幕間 『鬼城院家のメイド』
「──いつまで、そんな……そんなことを、続ける気なの?」
ギリギリギリ。金属と金属がぶつかり合い、不協和音を奏でている。──鉈と、目には見えないほど薄い糸のぶつかる音であった。
通常ならばあり得ない光景だが、この場にいる二人の人影はそれを当然だと受け止めている。白と金、その二つの髪が、風に揺られてなびいている。
「──嫌いだったんじゃ、ないの?」
「────」
「──憎いんだったんじゃ、ないの?」
「────」
「──恨んでるんじゃ、ないの?」
金髪の、美しい少女からの問いかけを、白髪の美しい少女は答えない。けれどそれは、答えたくないだとか、聞きたくないだとか、そういった感情はなかった。──答える意味がないと、そう思っている表情だ。
白髪の美しい少女──紗鬼は、感情の宿らない金色の瞳にふと揺らぎを見せ、口を開いた。
「紅葉様は、咲崎様を殺すつもりなの?」
「……あなたが、私の問いかけには答えないのに、なんで私だけが答えないといけないの?」
「命令よ」
「私に命令できるのは、鬼城院家の方々だけ。……あなたとは、違うの」
互いに膠着状態から距離を取り、互いの攻撃を読もうとジリジリとにらみ合い続けている。紗鬼は鉈を、金髪の美しい少女──遜鬼は何も持っていないように見せるように巧みに糸を隠しながら。
鬼城院家の一角にて、先に攻撃を仕掛けたのは紗鬼であった。後ろから、ためらいなく首をはねるように攻撃し──それを遜鬼はわかっていたとばかりに一歩も動かず、事前に設置していた糸だけで防いで見せた。
「なんで、私を攻撃したの」
「それが下された命令だからよ」
「──。あなたに、命令できるのは、当主様だけよ」
「主様は今は桜様の命を聞けと仰っている。桜様はこう仰ったわ。──あの三方を守れ、と」
だからこそ、手っ取り早く三人を狙う紅葉に今はついている遜鬼を紗鬼は狙った、というのがこの戦闘の真実だ。遜鬼がもし、三人を殺そうと狙っていなければ勝手に疑われ勝手に殺されかけているだけであるが……それに対して、遜鬼は決して否定はしない。
「紅葉様はひどく人間を嫌っていらっしゃる──当然、咲崎様は狙われるでしょうね」
「……あそこまで、人間の匂いを隠さないでいるんだもの。能天気だわ」
「桜様のご友人の悪口はだめよ」
「……わかってるわよ」
「わかってるなら、やめなさい」
まるで母が子を叱るように紗鬼は遜鬼を叱りつけた。それに対して遜鬼はどこか複雑そうな表情をしながら歯を食いしばる。けれどすぐに雑念を振り払うように首を左右に振り、冷静さを取り戻して糸を手の中で張る。一歩間違えればそのまま肉が裂け、骨が断ち切られる可能性があるほどの切れ味を持つ糸。それを巧みに操り、的確に目標だけをしとめるのが遜鬼という『鬼』であった。
「──『鬼』はその中でも名を持つ種族は少ない。そもそも『鬼』自体の総数だって、先の戦争でほとんどいなくなってしまったというのに」
遜鬼の額から、一本の角が現れる。
──そもそも『鬼』の角とは、”魂”の活性化である。五感を敏感にし、あらゆる身体能力を向上させ、絶対的な力を手に入れることができる。けれど、当然デメリットだってある。常時『角』を顕現させることは体力をひどく消耗し、最悪の場合”魂”にヒビが入ることも。
「──だからこそ、鬼城院家の方々は異端なのよ」
常にその額に角を顕現させ、恒常的な『術』の発動を可能としている。そこから『酒呑童子』の『固有術』も『茨木童子』の『固有術』もあるのだから桁違いだ。
「遜鬼、あなたは」
「──わかってるわ。でも、ここで紗鬼を行かせるわけにはいかないの。それが、私に下された命令だから」
「……まんまと嵌められた、と言ったところね」
狙いは最初から紗鬼の無力化であった、というところだ。遜鬼を使って紅葉は介入を防いでいる。あの三人であれば紅葉には勝てないが、それでも紗鬼が味方に付けばその勝敗が変わることだってあるからだ。
だからこそ、紗鬼はすぐさまに遜鬼を制圧しなければならない。
その事実を理解し、紗鬼は自らの額にも角を顕現させた。
「──いいわ、来なさい。主様の忠実なる下僕として、この屋敷に起こる問題は徹底的に排除する」
「排除されるのは、紗鬼の方よ! ──本当に、いっつも身勝手!!」




