろ! ささくれが剥け過ぎて出血しろ!
「呪いが小さいし細かい……」
麗だって俺に共感してよ! 一番誰かの考えが読めるんでしょ!?
そう麗に求めるような目線を送るも帰ってきたのは冷たく冷え切った目線。
「……まあ同情はしてあげるよ」
「あ、いりません」
「お前も爆破してやろうか」
「──二人とも、すでに先生方は進んでいますよ」
──こうして圭さんが呆れて止めてくれるまで俺と麗の軽口は続いた。
*
次に訪れたのは一度校舎から離れて少しした場所にある建物だ。どこか和風テイストであった校舎とは変わりこちらは洋風の印象を受ける。というか、デカい。
見ただけで四階建て。この大きすぎると言える建物、一体なんだ? というか、大きすぎて全貌が見えない。ここから敷地の端まで広がってるんじゃないか?
「ここは図書館だ。うちの学校には図書室がなく、こうして独立した建物にある」
「え!? こんなに大きな建物が?」
とても広そうだ。というか、デカい。俺の近所の図書館よりも広いんじゃないだろうか。マジで遠くから見てもデカいなぁって思えるくらいには大きい。これ単体で普通に建築物だ。
「学園長の趣味も相まってな。四階建ての地下五階。ついでに二つある別館は三階建ての地下二階。そこんじょそこらの図書館よりは全然蔵書数が多い」
え、広くない!?
日本の図書館の平均がどうかはわからないが、それでもこの大きさの建物にプラスで別館。一体何万冊なんだ……?
「何万冊、よりかは何百万冊じゃないかな、この規模だったら。こんなの、管理するだけでも大変だろうに……」
「専用の職員さんがいるのかな」
本の管理、貸し借り。図書館だってただ本を保管するだけではないのは流石に知っている。この規模、大きさであったらすべての労力がそこんじょそこらとは比にならないだろう。管理する人がよほどしっかり者なのだろうか。
……そしてまーたまたまた置いていかれてるので、いそいで追いつかなくてはならない。そう追いつくために走ろうとすると、──ふと後ろから足音が聞こえた。
「──あれ、生徒さん?」
──そこには、一人の男性がいた。エプロンを纏い左目にモノクル、そして右の片側だけに白い角が生えた人だ。……いや、よく見ると左側にも角のようなものが見える。その、折れた跡が。
「……えーと、君たち、もしかして置いてかれてる?」
「アッ!」
ふと皆が移動した方向を見ると距離が更に離れている。いや、先生も気づけよ!
「危ないから走らないで……とは言わないよ。でも気をつけてね」
「は、はい! ありがとうございます!」
「うん。良い子だ。……また今度、ここに来てみるといいよ。本はいつでも君たちを歓迎するから」
「……?」
ひらひらと手を振りながら、そういってその男性は図書館の方へと向かっていく。
「……あの人、司書さんだね」
「あ、やっぱり?」
どこかそれっぽいとは思っていた。エプロンを付けていたし。にしても、モノクルか。付けてる人って実在したんだ。
「ま、ボクも本は好きだし、気が向いたらまた来たいな」
「じゃあその時は俺もついていくよ」
「……お願いしようかな」
そう言いながら、二人で走りながらようやく列へと追いついた。……&、少し怒った圭さんが。
「……何度目ですか?」
「ご、ごめんなさい」
「全部蒼のせいです」
オイコラ。
*
その後は、この広すぎる敷地を隅から隅までではないものの歩かされた。他には体育館が五つ、グラウンドが三つ。他にも各運動に使うコートも完備されていた。高校にゴルフコートってあるんだなぁ。
他にも体育館の下には室内の音質プールや鏡が貼られているダンスルーム諸々もあり、マジでこの学校の設備はやばい。こんなの、維持するだけでも大変だろうに。
「──この学校の創立理念じゃないかな」
「創立理念?」
「……蒼、きちんと入学式で話聞いてなかったでしょ」
「う」
いや、だって……ね、仕方ないじゃかぁ。
別に居眠りやスマホをいじっていたわけではない。ただ、本当にずっとぼーっとしていたのだ。マジで。
「はぁ……学園長の話で言ってたんだよ。『子供は未来、生徒は希望。だからこそ、絶対に不自由などさせてはならない。やろうと思ったなら、したいと願ったのなら、それを叶えるのが我々大人であり、教師。──可能性は、決して潰してはなりません』ってさ」
「そんな格好いいこと言ってたの!?」
俺と話した時はどこか俺のことをおちょくってる印象を受けたのに、そんなに生徒思いだったのか。あんな意味深な忠告して無駄にビビらせたくせに。
「気にしてるなぁ……」
「マジであの言葉のせいで余計に恐怖心煽られたからね」
──実はその隣にいるやつも意味深なことを呟いていた、そんなことを知る由もなかった俺はただ少しだけ学園長への印象を改めたのだった。




