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第40話:王の裁定

「父上、母上……!」


 ヴィクターが驚いたように目を見張る。

 ヴィクターと同じ白銀の髪と水色の目をした国王夫妻が、アリシアに目を向けてきた。

 それだけでアリシアは身がすくんだ。


「そなた、ヴィクターが婚約者だと紹介している令嬢だな? アリシアとか言ったか」

「は、はい! アリシア・ハミルトンです」


 こんな近くで王を目にするとは思わず、アリシアは動揺してうつむいた。

 急な事態に混乱して足が震える。


「ダイヤのペンダントを盗んだというのは本当か?」


 皆、固唾かたずを呑んで事態を見守っている。

 盗みは重罪だ。貴族といえど牢に投獄されることになる。


 ヴィクターがアリシアをかばうようにさっと前に出た。


「アリシアはそんなことをしません! 彼女は気高けだかい女性だ!」


 ヴィクターのきっぱりした言葉がアリシアの胸を打った。


(あなたには何も話していない……なのに私を信じてくれるのね)


 アリシアはぐっと拳を握った。


(身の潔白けっぱくを明らかにしたい)

(信じてくれたヴィクターのためにも!)


 アリシアは勇気を振り絞り、顔を上げてしっかと王を見つめた。


「ローラ嬢に贈られたのは、『むしばみのダイヤ』と呼ばれる呪われた魔宝石でした! 身に付けると、心身ともに蝕まれていく恐ろしい宝石です」


 アリシアの言葉に会場がどよめいた。


「呪われた魔宝石……?」

「恐ろしいわ……」

「でも、なぜ魔宝石だとわかるの……?」


 アリシアはごくっと唾を飲み込んだ。


(お祖父様、ごめんなさい)


 こんな大勢いる場所で秘密を話すことになると思わなかったが、背に腹は替えられない。


「私は宝石を見分ける鑑定眼を持っています! 魔宝石から発する意志や念を聞くこともできます」

「馬鹿らしい!」


 ローラがあざけるように笑った。


つたない言い訳ね! あなたは夫からダイヤを贈られた私に嫌がらせをしたいだけよ!」

「違います!」


 アリシアは必死に叫んだ。


「とても危険なダイヤなんです! だから……私は看過かんかできず隠すことにしました」


 ローラには複雑な感情がある。好意などない。だが、それでも見過ごすことはできなかったのだ。


 ケインから贈られたと自慢しに来たローラの胸元に輝くダイヤから、禍々しいオーラを感じアリシアは震え上がった。

 それは女の恨みがこもったダイヤだった。


 ――ああ、憎い。美しい女が、傲慢な女が憎い。めちゃめちゃにしてやる……!


 ダイヤからは聞くに堪えない怨嗟えんさがずっと発信されていた。

 いくら嫌いな相手でも、こんな恐ろしい魔宝石をつけさせるわけにはいかない。

 だから『勝手に隠す』という、苦渋くじゅうの選択をしたのだ。


「おまえは今、『隠した』と言ったな? ダイヤはどこにあるのだ?」


 皆の視線がアリシアに集中する。

 誰もが真偽しんぎを知りたがっている。


「元夫の屋敷です!」


 アリシアの言葉に、ケインとローラが目を見張った。


「図書室の奥の本棚。一番上の段、右から三冊目の本をどけると箱に入ったダイヤがあるはずです!」


 アリシアしか利用しなかった図書室。掃除に入るメイドも本棚には手を触れない。ましてや、本棚の最上段には。

 格好の隠し場所だと思ったのだ。


「つまり、ダイヤはおまえの手元ではなく、持ち主の屋敷にある、と」

「はい!」


「ふむ……。隠した理由は『危険だから』で相違そういないな?」

「はい!」


 アリシアは背筋を伸ばし、はっきりと答えた。

 何も後ろ暗いことなどない。

 危険な宝石を遠ざけただけで、私利私欲のためではない。


「……それがもし本当であれば、そなたは盗人ではない。理由も理解できる」

「そんなっ!」


 ローラがわなわなと震えた。


「その女は盗人で……っ!」

「ローラ! やめろ、王の御前ごぜんだぞ!」


 反射的に異を唱えようとするローラをケインが必死で抑える。

 王がみずから出した結論なのだ。それに確固たる理由もなく抗議するのは、不敬罪に当たる。

 王が冷ややかな眼差しをローラたちに向けた。


「近衛兵を連れて屋敷に戻れ。ダイヤがあるか確認して報告させる」


 そして王はアリシアに目をやった。


「そなたに鑑定眼があるか確かめさせてもらうぞ。王家所有の魔宝石を鑑定するのだ」

「はい! 王の胸元にあるルビーは『守護』の力をお持ちです。王妃様がつけられたサファイアは『幸運』の魔宝石ですね」


 すらすらと話すアリシアに、王と王妃が目を見開く。


「なるほど……これは本物かもしれないな」

「アリシアは一目で宝石の真贋しんがんも見分けられる。それはスフィアの大使たちもご存知です」


 スフィア王国大使夫妻――シオンとマリカが大きく頷くのを王が目の端で見る。


「なるほど。だが、これほどの騒ぎになっている。今日は二人とも屋敷に戻り待機しろ。パーティーのあと使いを送る。アリシアの鑑定眼について王の名のもとにきちんと調べる」

「わかりました」


 頷くアリシアを安心させるようにヴィクターが微笑みかけた。


「大丈夫。絶対に嫌疑けんぎは晴れるから」

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