第33話:人は変わる
「お姉ちゃん、ダメだよ! こんな男と一緒になったら!」
バーバラが必死の形相でエリスに詰め寄った。
「バーバラ、どうしたの? いったいなぜそんなに怒っているの?」
おろおろするエリスに、バーバラが取りすがった。
「こんな浮気男、信用できない! お姉ちゃんが傷つくのをもう見たくない!」
「バーバラ……」
「お姉ちゃん言ってたよね、もう男なんか信用しないって。私、一生独身でいるって!」
バーバラの目に涙が浮かぶ。
「私、フレデリック殿下とお姉ちゃんが付き合ってるって聞いて、すごくショックだった……。だって、有名な女たらしだから。だから、別れて欲しくてそのルビーを贈ったの」
「え……?」
エリスが床に落ちたルビーに目をやる。
「それは『縁切りルビー』。身に付けると恋人や配偶者と必ず別れるって言われる呪われた魔宝石だよ!」
アリシアは驚いた。
(バーバラは知っていて贈ったのね!)
だが、想像していた動機とは違った。
自分のためではなく、姉を心配するあまりの行動だった。
(バーバラは悪縁を切りたかったのね……!)
「思わせぶりに振る舞って、フレデリック殿下の本性を引きだそうとしたりしたけど、全部お姉ちゃんのためだったの!」
エリスが驚いたように目を見張る。
「そんな……バーバラ、話してくれたらよかったのに……」
バーバラが強く首を振った。
「だって言えない! 幸せをぶち壊そうとしたって恨まれる! お姉ちゃんに嫌われたくない……」
バーバラの目から涙がボロボロこぼれ落ちた。
「でも、台無しにしちゃった……」
子どものように泣きじゃくるバーバラを、エリスがそっと抱き寄せた。
「ありがとう、バーバラ。私を気遣ってくれたのね」
「お姉ちゃん……」
「私、ずっとあなたに心配をかけてたわね。私はあなたみたいに素直に感情を表せないし、言葉を飲み込むことも多いわ」
エリスがそっとバーバラの涙をぬぐう。
「でも、私、変わったのよ。フレデリック様から声をかけられたとき、私、相手にしなかったの。私だってフレデリック様の浮名は知っていたから」
エリスがいたずらっぽく微笑んだ。
「でも、フレデリック様は何度も何度も私に会いに来て……素っ気なくしても、キツい言葉を投げつけても諦めなかったの。だから、誓ってもらった」
「なんて?」
「私以外の人を口説いたら終わり。二度と私に近づかない、話しかけないで、って」
エリスがくすっと笑った。
「そうしたら彼、私以外の女性と頑なに口もきかず、目も合わせなくなっちゃって。公務に支障を来すほどだったのよ」
傍らでフレデリックが照れくさそうに髪をかく。
「いや、だって加減がわからないからさ。女性と話さなければ大丈夫だろ?」
「それにしても、自分のお母様まで無視はないでしょう?」
「俺は器用に振る舞えないんだよ」
フレデリックが情けなさそうな顔をする。
この場にカミラ妃がいない理由がわかった。たった一人の溺愛する息子の素っ気ない態度に機嫌を損ねたのだろう。
「それで信用してみることにしたの。あと、ちゃんと女性とも話すように、って頼んだわ」
「でも、お姉ちゃん、一生独身だって、あんなにきっぱり言っていたのに……」
エリスがバーバラの髪を優しく撫でた。
「バーバラ、人って変わるの」
エリスが微笑んだ。
「私が以前ひどい失恋をして、二度と恋なんてしないって誓った。けど――もう一度信じてみようって思う人に出会ったの」
エリスがそっとバーバラを抱きしめた。
「一人じゃ無理だった。でも、運命の人と会うとすべてが変わるの……」
エリスの力強い笑みがアリシアの胸に突き刺さった。




