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第13話 このドスケベ浮気者!

 クローディアたちを待つ間、おれはカナデが捕まえた賞金首を衛兵に突き出しておいた。


 それから、もう遅くなるので、酒場の2階の宿で、部屋も取っておく。そうしてのんびりミルクでも飲みながら待っていると、やがてふたりは帰ってきた。


「お待たせいたしました、アラン様!」


「……はぁ、ふう……」


 艶々な笑顔のクローディアだが、一緒に戻ってきたカナデは耳まで真っ赤にしてふらふらな状態だった。完全に茫然自失している。


「カナデ、どうしたの? 2階に宿を取ってあるから、もう休むかい?」


「いえ、大丈夫です。少し飲み物でもいただければ……」


 カナデは席について、一息つく。クローディアも一緒に座るが、あれ? なんかカナデ、クローディアと距離近くない?


「……ところでカナデ、君は親睦を深めるために試合を……って考えかもしれないけれど、クローディアは戦士職じゃない。彼女との試合は遠慮してくれないかな」


「はい……そのことならご懸念は無用、です。私はすでに……クローディア殿には敗北を喫しておりますので……。ええ、それはもう、気持ちいいほどに……」


「そうなの?」


 カナデは顔を紅潮させたまま、そっとクローディアの肩に頭を寄せる。


「命のやり取り以外にも、深い交流はあったのですね……」


「…………」


 おれはクローディアにジト目を向けた。


 クローディアの目が泳ぐ。


「まさかというか、やっぱりというか君……」


「なんのお話でしょう?」


「おれというものがありながら、カナデにまで手を出した……?」


「ち、違いますわ。わたくしはただ、脂魔法(グリース)の新たな活用法について一緒に学んだだけです」


「ふぅん、気持ちよかった?」


 クローディアはふにゃっとだらしない笑顔になる。


「うひっ、それはもう」


「やってるじゃん! このドスケベ浮気者!」


「ああ、しくじりましたわ! 内緒にしておくつもりでしたのにっ!」


「冗談じゃない! 信じられないよ! おれの気持ちを知っててそんなこと!」


「も、申し訳ありません! で、ですが相手は女の子ですからっ! ちょっと味見しただけですから! 浮気じゃありません、ノーカンです! ノーカンにしてください!」


「そんな理屈が通るわけないでしょ!」


「ですがわたくしの中で一番なのはアラン様ですから! それは変わりませんから!」


「口ではなんでも言えるよね」


「では口だけではないと証明してみせます!」


 クローディアがおれの手を取って立ち上がる。


 どうしてくれるものか、とおれは彼女についていく。


 間に挟まれたカナデは、終始あわあわとしていた。


「わ、私のせいで仲睦まじいふたりの関係に亀裂が……」



   ◇



 翌朝。


 おれとクローディアが朝食を取っていると、店の外から恐る恐るこちらを覗くカナデの姿があった。


「カナデ、昨日はここの宿に泊まらなかったみたいだけど、大丈夫だった?」


「カナデ様、朝食はもう済ませましたか? まだでしたらご一緒いたしましょう」


 ふたりで明るく声をかけてあげる。


 するとカナデは、ほっと胸を撫で下ろして席についてくれた。


「おふたりとも、仲直りされたようでなによりです」


「あはは。仲直りなんて、そんな。おれたち、もともと仲良しだし。ねー?」


「はい。昨日も《《仲良し》》いたしましただけですもの。ねー?」


 おれとクローディアは上機嫌で仲良く笑顔を向け合う。昨夜、クローディアが証明してくれたから、おれはなんでも許せるような気がしている。


 そのまま和やかに食事を終えて、一服しつつ話を切り出す。


「さてカナデ、改めてよろしくなんだけど、おれたちは本気で魔王を倒そうと思ってる。過酷な旅になるかもしれないけど、覚悟はいいかい?」


「無論。相手にとって不足はありませぬ」


「よかった。おれもクローディアも前衛向きじゃないからね、頼りにさせてもらうよ。それで次の目標なんだけど……モステルの街に行ってみようと思ってるんだ」


「モステル? 申し訳ありません、この国の地理にはあまり詳しくなく……」


「今いるミュルズの街から北のほうにある街でね。魔物(モンスター)に支配されてるなんて噂があるんだ。『勇者』パーティにいた頃は、教会がうるさくて調べにも行けなかったけど、今なら文句を言われる筋合いはない。噂を確かめて、もし支配されてるってのが本当なら……」


「街を解放なさるのですね。お供いたしますわ、アラン様!」


「私も腕がなります。魔物(モンスター)に支配されているということは、くくくっ、街中で斬り放題ということですね。これは楽しみです、くくくくっ」


「うん、笑顔が怖いけど、そうしてもらうかもしれない。でも暴れるかは状況次第だ。おれがいいって言うまで刀は抜かないでね?」


「む、嫌です。私はいつでも好きなときに好きな相手と立ち合います」


「もし本当に支配されてるなら、裏に魔王軍幹部がいるかもしれない。なのに好き放題に暴れられたら逃げられちゃうかもしれないだろ。そんなの、もったいなくないかい? 魔王軍幹部と立ち会う好機を失くすかもしれないんだよ」


「うっ、それは……確かに」


「そういうわけだから、指示には従ってくれ。本当に魔王軍幹部がいたら君に任すし、もしいなくても、暴れる必要が出てきたらちゃんと暴れてもらうからさ」


「わかりました。約束ですぞ、アラン殿!」


「本当に約束だからね、守ってね?」


「アラン殿こそ、ゆめゆめお忘れなきようお願いいたしますぞ」


 話もまとまったところで立ち上がる。


「さて、じゃあさっさと出発しようか。またセシルたちに絡まれたら面倒だしね」


「それは私としては望むところなのですが」


 とか言って渋るカナデをなんとか宥めて、おれたちはミュルズの街を後にしたのだった。

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