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第32話:アリシアの葛藤

「いやー、しかし予想外な女性だったな!」


 アリシアを軽やかにリードしながらヴィクターがつぶやく。


「フレデリックがあんな淑やかな女性を選ぶとは……しかも年上か」


 ヴィクターは弟のことが気になるようで、アリシアがずっと無言なことに気づいていない。


「いや、フレデリックにはしっかりした大人の女性の方がいいな。タイプが違いすぎるのが気に掛かるといえば気に掛かるが……」

「……」


 それどころではないアリシアは、ずっとエリスを目で追っていた。


(どうしよう、縁切りルビーだと思い切って話してみる?)

(でも、証明できないし、鑑定眼の話もできない……)

(ただの嫌がらせと思われてしまうわ……)


 ダンスが終わったエリスたちのところに、バーバラが近づくのが見えた。

 バーバラは姉を押しのけるようにして、フレデリックに話しかける。

 姉のエリスはおどおどとそれを見ているだけだ。


(姉妹でフレデリック殿下を取り合ってるの……?)

(それなら、わざと姉に縁切りルビーを贈ったのかもしれない)


 アリシアはため息をついた。

 自分の妹であるシェイラのことを思い出さずにはいられなかった。

 シェイラは祖父に溺愛されたアリシアを妬み、よく嫌がらせをしてきた。


 勉強ばかりしているアリシアを見下し、すきあらば足を引っ張ろうとする。

 アリシアにとって妹とは、いつも自分を敵視する厄介な存在だった。


 シェイラはプライドが高く、自分より身分が下の者を相手にしなかった。

 お金が必要で、どちらかが伯爵家に嫁ぐことになったときも、迷わずアリシアに押しつけた。


 ――私の相手はもっと素晴らしい人でないと嫌ですわ!


 本人の前で堂々と口にしてきたので、アリシアは唖然としたものだ。

 両親は妹に甘く、シェイラは増長するばかりだった。


 実家が没落したあと、小さな家で両親と良い縁談を待ちわびて暮らしているらしいが、連絡を取る気にもならず疎遠のままだ。


(シェイラとバーバラさんを同一視するのは失礼だけど……)


 いわゆる玉の輿に乗りそうな姉を邪魔しているようにしか見えない。


「アリシア!」

「えっ」


 いきなり大声で名前を呼ばれ、アリシアはハッとした。

 ヴィクターが心配げに見つめている。


「どうしたんだ、ずっと名前を呼んでいるのに考え込んで」

「ご、ごめんなさい」


 パーティー中だというのに、つい物思いにふけってしまった。

 ヴィクターはアリシアの視線の先を追った。


「フレデリックたちが気になるのか?」


 ヴィクターの真摯な眼差しに、これ以上誤魔化しきれないとアリシアは覚悟を決めた。


「あの……エリスさんのつけているルビーなんだけど」

「ルビーがどうかしたか?」

「あのルビーは『縁切りルビー』っていう曰く付きの魔宝石なの」


 ルビーについて話すと、ヴィクターの顔がしかめられた。


「縁起の悪い魔宝石を妹が贈ったということか?」


 ヴィクターが談笑しているフレデリックたちを見る。


「ええ。知ってか知らずかわからないけど」

「うーん……そんな魔宝石が簡単に手に入るのか?」


 実感がわかないようで、ヴィクターが首を傾げる。


「入手先はわからないけど、魔宝石だと気づかれずに流通して、比較的安価に手に入ることもあるから」


 ヴィクターがちらっとアリシアの胸元を見た。


「ちなみに俺が贈ったそのサファイアは……大丈夫なんだよな?」

「ええ。普通の宝石よ」

「ならよかった……」


 ヴィクターがホッとしたように顔を緩めた。


「魔宝石は悪い効果を与えるものだけじゃないわ。逆に幸運を引き寄せたりする魔宝石もあるし……」

「護符代わりにする時もあるな」

「ええ。でもあれは……」


 アリシアはそわそわとエリスを見た。

 妹と話すフレデリックのそばで静かにたたずんでいる。


「だが、悪影響を与える魔宝石なら、伝えたほうがいいんじゃないか?」

「……過去に似たような経験をしたことがあるの。危険な魔宝石だったので忠告したんだけど聞き入れらなくて……」


 ローラに浴びせかけられた罵声は今も棘のように引っかかっている。


 ――これはケインから贈られたものなのよ!

 ――嫉妬して奪おうって言うの!

 ――最低な女ね!


 宝石を奪われると思ったローラは悪鬼あっきのような形相ぎょうそうをしていた。

 あれがローラとの確執を決定づけてしまった。


「すごく敵意を向けられて、取り付く島もなかったわ」

「そうだろうな。俺はきみの能力を信じているが、他人には理解してもらうのは難しそうだ……」

「そうよね」


 アリシアはため息をついた。

 説明して納得してもらえるとは思えない。

 ローラのときと違って、命がかかっているわけでもない。


「フレデリックたちの問題だしな。静観するのがいいのかも」

「ええ……」


 フレデリックは名うての女たらしと聞く。

 この縁談がうまくいかない方が、エリスにとってもいいかもしれない。


(でも、なんだか気分が悪いわ……。破談になるかもしれないのに傍観しているだけなんて……)


「皆さん、ご注目ください!」


 フレデリックがシャンパングラスにフォークを当てて、ベル代わりにする。


「今日集まってくれた親しい方たちに一足早くお知らせしたいことがあります!」


 客たちが静まり返り、フレデリックを見つめる。


「このたび、フレデリック・フォン・エーデルハイドは、エリス・ロイド嬢と婚約することとなりました!」


 満面の笑みを浮かべる。

 わっと会場が沸き、次々にお祝いの言葉が投げかけられた。


「公式発表の際はぜひ王宮においでになってください!」


 カシャン!!

 何か硬いものが割れる音がした。


 エリスの隣でわなわなと震えるバーバラに皆の視線が集まる。

 バーバラの足元には、割れたシャンパングラスが落ちていた。


「信じられない……! この宝石、何の役にも立ってないじゃないの!」


 そう言うと、バーバラはエリスの胸元からルビーのペンダントむしりとり、床に叩きつけた。


「バーバラ!」


 エリスが悲鳴のような声が響いた。

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