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第31話:縁切りルビー

 アリシアの不安をよそに、フレデリックが笑顔で話す。


「それで、彼女に求婚しようと思っているんだ」

「出会って三ヶ月で!? 早いな! 大丈夫なのか、おまえ」

「でも、ヴィクター兄さんは、たった一日で婚約したんでしょ?」


 ヴィクターがぐっと詰まる。


「ま、まあ、俺はその……運命の出会いというか」

「俺だってそうだよ!」

「いや、ほら、おまえはそのこれまで色々……」


 フレデリックが派手に浮名うきなを流していたことを、さすがにエリスの前で言いにくそうだ。


「ああ、いろんな出会いがあったけど、エリスとは全然違うんだ!」

「そ、そうか。そうだな、そういうこともあるな……」


 ヴィクターが戸惑いつつもうなずく。


「じゃあ、俺たちは踊るか、アリシア」

「ちょっと待って」


 アリシアはこの場からのがれようとしたヴィクターの腕をしっかとつかむ。


「あの、そのルビーのペンダント素敵ですね」


 いきなりアリシアから声をかけられ、エリスがびくっとする。

 彼女はあまり社交慣れしていないようだ。


「あ、ありがとうございます。これ、妹からのプレゼントで……」


 はにかみながら言うエリスに、アリシアは引きつった笑みを浮かべた。


(い、妹からの贈り物……?)

(縁切りルビーが……?)


「あ、妹を紹介させてください。バーバラ!」


 遠巻きにこちらを見ていた派手な髪飾りをつけた若い女性がやってきた。

 エリスと違い、気の強そうなはっきりした顔立ちをしている。


「妹のバーバラです。七つ違いの十八歳です」

「ど、どうも……」

「初めまして……」


 アリシアたちは戸惑いながら挨拶をしたが、バーバラは無言のままだ。

 バーバラは髪や目の色こそエリスと同じだが、受ける印象は正反対だった。

 華奢でおどおどしているエリスと、大柄でこちらを睨みつけるバーバラ。


(姉妹だけど全然似ていないわね……)


 紹介されなければ、姉妹だと思わなかっただろう。


「姉さん、場違いだよ、私たち」

「バーバラ!」

「姉さんに王子の妻なんか務まらないよ。恥をかく前に帰ろう」


 バーバラがうんざりしたようにエリスの手を引く。


「そう言わないで、バーバラ。せっかくのパーティーなんだから楽しんでくれ」


 笑顔を向けてくるフレデリックを、バーバラが冷ややかに見つめる。


「……わかりました」


 緊迫した空気が、ようやく緩んだ。

 踊りにいったフレデリックとエリスを見送ると、アリシアとヴィクターはほうっと息を吐いた。


「あやうく修羅場になるかと思った」

「あの妹さん、お姉さんの結婚に反対しているみたいね……」


 普通は姉が王族と結婚するなど、玉の輿こしだと喜びそうなものだが。


(……シェイラと同じタイプなのかも。姉が自分より幸せになるのが許せないとか……)


 妹のシェイラを思い出すを気が滅入めいってきた。

 何かと自分と競い、自分のものを奪おうとしてきた妹。


「玉の輿だが、確かに負担も大きい。あの奥ゆかしいエリス嬢には、荷が重いかもな。そもそも、あんな地味な――いや、大人しそうな女性がフレデリックとやっていけるのか……」


 考え込んでいたヴィクターが無言のアリシアを見やる。


「アリシア、どうした?」

「あ、いいえ……」


 エリスの胸元を飾る赤いルビーが目に焼き付いて離れない。


(どうしよう……。これから婚約をしようとする女性にふさわしい宝石とは言えないわ。いいえ、むしろ破談になってしまうかも)

(でも、妹さんからの贈り物を捨てろとは言えないし……)


 アリシアはハッとした。


(そもそも……妹さんは縁切りルビーだってことを知っているのかしら?)


 ずきっと下腹が痛み、アリシアは顔を歪ませた。


(この痛み、もしかしたら……)


「じゃあ、アリシア。俺たちも踊ろうか」

「ええ……」


 アリシアはちらっと幸せそうに踊るエリスを見た。


(エリスさんはきっと何も知らない……)

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