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人妖!  作者: 館内放送
入学編
11/27

幕間 『向と瀬奈』

 ──時は遡る。

 それは、蒼と桜が購買に出掛けた時、その時の部屋にいた瀬奈と向の一幕である。


 部屋では点けっぱなしでBGMとなっているテレビの音を、物を動かす音が響いている。そんな中でふと向は瀬奈に話しかけた。


「そういえば、瀬奈は昼飯良かったのか?」


「いや、実はおにぎり持ってきててさ。握ってもらったんだ」


「なーるほどね」


 昼ご飯を頼まなかった理由に納得し、瀬奈は再び自身の荷解きをする。スーツケースと事前に自宅から送っていた段ボール、その二つの荷物を自分の席に置く。机と棚、ベッドの位置は二人が購買に行く前に決めていた。

 段ボールを開けると、入れた覚えのないものまで入っていて、瀬奈はため息を一つこぼす。大方、妹の悪戯であろう。でなければピコピコハンマーなどいつ使うものか。


「はぁ……」


 どこか憂鬱の気分になっている向のその隣。そこでは瀬奈が自身の荷解きをしている。既に机の上は終わり、そのまま棚に荷物を詰めている段階だ。

 そんな中で、瀬奈はどこか考えるような表情をし、向の方を向く。


「──向って、あの『稲荷』なのか?」


 それは、初めて会ったときから瀬奈が抱いていた印象だ。そして、その問いかけに向はどこか困ったような顔をして苦笑した。


 ──御三家。

 鬼城院家、稲荷家、八岐家という平安の世から、あるいはそれよりも前から続いている三つの血筋。

 今では混じりに混じり、明確な『種族』というものが減っている昨今の世であっても決してその誇りも血も断ち切ること無く続き続けている家。

『酒呑童子』、『九尾』、『八岐の大蛇』。強大な力を持ち、あの『人妖大戦』にて絶大な功績を上げたと言われている種族。

 そして、そのうちの一つである『九尾』の家系──稲荷家。それは、こうして今瀬奈の目の前にいる少年と同じ苗字であった。


「──やっぱり、嫌、だよな」


 瀬奈の言葉に、向は当然であったと、必然であったと思いながら俯く。その表情は瀬奈から伺えないが、先程までの場を明るくする存在感のようなものが、今の向から見えない。


「……いや、違う。わかってたんだ。知ってるし、知っていたから、俺からどうにかしきゃいけなかったんだ」


 向は言う。


「自分が普通じゃないって。なのにこうしてると、図々しいよな。ごめん。気を使わせて、ごめん」


 向はそうまくしたてるように、言う。


 ──それは、予防線のようなものに見える。傷つかないため、傷つけないための、予防線。それはきっと、今までで何回も使っていたのだろう。これ以上自分を傷つけないために、相手を傷つけないために子供の頃から張っていたのも。

 だから、瀬奈は──それに、ひどくムカついたのだ。


「──なんだよ、それ」


「……え?」


「オレは、お前のこと嫌だとか言わねぇ、絶対に。むしろ、お前がこうしてムードメーカー的にいてくれるから、嬉しかった。オレはただ気になったから……だから、聞いただけ。嫌とか、んなわけねぇだろ。むしろ、オレが謝らなきゃいけない。オレが無神経だった」


 ただ、有名人だから、そんなミーハーな精神で向の触れないでほしかった場所に触れてしまった。むしろ、今この段階で瀬奈が向を嫌う要因など、ありやしない。


「……いいの、か?」


「いいだろ。むしろ、良くなきゃいけない。家とかに縛られる必要はねぇよ。オレも悪かった」


「謝らなくて良い! 俺の被害妄想だ! ……その、俺こそ、ごめん。そして、ありがとう」


 

 


「いやマジでごめん。雰囲気悪くしちゃったな……切り替えよう!」


「謝んなくていいが……早いな、切り替えが」


「それが俺の処世術なもんで」 


 そう言いながら向は手に持っていた荷物を自身の机の上に置く。そんな様子に瀬奈はほんの少しの好奇心を働かせた。


「無神経だったら怒ってくれてかまわないんだが……やっぱり、そういう偏見とあったのか?」


「んー、なんて言えば良いんだろ。偏見……とかは、あんまりなかったんだけどさ。家がとんでもなく太いと、周りからの目ってのは嫌でも変わっちゃうんだよ。学校の先生とかが自分の親に媚びるの見たくなかったな〜」


「うわぁ」


 他にもエピソードはある。友達と遊んでいたらその親がすごい勢いでその子を叱って謝ってきたり、少し買い物に行っただけなのにやたら「ご贔屓に」と押してくる店主だったり。そもそも、ふらっと寄っただけなのに急に支配人を出されても困る。

 向の多すぎる姉や妹はそれを上手く利用して生きていたようだが、どうにも向はそれが向いていない。


「そう考えると、やっぱり桜も大変そうだよ」


「桜……って、やっぱりあの鬼城院?」


「うん。桜は覚えてねぇかもだけど、昔なんかどっかのパーティーみたいなもんで見かけたんだ。たしか、御三家の次の世代〜みたいな会議」


 思い出すのは、自身の年齢が十ぐらいの頃の思い出だ。

 向はそのパーティーで二人の男女に出会った。そのうちの一人の男の名は──鬼城院紅葉(もみじ)。桜の兄だ。鬼城院次期当主であり、弟である桜とは()程年が離れている。既にオレと会った時はもう家業の一部を引き継いでいた。

 もう一人の方は自身より年下の少女であったが、彼女に関しては申し分ないほどに御三家の一員として完成されていた。


 そして、その後に開かれたパーティーという名の総勢での顔合わせで、向は桜を見かけていたのだ。見かけた、と言う通り一方的であったので桜の記憶には残っていないだろう。


「やっぱし、お偉いさんのお家事情ってのは庶民にゃ理解できねぇや」


「あはは」


 瀬奈はその話を聞き、そもパーティーなんて誕生日だとか、クリスマスだとか、ハロウィンなどしか呼ばれたこともしたことがない自身の環境と比べる。やはりそこら辺は身分の違いのようなものなのか。


「話してくれてありがとな」


「全然大丈夫だよ」


「……不平等、か」


「え?」


 そのまま瀬奈は考え込むような姿勢になるも、向にはそれがわからない。しばらくして瀬奈は再び向の方を見て、どこか覚悟を決めたような表情で話し始める。


「お互い様にしよう。オレも、向に言いたいことがある」


「……わかった、聞くよ」


 その表情、に、覚悟に応えないことは失礼だと、向はわかっている。から、きちんと最後まで聞こうと瀬奈の目を見て聞く。


「オレは────」





「……なるほど」


「ま、秘密ってほどの秘密じゃないかもだけどな」


「そう、かなぁ? でも、ありがとな」


「お互い様、お相子だ」


 それでも、不均衡だと、向は思う。だって、自身の秘密はほとんど公開しているも同じだ。苗字が『稲荷』である限り、その秘密はいつだってオープン。そして瀬奈の秘密は、意図的にバラさない限りはバレないであろう。

 だから、瀬奈は──


「お人好し、だな」


「? 何か言ったか?」


「いや。なんでもない」


 そうして二人は再び荷解きをしようとそれぞれのスペースに向かい──鍵が回る音と、ニ人分の話し声が聞こえてきた。

次の更新からやっと入学二日目です!

一日の出来事を十一話かけてやっとる……

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