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第15話 人間と魔物が共存しているということ、ですの?

 実を言えば、旅の途中でなにかしらの妨害があると思っていたのだ。


 おれを投獄すべきだという声も出ていると、セシルは警告してくれていた。そこにクローディアとシンシアの論戦だ。猥談に近いものではあったが、よくよく考えてみるとラーゼアス教の根底を揺るがしかねない内容でもあったと思う。


 シンシアは「覚えていろ」と言っていたわけだし、教会からの刺客が送り込まれてきても無理はない。それがセシルたち『勇者』パーティである可能性だってあった。


 カナデなどは、それを期待して目を爛々とさせていた。すれ違う旅人、追い抜かしていく馬車などに睨みを利かせては、何事もなく過ぎ去っていくと小さく「ちっ」と舌打ちしていた。


 いや、こえーよ。やっぱ悪役の仕草じゃねーか。


 数日もするとストレスが溜まってきたのか、おれを睨むようにまでなってきた。


「アラン殿についていけば存分に戦えると思っておりましたのに……」


 などとブツブツ独り言を言うようになり、やがては。


「あーあ、誰でもいいから相手になって欲しいものですなぁー! 腕が鈍ってしまいますからなーあ!」


 とか、おれをガン見しながら言ってくるので超怖い。


 そんなわけで、おれとクローディアはカナデのストレス緩和のために、一日交代でカナデの相手をしてやることにした。


「魔法を斬る稽古!? やりますやります! ぜひご指南ください!」


 おれが初歩魔法を放ち、それをカナデが斬ろうとする。ただそれだけの訓練だ。


 怪我をさせないよう、水でもぶっかける程度の魔法で相手をしようと思ったのだが、それでは緊張感がないからとカナデは石つぶてをぶつける魔法を望んだ。


 とはいえ魔力は刀をすり抜けていくわけで、カナデは何度も石つぶての直撃を受ける。それでも嬉々として刀を振り続けた。


「痛くなければ覚えませぬ! 痛くなければ覚えませぬぅ!」


 そんな声を上げながら喜んでいるカナデを見るほどに、自分はなにをしているのだろう、と疑問に思ったりするけれど。


 クローディアの担当日は、カナデの溜まったストレスを解放するという名目でマッサージがおこなわれた。


 ……本当にマッサージか?


 とか思わなくもないが、もうなにも言うまい。カナデのストレスが爆発したら、パーティ内で死人が出かねない。命と引換えなら、それくらいのことは許す。許すけどさあ、釈然とはしないんだよなあ……。


 そんなこんなでカナデは、ある日は訓練で赤く火照って、別の日は(とろ)けたように頬を紅潮させて、就寝するのである。


 お陰で何事もなく、目標のモステルの街に到着した。


 そう、《《何事もなく》》だ。


 もちろん、教会の張った検問くらいはあった。ラーゼアス教は、なぜかモステルの街へは行くなと厳重に説いているのだ。行く手を阻むことくらいは常にしている。とはいえおれたち向けのものでもない。回避は容易かった。


 結局、直接妨害されるようなことは一切なく、辿り着けてしまったのだ。逆に警戒してしまう。追ってこないのにはなにか理由があるのでは?


 だが、情報のない今、考えても仕方がない。


 さっそくモステルの街へ入ってみたのだが……。


「話が違うではないですか……」


 カナデは仏頂面でそう言った。


 街の入口近くを軽く回って、カフェで一息ついたところだった。


「斬り放題、狩り放題の街と言ったではないですか? 存分に腕を振るわせていただけるとのお約束でしたのに!」


「そんなこと言ってないし、約束もしてない」


 というか斬り放題はともかく、狩り放題ってなにを狩る気なんだ。問いかけて「ク・ビ♪」とか返されたら怖いので黙っておくが。


 クローディアは改めて周囲をぐるりと見渡す。おれも同じようにしてみるが、印象は変わらない。


 ごく普通の平和な街だ。


魔物(モンスター)に支配されているというのは、あくまで噂だったということなのでしょうか?」


「でもそれだと、ラーゼアス教が来訪を禁じる意味がわからない。まあ、まだ来たばかりだ。もっと色々見て回れば、なにか見えてくるかもしれない」


 そう決めて、注文した食事を口にする頃。


「おまえら初めて見る顔だなー。よく何事もなく――おっ、なんだダナヴィルの聖女じゃん。どおりで騒ぎにならずに入ってこれたわけだ」


 気さくに話しかけてくる声に、おれたちは振り向いた。


 が、その人物の姿は見えなかった。


 いや。声はもっと下のほうから聞こえたような……?


 視線を下げると、それはいた。


 半透明で弾力のあるゼリーのような体を持つ、不定形型の魔物(モンスター)


「――スライム!?」


「街に魔物(モンスター)が入り込んでいますの!?」


「やはり魔物(モンスター)に支配されて!?」


 三人同時にすぐさま武器を手に取る。が――。


 どっ、わっはっはっはっ!


 おれたちの様子に、カフェの客たちは楽しげに笑い出した。


 なんでだ? 魔物(モンスター)がいるんだぞ!?


「お前さん方、この街が初めてなら驚くのも無理はないねえ」


「まあまあ肩の力を抜けよ、新顔さん」


「店内じゃ武器はしまっといてくれよ、危ねえから」


 そしてスライムが、ぴょこんと跳ねて、おれたちのテーブルの上に乗っかる。


「まあまあ仲良くしようぜ。この街じゃ、みんなそうしてるんだ」


「……どういうことなんだ?」


「大方、魔物(モンスター)に支配されてる街とか聞いて、解放してやるぜって勇んでやってきた正義の冒険者さんなんだろうけどよ。見てのとーり、あたいらは仲良くやってんのさ」


「人間と魔物(モンスター)が共存しているということ、ですの?」


 スライムは不定形の体で、器用に笑顔を作ってみせた。


「そそ。共存、共存。仲良し仲良し。あたい、ウォルってんだ。お近づきの印にぃ、いっただきま~すっ」


 ぱくりっ、とウォルと名乗ったスライムはおれの食べかけの料理を皿ごと飲み込んでしまう。かと思うと、次々にテーブルの上の料理をぱくぱくと食べていってしまう。


「あっ、おい! なにしてる! おれのサラダ!」


「うまい! もっと食わせてくれよ新顔!」


「いきなり人のもの食った上に、さらにたかるのかよ! 共存とか仲良しとか意味知ってるのか!?」


 がっはっはっ、と店主と思わしき男が笑う。


「心配すんな新顔。今、食われた分はちゃんとウォルにツケとくよ。同じもん用意してやるから、今度は食われないよう気をつけな」


 その手慣れた様子は、確かに魔物(モンスター)との生活が板についているように感じられた。

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