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人妖!  作者: 館内放送
入学編
10/26

十話 もっふもふ

 部屋にある二段ベット二つ。最初に誰がどこに寝るかはジャンケンで決めて、俺は上を勝ち取った。妹がいるが我が家は基本的に布団であるので、初二段ベットである。

 ここで話題に上がったのが「兄弟」であった。 


「俺は妹がいるんだ。二つ差で、今は中二。すっっっっごい可愛い」


「蒼にシスコン属性があるとはなぁ。桜は?」


「兄貴が一人。年は結構離れてて、もう社会人だ」


 桜からお兄さんがいるという話は聞いていた。けど、そっか、年離れてるのか。俺はゆうて二つしか年が変わらないから、妹という存在がかなり身近であった。


「瀬奈は? 兄弟いるか?」


「……あー。姉ちゃんがいる。今は大学生だな」


「お姉さんいるんだ、瀬奈。っていうか、そういう向は? 兄弟いるの?」


「……い、る」


 そう聞くと向はすっごい渋い顔をして、かすれた声でぼそぼそと言った。


「……姉と、妹」


「三兄弟! 上下で挟まれてんのか」


「いや、違う」


「え?」


「…………姉が九人、妹が四人」


 絶句。言葉が出ない。向の境遇は、きっと女兄弟がいるものしか理解できないと思うが……地獄だ。目に入れても良いと思うぐらい妹を可愛いと思っている俺でさえ、女兄弟は地獄であると知っている。

 それが、合わせて十三人。


「……なんだ、その、元気出せよ」


「買ってきたポテチ食べるか?」


「オレ、炭酸取ってくるわ」


「……ありがとぉ」


 こりゃ兄妹の話題を自分から避けてたわけだ。会話のノリを汲むために乗ってくれてたんだな、マジいい奴。

 っていうか、マジで数が多いな。二で割っても多いくらいだぞ。


「俺って見てわかると思うけど狐じゃん? だから多いんだよ」


 妖怪って野生動物の特性も引き継ぐの? マジか。


「あ、そういえば向の耳は狐耳だけど、尻尾ってないの?」


「いんや、見えてないだけであるぜ」


「? 見えてない?」


「そ。俺の家の稲荷家は『九尾』の家系。伝わる『術』は『幻』だから、こうやって有るものを無いように見せられるんだ」


 そう言うと向は自分の背中辺りにふっと吹きかけた。それは、何かを払い落とすような、そういった印象を受ける。そして──


「……もっふもふだ!!」


 ──綺麗に整えられた()本の尻尾が、姿を表した。

 もっふもふ。マジもっふもふ。モフがモフでもモフてモフい。


「すっげ!! 可愛い、綺麗! ヤバ!!」


「そ、そんなに喜ばれるとちょっと照れるんだが……」


 恥ずかしそうに向は顔をその輝く三本の尻尾で隠してしまった。ああ、モフい……!


「桜の角もかっけえし、ヤバい! キューティーでクールって感じだ!」


「っ、……あり、がと」


 そう褒めると、桜は少し顔を赤らめて俯いてしまった。

 桜の額には二本の黒い角がついている。それは桜が『鬼』であり人ではないことの証明のようなものだろう。

 褒めていると向はこほん、と一つ息を付く。左右に揺れている尻尾がなんともまぁふわふわである。


「……ま、今どきじゃこうやって体に色々特徴が現れるほうが珍しいしな」


「え?」


「ん? だってそうだろ? 俺の『九尾』は家系だからそうだけど、今じゃ種族を持つやつのほうが珍しいじゃんか」


 そうなんでもないように言われ、学園長との会話を思い出す。

 ──血が混じった。

 そう言われたのを、思い出した。

 かつての純粋な妖怪は、他の種族と交わり、道を交わしたことで今は一つではなくなり、原型を失った。そういう、ことなのだろうか。

 ……っていうか、妖怪って海外にもいるのかな。だったらなんだろ、吸血鬼とか、ゾンビとか?


「取ってきたぞ……って、向、なんだその尻尾」


「お、サンキュ瀬奈。いやぁ、隠してたってわけじゃなくて、しまってたんだよ。触る?」


「触る」


「即答だな〜」


 桜が買い物袋から取り出したポテチ、瀬奈は買っていた2Lの炭酸ジュースをそれぞれ備え付けられてた四つのコップに注いでいく。


「ありがとう、瀬奈」


 たとえ夕食から一時間経っていなかろうと、そこにお菓子があれば食べれてしまう、それが男子高校生だ。ゆうてまだ八時、セーフであろう。


「……そういや、蒼、食堂で正面に座ってたヤツとめちゃくちゃ仲良かったが……知り合いだったのか?」


「え? あ、いや、麗とは今日会ったばっかだよ。入学式で席が隣で、購買でも会ったんだ」


「一日目であそこまで仲良くなるって、凄いな……」


 麗が相手の心を読めるからなのか。ここまで会ってすぐで打ち解けられたのは、あっちが会話上手だからだろう。

 そう思うと、最初に麗に出会えた俺はやっぱり運が良い。


「桜もさ、ありがとな」


「……ん」


 そう言いながらポテチを一口。

 学校はそこまで朝は早い方ではない。中学の時とゆうて変わらない時間帯にHRが始まる、のでちょっとは夜ふかししてもいいだろう。


 部屋を眺めながらそう思う。部屋には二段ベッドが二つ、学習机が四つ、クローゼットが四つ、棚が四つ、テレビが一つ、テーブル机一つに椅子四つである。別の部屋にはキッチンとシャワーがあり、洗濯機と風呂は共同で一階である。……やっぱり広いな。

 そこで俺は学習机、クローゼット、棚を専用として自分の事物を置いた。クローゼットには制服と季節ものの服、棚には持ってきていた教科書類や娯楽用品が今は入っている。


「俺、目覚まし時計六時にセットしちゃうけどいい?」


「いいぜ〜。俺も六時に起きるかぁ……」


 目覚まし時計はスマホのアラームじゃなくてちゃんと時計を買う派。といっても手のひらにギリ収まらないぐらいの小さめのやつだが。

 そうしながら目覚まし時計をポチポチと弄ると、ふと疑問が湧く。


「寮って十時すぎたら部屋からでるのダメなんだっけ?」


「そう。自販機とかは各階層にあるからいいが、やっぱり時間も時間だからな、あまり出るなって話だ」


「話? ……桜って、知り合いが学校にいたりする?」


「一人、知り合いがな。色々学校の裏話とか聞いてる」


「へぇ」


 桜のお兄さん……では、ないよな。社会人って話だし。一体誰であるのか、そう聞こうとするも桜は既に瀬奈と何か話し始めていたので、疑問は引っ込める。

 明日からはまた、今日以上に疲れることはほぼ確定している。今日は早めに寝て、明日に体力を温存するのも手だろう。シャワー浴びて、歯磨いて、あとは軽く鞄の中に荷物でも詰めて就寝!


 今日だけで既にいろんな人──妖怪にあった。強烈な思い出だし、脳に焼き付いて今日という日を忘れることはきっとできない。

 けど、それでもいい。

 そう思えるくらいには、俺はこの場所を居心地良いと思っていた。

これにて入学初日は終わりです!

次からはキチンと学校が始まって、麗・葛以外のクラスメイトが出る予定です!

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