第28話:第六王子からの誘い
「アリシア、ちょっといいか?」
届いた郵便物を見ていたヴィクターが声をかけてくる。
「ええ、何?」
アリシアはペンを置いた。
外交担当のヴィクターには毎日、大量の手紙が届く。朝食後はその選別に追われる。
アリシアも一緒に執務室で返信の手伝いをするようになっていた。
以前、ケインの屋敷でもやっていた女主人の仕事なので慣れている。
「義弟のフレデリックが婚約するらしい」
「フレデリックって……第六王子の……?」
アリシアは王族の系譜を思い浮かべた。
フレデリック第六王子は二十三歳。母は側室である第二妃で、ヴィクターとは腹違いの兄弟となる。
遠目に見たことがあるが、輝くような黄金色の髪をした美男子だ。
「そう! 俺とは逆に派手に女性と付き合いまくっている、社交界の華だよ」
「確かに……」
フレデリックは輝くようなオーラを放っており、彼の周りには女性たちが鈴なりだった。
「フレデリックはパーティー好きで、月に一度屋敷でパーティーを開く。今回は初めて恋人をお披露目するので、ぜひ来てほしいとのことだ」
「ということは、婚約パーティー?」
「その前段階だな。親しい身内や友人に紹介して、後日改めて公式に婚約パーティーを開くのだろう」
「……私、出席してもいいのかしら」
かりそめの婚約者である自分が、他の王族のパーティーに第五王子のパートナーとして出席することに躊躇いがあった。
「もちろん、一緒に来てほしい。王族ということで肩肘を張る必要はないよ」
ヴィクターが安心させるように微笑んだ。
「平和な時代だ。間違いなく第一王子の兄が王位を継ぐだろう。小さいがもう御子もいる。第五王子の俺は気楽なものだ」
それは確かだろう。でなくば、離婚経験のある侯爵令嬢など、非公式とはいえ婚約者にするわけがない。
「しかし……フレデリックの相手とは誰だ? 会うたびに違う恋人を紹介されてよくわからん」
どうやらフレデリックはヴィクターと違い、恋多き王子のようだ。
「そういえば、ここ三ヶ月くらい忙しくて会っていないな。いい機会だから出席しようと思う。アリシアも一緒に来てくれるか?」
「え、ええ、もちろん……」
「こぢんまりしたパーティーだ。気楽にしてくれ」
ヴィクターはそう言ってくれるが、仮にも王子主催のパーティーなのだ。
(ちゃんとした格好でいかないと……)
「さて、他には……」
郵便物のチェックに戻ったヴィクターが手を止めた。
「アリシア、きみに手紙が来ている」
「私に!?」
アリシアは驚いた。
(もしかしたら、マリカ様から?)
自分にわざわざ手紙を送ってくる相手など、マリカくらいしか思い当たらない。
手渡された手紙を開けたアリシアはぎょっとした。
「え……嘘」
「どうした、アリシア」
アリシアの動揺に気づいたヴィクターが近寄ってくる。
「誰からだ?」
「……ケイン。元夫よ」
「ウェズリー伯爵だな」
「ええ……なぜ私がここにいるってわかったのかしら」
「社交界一の噂好き、ギャレット夫人のお茶会に出たんだぞ。もう知らない者はいないさ」
「そうよね……」
落ち着いて考えればわかる。
アリシアがヴィクターの元にいることは、遅かれ早かれケインの耳に入っただろう。
それでも胸騒ぎが止まらなかった。
(今更、何の用かしら)
アリシアは不安な気持ちを押し殺して手紙を読んだ。
「なんて書いてあるんだ」
「えっと……信じられないが、きみがヴィクター王子の婚約者だと聞いた……長々と書いているけれど、要するに本当に王子の婚約者なのか、と聞いているみたい」
「そんなつまらないことをわざわざ手紙にして寄越したのか」
ヴィクターが呆れたように眉を上げる。
「そのとおり、とだけ書いて返せばいい」
アリシアは思わず笑ってしまった。
「そうね」
ヴィクターのそばにいつまでいられるかわからない。
婚約者といっても名ばかりだ。
だが、慌てふためいたであろうケインの顔を想像するだけですっとした。




