第11話:マリカのペンダント
男性陣が屋敷の方へと向かうのを見送ったマリカが、にこりと笑って女性陣に手を差し伸べる。
「バラが綺麗に咲いたんですの。ぜひ花を楽しみながらお茶会をしましょう」
自然と男性と女性に分かれることになった。
「大丈夫か。アリシア」
少し心配そうなヴィクターに微笑んでみせる。
「ええ。頑張ってみるわ」
アリシアは笑みを浮かべたまま、『お茶会』という戦場に向かって歩き出した。
「それにしても、マリカ様のそのペンダント、すごいですわね!」
貴婦人の一人が口火を切り、一気にマリカの胸元に輝くペンダントに注目が集まった。
透き通った緑色の大きなエメラルドが印象的なペンダントだ。
(私も気になってた……すごく大きなエメラルドのペンダント。お祖父様のコレクションでもこんなの見たことないわ)
宝石商の仕事をしていた祖父を持つアリシアですら驚いたのだ。貴婦人たちが沸き立つのも当然だ。
マリカが少し顔を赤らめてペンダントに手を触れる。
「これ……夫からのプレゼントなんです」
「まあ、素敵!」
「とても愛されているのね!」
貴婦人たちが口々に褒め称える。
(すごく美しく大きなエメラルド……)
(スフィア王国は宝石の産地として有名だけれど、あの大きさはかなり稀少なはず)
アリシアも驚きを隠せない。
「でもこれは模造品――イミテーションなんですよ」
マリカの言葉に貴婦人たちが戸惑いの表情を浮かべた。
まさか、大使夫人が本物でない宝石を見つけているなど誰も思っていなかったのだ。
「ええっ、そうなんですか?」
「こんなに大きなエメラルドが本物だったら、とてもこんな風に気軽に付けられないわ。怖くって」
マリカの言葉に貴婦人たちが、お追従の笑みを浮かべる。
「そ、そうですわよね」
「でも、本当に見事ですわ。イミテーションだとしてもとても素晴らしい出来!」
高価すぎるアクセサリーは大事をとってイミテーションを付けて出るのは珍しくない。
きっと本物は安全な母国に置いて、イミテーションを持ってきたのだろう。
(よかった……。だからあんな風に人を近づけたり、触らせたりしていたのね)
アリシアは他人事ながら、ホッとした。
(でも、よくできてる……! スフィア王国に、あんな精巧なイミテーションを作れる技術があるなんて!)
確かにスフィア王国は宝石の産地ではあるが、アクセサリーへの加工はエーデルハイド王国の方に一日の長がある。
(すごい宝石職人でもいるのかしら?)
ついつい、宝石商の孫娘の血が騒ぐ。
「あ、あの、私にも見せてもらえますか? 素晴らしい出来栄えのイミテーションですね」
「ええ、アリシア様。どうぞ」
マリカが屈託なく笑と、さっとペンダントを外してアリシアの手の上に乗せてくれた。
「うわあ……すごい……」
間近で見ると、エメラルドの大きさにまず圧倒される。
(うん、最高級品だわ)
(んん……!?)
もう一度宝石の輝きを確かめたアリシアは息を呑んだ。
(これ……イミテーションじゃない!!)
(本物!!)
途端に手が震えてくる。
城が三つ買えるほどの宝石が今、自分の手にある。
つまり、一般貴族の生涯年収を遙かに超える代物ということだ。
「ど、どうも、ありがとうございます……!!」
アリシアは慌ててペンダントを返した。
「いえ! 興味を持ってくださって嬉しいわ。スフィア王国ではエメラルドだけでなく、他の宝石もたくさん取れるんです。興味がおありなら、ぜひ私どもの商会の品をご覧になってください」
「マリカ様、商売上手ですわね」
貴婦人たちがクスクス笑っているが、アリシアはそれどころではなかった。
(な、なんで本物を無防備に付けて、他人に触らせているの!? マリカ様は気づいてないの?)
マリカのエメラルドのペンダントが気になりすぎて、お茶の味がしない。
世間話などに頷くのが精一杯だ。
マリカの悩みなど聞き出せるはずもなく、お茶会が終了した。




