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第41話:別れ

 翌日――。

 ケインの屋敷の図書室から、ダイヤが無事見つかったとの報告があった。


 また、アリシアは王からの召喚に応じ、宮廷でその鑑定眼の能力を発揮した。

 王からは盗難の罪には問わないが、持ち主の意に反し所有物を隠したのは事実なので、謝罪と慰謝料を払って手打ちとする命が出た。


「よかった……」


 ヴィクターは気が気ではなかったようで、ホッとしている。


「本当にごめんなさい。あなたに迷惑をかけてしまって……。しかも、フレデリック殿下の婚約の場にもいられなくて……」


 大事な弟の婚約パーティーに余計なトラブルを持ち込んでしまった。


「構わないよ。もう俺たちはエリス嬢を紹介してもらっているしな」


 鷹揚おうようにヴィクターが笑った。


「そういうわけにはいかないわ」

「え?」


 アリシアはサファイアのペンダントをすっとはずすとテーブルの上に置いた。

 婚約パーティー以来、ずっと考えていたことだ。


「アリシア……!」

「私がここにいてはあなたの迷惑になってしまう。出て行きます」


 アリシアは凜とした表情を崩さないよう、必死で心をふるい立たせた。


「立て替えていただいた慰謝料は必ず返します」

「きみがそんなことをする必要はない!」


 立ち上がったヴィクターだったが、まっすぐ見つめ返すアリシアに口を閉じた。


「そもそもわけありの私などが王子の婚約者なるなんて、おこがましかったのよ」


 きっぱり言い切るアリシアを、ヴィクターが悲しげに見つめる。


「僕が何を言っても……聞かないんだろうな」

「ええ」


 ローラやケインに衆人環視のなかののしられ、あわや投獄されかけたことを思い出すだけで心が冷たくなっていく。


「短い付き合いだけど、きみが決心したらひるがえさないというのはわかるよ」

「今までありがとうございます。お世話になりました。荷物をまとめて明日、出て行きます」


 アリシアは一気に口に出すと、一礼してさっと部屋を出た。

 そうしないと涙がこぼれてしまいそうだった。

 廊下に出たアリシアは震える手で口元をおおった。


(すごく寂しい……)

(なんでこんな気持ちになるの……!)

(かりそめの婚約者とわかっていたはずなのに)


 楽しかったのだ。ヴィクターと過ごす日々が。

 仕事にやり甲斐がいも感じていた。


 わずらわしくて仕方なかった社交だが、ヴィクターと一緒に対応し、こなしていくのは気持ちがよかった。

 部屋に戻ると、アリシアはぐい、と頬の涙をぬぐった。


(元夫とその愛人……そして実の妹。私には厄介な敵が多すぎる。とても王子の妻などつとまらないわ)

(これ以上の迷惑をかけられない)


 アリシアはさっさとトランクに荷物を詰め始めた。

 体を動かしていると、余計なことを考えずに済む。

 アリシアはなるべくヴィクターのことを考えずに荷造りを終えた。


 翌朝、とても快眠とは言えない一夜を過ごしたアリシアはのろのろと身支度みじだくをした。

 部屋付きの侍女にヴィクターへのお礼と別れの言葉をたくす。


(直接の別れはもう昨日済ませたのだから……)


 ヴィクターの顔を見れば決心が揺らいでしまう。

 アリシアは追い立てられるように、トランク一つ持って屋敷を出た。


「えっ……」


 屋敷を出たところに屋根付きの立派な馬車があった。

 馬車の窓から手を振っているのはマリカだった。


「マリカ様……!?」


 マリカが馬車から降り、駆け寄ってきた。


「パーティーでは大変でしたわね……。その荷物、お屋敷を出られるんですか?」

「はい……」


 マリカがいたわるような視線を向けてくる。


「行く当てはありまして? よろしかったら落ち着くまで私たちの屋敷にいらっしゃらない?」

「そんな! マリカ様にご迷惑を……!」


「あなたが私たちの屋敷にいるなんて、誰も知りませんわ。私は仲の良いお友達を泊めるだけ。誰にも文句は言わせませんわ」


 正直、手持ちのお金は慰謝料にててほとんどないに等しい。

 気持ちの落ち込みがひどく、新しい仕事を見つける気力もなかった。

 街のボロ宿にいつまでいられるか――そんな切羽詰まった状態だった。


「いいんですか……私……」

「もちろんですわ! 遊びに来てくださると約束してくださったでしょう?」


 マリカがにこりと笑う。


「そうだ! 気が向いたら宝石の鑑別を手伝っていただけません? 本国からたくさん来ているんですの。手伝っていただけると助かりますわ」


 アリシアが負担に思わないよう、マリカが心を尽くしてくれているのがわかった。


「私でよかったら……」

「決まりですわね! さ、馬車に乗ってくださいな」

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