第16話 おかしなやつの集まる街さ。お似合いだよ、おまえら
カフェでの一幕のあと、おれたちはウォルの案内で、改めてモステルの街を見て回っていた。
街の中心に行くほど、魔物の比率が上がっていく。
オークが肉屋の店主をやっていた。豚肉がお安いらしい。
コボルトが道をお掃除しながら、近所のおじいさんと世間話をしていた。
屋台で飴を売るゴブリン。店主の人間に、接客態度が悪いと叱られていたりする。
「……本当に噂と違うんですのね。魔物に支配されてるようには、まったく見えません」
おれもクローディアと同じ印象だ。ただ、平和な街に魔物や魔族が溶け込んでいる姿というのは、違和感が強すぎる。
「んー、一応、市長は魔族だからさ、魔物に支配されてるってのも間違いじゃないかもな。選挙の結果だから誰も文句言ってないけど。もぐもぐ」
おれの頭の上に乗っかったウォルが、のんびりと教えてくれる。
カナデはとっても不満そうに、平和そうに過ごす魔物を見るたびに「ちっ」と舌打ちしていたりする。
「斬ってもいいような犯罪者はいませんかねーえ?」
冗談のつもりなのだろうが、目が血走っていて超怖い。
「そのうち君が犯罪者になりそう。賞金とかかけられないようにしなよ?」
「その手がありましたか! 賞金首になれば、賞金稼ぎが次から次へとやってきて、死合う相手に事欠きません。名案です!」
「名案なわけないでしょ。もし人に仇なしたら、おれが黙ってないよ」
「ほう、それは望むところですが……冗談です。私も無辜の民に迷惑をかけるような真似はしたくありません」
「……おれやセシルは無辜の民じゃなかったのかー」
強くツッコむ気力もないのは、呆れすぎたから……ではない。
この街の光景に、自分の中の基盤となるべきものが崩されていっているからだ。
「しかし……眼の前にあるのに、まだ信じられない。おれも、敬虔じゃないけどラーゼアス教の信徒だ。この国のほとんどがそうだ。みんな、魔族や魔物は、決して人間とは相容れないものだって教えられて……疑う余地もないほどの常識になってたのに」
「どっかの誰かが訴える常識なんてのは、大抵、その誰かにとって都合の良い事柄なんだよな。ぱくぱくもぐもぐ」
ウォルの言う通りなのだろう。
この前、クローディアとシンシアが論じた淫魔の存在についても同じだ。ラーゼアス教が都合のいいように作り出したものだった。
魔物や魔族と人間が相容れないというのも、ラーゼアス教の都合で作られたものだと考えるのが自然だ。
実際には、魔物や魔族にも、こうして人と笑顔で交流し、共に平和を築いていける心がある。
これが一般に知られたら、ラーゼアスの教えは根底から瓦解しかねない。この街への来訪が禁忌となるのもわかる。
「……でも、だったら、おれが魔王軍にしてきたことは、なんだったんだ……?」
あいつらにも、家に帰れば人と同じ平和な生活があったんじゃないのか……。
「魔王軍? あー、そうか、おまえアランって言ってたっけ。聞き覚えがあると思ってたけど、そうか、あのダーティアランだったかー。いよっ、虐殺王! 魔将ウェルシャたちを皆殺しにしてくれたのは、おまえなんだろ?」
「…………」
「なんだ、魔物にもいいやつがいてショックかい? 気にすんなよ、魔王軍なんざ魔物のあたいから見てもクズな連中なんだ。おまえら人間だって全部が善人じゃないのと同じさ。ぶっ殺してくれて、ありがとよ! もぐもぐごっくん」
「そう言ってくれて、ありがたいんだが……。ウォル、さっきからなに食べてるんだ?」
「おまえの荷物にあった瓶。粉がいっぱい詰まってて、甘くてうまい」
「おおい! なに人の荷物漁ってるんだ!?」
おれは頭上のウォルを捕まえて、顔を突き合わせる。
「とっておきのデザートだった?」
「とっておきだけどデザートじゃない! 火薬だぞそれ!」
「マジか、火薬ってうまいんだな。ゲェップ」
ウォルがゲップと同時に少量の火を吐いた。とっさにウォルを離したから良かったが、危うく顔面が火に包まれるところだった。
「わーお、刺激的ぃ」
「こっ、の! お前、いい加減にしろよ! 人の物食うわ、火を吐くわ! とても、いい魔物とは思えなくなってきたぞ!」
「にゃはははっ、そう怒るなよー。あたい魔物だぜ? 人間との違いは理解してもわなきゃ。多様性だよ、多様性。認め合ってこーぜぃ」
「おれは、自分の都合のいいときだけ多様性って口にするやつが嫌いだ! このやろ、お仕置きしてやる!」
捕まえて両手で押し潰してやろうとしたのだが、ウォルはぴょんと跳ねてクローディアの大きな胸の上に着地する。
そして演技くさく、ぷるぷると揺れて見せる。
「いじめないでくれよー。ボクわるいスライムじゃないよう」
「人の物勝手に食うのは、常識的に悪い行為なんだよ!」
「おいおい、その常識を疑えって話したばっかりじゃんよー?」
「これは疑いようもなく、非常識なんだよ!」
再度、ウォルを捕まえようとするが、また逃げられる。
「――ひゃんっ?」
代わりにクローディアの両胸を鷲掴みにしてしまった。柔らかくていい揉み心地……じゃなくて、すぐ手を離す。
「ごめん、クローディア」
「い、いえ……。ふひっ、乱暴にされるのも、いいものですわ。今夜は決まりです……」
なにが決まったのか知らないが、それはさておく。
「というかウォル、さっきもたくさん食ってたじゃないか。なんで人の物取ってまで食うんだよ、嫌がらせにしか思えないぞ!?」
「それこそ多様性の話だよ。あたい、喋れるようになって普通のスライムじゃなくなっちゃってさ。すぐ腹減るし、減ったら食わなきゃ死ぬし」
「本当かよ、おかしなやつだな」
「おかしさなら、おまえらも相当だろ? デカパイ聖女ちゃんから、おまえとサムライガールの匂いがしたぜ。そんだけサカッてるパーティも珍しい」
かあっ、と顔が熱くなる。カナデも一瞬でゆでダコみたいになった。クローディアだけはあまり動じず、褒められたみたいにはにかむ。
「ま、この街はそういう、世間一般からすりゃおかしなやつの集まる街さ。ようこそ、モステルへ。お似合いだよ、おまえら」
ウォルは笑ってみせてから、またおれの頭の上に飛び乗った。
そして声のトーンを低くする。
「だから信用もできそうだ。ちょいとひと仕事頼まれてくんねーかな」
「急になんだ、マジな声出して」
「マジな話だから。な、あたいと一緒に、魔王ぶっ殺そうぜ。あいつ迷惑なんだ」




