第42話:取り戻したダイヤ
「まったくアリシアときたら!」
胸元に輝くダイヤに手を触れながら、ローラはつんと顎を上げた。
「ようやく戻ってきたわ……このダイヤ! 図書室に隠すなんて! ほんと、意地が悪いったら」
ダイヤのペンダントを取り戻しても、ローラの怒りはまだ収まらない。
そんなローラをケインはうんざりと見つめた。
「機嫌を直せよ、ダイヤは手に入ったんだし、慰謝料だって……」
「それで新しいドレスを買うから! それから、私、もっと社交の場に行きたいわ! 結局、婚約パーティーだって楽しめなかったんだから!」
「……」
王子の婚約パーティーに出席すると浮かれていたローラには悪いが、やはり貴族の社交の場でローラは悪い意味で浮いていた。
少なくとも、自分のパートナーとして堂々と紹介したい気持ちにはなれなかった。
(俺は……間違えていたのか……?)
ローラを愛している気持ちはある。
だが、貴族としての体面もある。
(アリシアを正妻にしたままだったら、どうなっていただろう……)
ヴィクター王子がパートナーにと選んだアリシアなら――堂々と社交の場に出られただろう。
(だが、あのつまらない石のような女と――いや、それならば数多の女性に囲まれている王子がアリシアを選ぶわけがない)
(アリシアには俺の知らない魅力があったのか……?)
確かにドレスに身を包み宝石を付けたアリシアは、ハッと目を引く美しさがあった。
(俺はローラの顔色を気にして、アリシアとほとんど会話らしいものをしていなかった……)
しかも、アリシアは宝石の鑑定眼を持つという。
これもまったく知らなかった事実だ。
(魔宝石まで見分けられる――すごい能力だ。王子が手に入れたがるはずだ)
ケインはちらっとペンダントに触れるローラを見た。
「そのダイヤのペンダント、危険なんだろ? どこかで売ってこようか?」
「嫌よ! こんな大粒のダイヤなんだから! それとも、同じ大きさ、クオリティのダイヤを買ってくれるの?」
「いや、それは……」
見栄っ張りのローラは大きい高級な宝石でなくては喜ばない。
破格に安かったので購入したペンダントだが、今思えば、ハズレを押しつけられたようなものだ。
「何が魔宝石よ! 馬鹿らしい! 宝石は宝石! それだけよ!」
ローラが不快そうに顔を歪めた。
結局、自分からペンダントを遠ざけたアリシアの鑑定眼が本物とされ、大した処罰がなかったのが気にくわないらしい。
「でも、危険な宝石なんて……」
「大方、妬んでいるのよ! こんなに大きなダイヤ、私が持っているのが気にくわないのね!」
ローラが自慢の金髪をかきあげる。
「ああ、早くパーティーに行きたいわ。皆にこのダイヤを見せるの!」
華やかな場に出た喜びが忘れられないらしい。
だが、ローラにいくらねだられても、ケインは及び腰だった。
そもそも、パーティーの招待が来ない。
婚約パーティーでの騒ぎを見た人々から敬遠されてしまっているようだ。
「ねえ、ウチでパーティーを開くのはどうかしら? そうよ、それがいいわ。私が女主人としてパーティーを仕切るわ!」
「いや、金もかかるし……」
「慰謝料があるでしょ!」
果たしてパーティーを開催するとして、いったいどれだけの人が来てくれるだろうか。
危険な魔宝石を自慢げに身に付けるローラを、客たちはどう思うだろうか。
ケインは胸が苦しくなった。




