十話 もっふもふ
部屋にある二段ベット二つ。最初に誰がどこに寝るかはジャンケンで決めて、俺は上を勝ち取った。妹がいるが我が家は基本的に布団であるので、初二段ベットである。
ここで話題に上がったのが「兄弟」であった。
「俺は妹がいるんだ。二つ差で、今は中二。すっっっっごい可愛い」
「蒼にシスコン属性があるとはなぁ。桜は?」
「兄貴が一人。年は結構離れてて、もう社会人だ」
桜からお兄さんがいるという話は聞いていた。けど、そっか、年離れてるのか。俺はゆうて二つしか年が変わらないから、妹という存在がかなり身近であった。
「瀬奈は? 兄弟いるか?」
「……あー。姉ちゃんがいる。今は大学生だな」
「お姉さんいるんだ、瀬奈。っていうか、そういう向は? 兄弟いるの?」
「……い、る」
そう聞くと向はすっごい渋い顔をして、かすれた声でぼそぼそと言った。
「……姉と、妹」
「三兄弟! 上下で挟まれてんのか」
「いや、違う」
「え?」
「…………姉が九人、妹が四人」
絶句。言葉が出ない。向の境遇は、きっと女兄弟がいるものしか理解できないと思うが……地獄だ。目に入れても良いと思うぐらい妹を可愛いと思っている俺でさえ、女兄弟は地獄であると知っている。
それが、合わせて十三人。
「……なんだ、その、元気出せよ」
「買ってきたポテチ食べるか?」
「オレ、炭酸取ってくるわ」
「……ありがとぉ」
こりゃ兄妹の話題を自分から避けてたわけだ。会話のノリを汲むために乗ってくれてたんだな、マジいい奴。
っていうか、マジで数が多いな。二で割っても多いくらいだぞ。
「俺って見てわかると思うけど狐じゃん? だから多いんだよ」
妖怪って野生動物の特性も引き継ぐの? マジか。
「あ、そういえば向の耳は狐耳だけど、尻尾ってないの?」
「いんや、見えてないだけであるぜ」
「? 見えてない?」
「そ。俺の家の稲荷家は『九尾』の家系。伝わる『術』は『幻』だから、こうやって有るものを無いように見せられるんだ」
そう言うと向は自分の背中辺りにふっと吹きかけた。それは、何かを払い落とすような、そういった印象を受ける。そして──
「……もっふもふだ!!」
──綺麗に整えられた三本の尻尾が、姿を表した。
もっふもふ。マジもっふもふ。モフがモフでもモフてモフい。
「すっげ!! 可愛い、綺麗! ヤバ!!」
「そ、そんなに喜ばれるとちょっと照れるんだが……」
恥ずかしそうに向は顔をその輝く三本の尻尾で隠してしまった。ああ、モフい……!
「桜の角もかっけえし、ヤバい! キューティーでクールって感じだ!」
「っ、……あり、がと」
そう褒めると、桜は少し顔を赤らめて俯いてしまった。
桜の額には二本の黒い角がついている。それは桜が『鬼』であり人ではないことの証明のようなものだろう。
褒めていると向はこほん、と一つ息を付く。左右に揺れている尻尾がなんともまぁふわふわである。
「……ま、今どきじゃこうやって体に色々特徴が現れるほうが珍しいしな」
「え?」
「ん? だってそうだろ? 俺の『九尾』は家系だからそうだけど、今じゃ種族を持つやつのほうが珍しいじゃんか」
そうなんでもないように言われ、学園長との会話を思い出す。
──血が混じった。
そう言われたのを、思い出した。
かつての純粋な妖怪は、他の種族と交わり、道を交わしたことで今は一つではなくなり、原型を失った。そういう、ことなのだろうか。
……っていうか、妖怪って海外にもいるのかな。だったらなんだろ、吸血鬼とか、ゾンビとか?
「取ってきたぞ……って、向、なんだその尻尾」
「お、サンキュ瀬奈。いやぁ、隠してたってわけじゃなくて、しまってたんだよ。触る?」
「触る」
「即答だな〜」
桜が買い物袋から取り出したポテチ、瀬奈は買っていた2Lの炭酸ジュースをそれぞれ備え付けられてた四つのコップに注いでいく。
「ありがとう、瀬奈」
たとえ夕食から一時間経っていなかろうと、そこにお菓子があれば食べれてしまう、それが男子高校生だ。ゆうてまだ八時、セーフであろう。
「……そういや、蒼、食堂で正面に座ってたヤツとめちゃくちゃ仲良かったが……知り合いだったのか?」
「え? あ、いや、麗とは今日会ったばっかだよ。入学式で席が隣で、購買でも会ったんだ」
「一日目であそこまで仲良くなるって、凄いな……」
麗が相手の心を読めるからなのか。ここまで会ってすぐで打ち解けられたのは、あっちが会話上手だからだろう。
そう思うと、最初に麗に出会えた俺はやっぱり運が良い。
「桜もさ、ありがとな」
「……ん」
そう言いながらポテチを一口。
学校はそこまで朝は早い方ではない。中学の時とゆうて変わらない時間帯にHRが始まる、のでちょっとは夜ふかししてもいいだろう。
部屋を眺めながらそう思う。部屋には二段ベッドが二つ、学習机が四つ、クローゼットが四つ、棚が四つ、テレビが一つ、テーブル机一つに椅子四つである。別の部屋にはキッチンとシャワーがあり、洗濯機と風呂は共同で一階である。……やっぱり広いな。
そこで俺は学習机、クローゼット、棚を専用として自分の事物を置いた。クローゼットには制服と季節ものの服、棚には持ってきていた教科書類や娯楽用品が今は入っている。
「俺、目覚まし時計六時にセットしちゃうけどいい?」
「いいぜ〜。俺も六時に起きるかぁ……」
目覚まし時計はスマホのアラームじゃなくてちゃんと時計を買う派。といっても手のひらにギリ収まらないぐらいの小さめのやつだが。
そうしながら目覚まし時計をポチポチと弄ると、ふと疑問が湧く。
「寮って十時すぎたら部屋からでるのダメなんだっけ?」
「そう。自販機とかは各階層にあるからいいが、やっぱり時間も時間だからな、あまり出るなって話だ」
「話? ……桜って、知り合いが学校にいたりする?」
「一人、知り合いがな。色々学校の裏話とか聞いてる」
「へぇ」
桜のお兄さん……では、ないよな。社会人って話だし。一体誰であるのか、そう聞こうとするも桜は既に瀬奈と何か話し始めていたので、疑問は引っ込める。
明日からはまた、今日以上に疲れることはほぼ確定している。今日は早めに寝て、明日に体力を温存するのも手だろう。シャワー浴びて、歯磨いて、あとは軽く鞄の中に荷物でも詰めて就寝!
今日だけで既にいろんな人──妖怪にあった。強烈な思い出だし、脳に焼き付いて今日という日を忘れることはきっとできない。
けど、それでもいい。
そう思えるくらいには、俺はこの場所を居心地良いと思っていた。
これにて入学初日は終わりです!
次からはキチンと学校が始まって、麗・葛以外のクラスメイトが出る予定です!




