第20話:すべての真相
翌日、アリシアはヴィクターと連れ立ってギャレット夫人の屋敷に行った。
「いらっしゃいませ、ヴィクター王子! それにアリシア嬢も」
あらかじめ使者を送っているので、ギャレット夫人はにこやかに迎えてくれた。
「大事なお話があるとか? そうそう、お客様ももういらしてますわよ」
アリシアたちは応接室へと招かれた。
「ヴィクターお兄様!!」
ソファに腰掛けていたジョセフィンが立ち上がると、ヴィクターに抱きついた。
「お話があるとか!」
「ああ。おまえにも聞いてほしくてな。ギャレット夫人に頼んだんだ」
ジョセフィンが冷ややかな眼差しをアリシアに向ける。
「あの方が来るなんて聞いていないんですけど」
「……俺はただの連絡役で見届け役だ。この集まりはアリシアが提案したものだ」
ヴィクターの言葉に、応接室の空気に緊張が走った。
「アリシア嬢の……?」
アリシアはバッグから出したアメジストのブローチをギャレット夫人に差し出した。
「これをお返しします」
「なぜあなたがそれを……」
ギャレット夫人がキッとアリシアを睨んだ。
「あなたが盗んだのね!?」
「いいえ、私は盗んでいません。それは貴方がよくご存知でしょう?」
アリシアの堂々とした態度に、ギャレット夫人の顔から血の気が引いた。
小さく震えるギャレット夫人を、ヴィクターが冷ややかに見つめる。
「アリシアに頼まれてちょっと調べてみました。ギャレット夫人、ポーカーに夢中でずいぶんと負けがこんでいるようですね」
びくっとギャレット夫人の肩が上がる。
「借金にあえいでいた貴方は、アリシアを陥れる企みに加担した。そうですね?」
「ヴィクターお兄様、それはあまりにも失礼ですわ! なんの証拠があって――」
ギャレット夫人をかばうように前に出たジョセフィンは、ヴィクターの鋭い視線に口をつぐんだ。
「黒幕はおまえだな、ジョセフィン」
「……っ」
ジョセフィンは平静を保とうとしたが動揺を隠せず、わなわなと震えだした。
「な、何の話だか……」
「おかしいと思ったんだ。いきなり訪ねてきて、普段は飲まない赤ワインを所望してきた。アリシアに赤ワインをかけて、席を外させるためだったんだな」
「……っ」
「赤ワインが飛び散って片付けやらでバタバタしている間に、おまえはギャレット夫人の使いから受け取ったブローチをクラッチバッグに仕込んだんだ」
ブローチはお茶会でバッグに入れられたのではなく、帰宅したアリシアが入浴している間に入れられていたのだ。
「おまえはアリシアに嫌疑をかけようと、この計画をギャレット夫人に持ち込んだ。だからギャレット夫人はアリシアをお茶会に誘った。そうですね?」
ガタガタ震えていたギャレット夫人が、とうとう床に膝をついた。
「どうかお許しください……! 借金を全部返してくれると言われて、つい魔が差して……!」
「何を言うのよ、ギャレット夫人! 証拠なんて何もないんだから!」
ジョセフィンが必死で叫んだが、ギャレット夫人はもう観念したのか、床に突っ伏して震えている。
「……ブローチを運んだ使用人がいるはずだな。そいつを探し出してもいいが、大事になるぞ。それでも構わないのか、ジョセフィン」
ジョセフィンがぐっと詰まる。
「今ならまだ、俺たちの間だけの話にできる。アリシアが事を荒立てたくないと、言ってくれている。与えられた慈悲を受けるのが賢明だと思うが?」
まだ正式ではないとはいえ、アリシアは王子の婚約者だ。
そのアリシアを陥れようとしたのであれば、従妹だろうと貴族だろうとただでは済まない。
ジョセフィンがぐっとドレスをつかんだ。
「……そうよ、そのとおり。私が考えたの……」
ジョセフィンが顔を上げると、キッとアリシアを睨んだ。
「だって、こんな女、ヴィクターお兄様にふさわしくないわ! 聞いたわよ! 実家は没落していて、しかもバツイチ! 平民の愛人に負けた女なんて!」
「ジョセフィン」
静かな声だった。
だが、激高したジョセフィンが思わず口をつぐむほどの迫力があった。
「アリシアに謝れ」
淡々としたヴィクターの声音に、アリシアですらびくりとした。
ジョセフィンが激しく首を振る。
「いやいや! なんで、この私がっ……」
「謝らないであれば、おまえを陰謀罪で裁判にかける。牢に入れられたいのか」
「……!!」
ジョセフィンの顔が真っ青になった。
ヴィクターが脅しではなく、ただ事実を述べているだけだと気付いたのだ。
「そ、そんな、まさか、お兄様が私を……」
「謝れ。次はないぞ」
容赦のない最後通牒に、ジョセフィンの肩が力なく落ちた。
「も、申し訳ありませんでした……」
蚊の鳴くような声だった。
「二度としないと誓え」
アリシアまでもが恐怖を感じるほどの冷ややかな声に、ジョセフィンがびくっとする。
「もう二度といたしません……」
うなだれるジョセフィンから目をそらせると、ヴィクターがアリシアを見た。
「アリシア、どうする?」
「謝罪していただきましたので、これで結構です」
「そうか。よかったな、二人とも。我が婚約者が寛容で」
ギャレット夫人とジョセフィンは声もなくうなだれている。
「では、行くか」
部屋を出ようと扉に手をかけたヴィクターが振り向いた。
「ジョセフィン」
ヴィクターの声に、ジョセフィンがハッとしたように涙に濡れた顔を上げる。
「二度と俺の屋敷に来るな」
ジョセフィンの絶望に染まった顔が扉の向こうに消えた。




