第7話 緑一色の地平線
見渡す限りの草原。
風が吹き渡り、その風に合わせて草がさざ波のように揺れる。俺たちはその緩やかな波打ち際を黙々と歩いていた。
太陽は頭上高く、微動だにせずに空の真ん中に居座っているようにも思える。だが、その日光は思っていたよりも厳しいものではなく、むしろ心地良いと感じるくらいだった。
少女と再会して、体感だが5時間が過ぎたあたりだろうか。
未だに街の〝ま〟の字すら見えない……文字通り、先の見えない旅である。
件の少女はというと、俺の後ろをまるでカルガモの雛のようについて来ている。
最初の方はおっかなくて堪らなかったが、2時間もしないうちに慣れた。何故かは分からないが、地下牢の一件以降、少女が攻撃を仕掛けてくることは一度もなかった。
今は敵対関係ではない……という予想が正しいことを切に願いたい。
「ホントにここは何処なんだ……」
「・・・・・・」
当然、漏れ出た独り言に答えてくれるような人は居なかった。
こんな場所に飛ばした張本人がすぐそこに居るというのに何とも歯痒い。
はぁ、とため息を吐き、俺が立ち止まると、少女も同じように立ち止まった。
そして俺がまた歩き出すと、同じように少女も歩き出す。
「せめて言葉が通じれば……」
「・・・・・・?」
再び立ち止まってから中腰になり、少女の灰褐色の髪の奥にある無機質な碧い瞳を覗く。
そう。この少女はどうやら『人界統一言語』が通じない。
これが非常にまずい。人間だろうと、亜人だろうと、それこそ魔人だろうと『人』と付く種族であれば通じるはずの『人界統一言語』が通じないのだ。
ジェスチャーをしたり、地面の草をわざわざ引っこ抜いて土に絵を描いてみたり……と試行錯誤はしてみたが、少女は頭の上に〝?〟を浮かべるだけ。
コミュニケーションの成功には至っていない。
「言葉さえ分かってもらえれば、〖王国〗に転移してくれるかもしれないのになぁ」
「?」
よいしょ、と重い腰を持ち上げ、緑一色の地平線に目を細める……が、相変わらず景色に変化はなさそうだ。
おれ、かえれるのかな……
◇ ──少女side── ◇
私の家族は強さこそが誇りとなると聞いた。それなのに、私は勝負に負けてしまった。
でも、この人は私を抱きしめてくれた。やっぱりこの人は私の家族だったのだ。本当にとても嬉しい。
この人は私の『お父さん』? それとも『お母さん』?
……そもそも『お父さん』と『お母さん』には何か違いがあるのかな?
それにどうやら、『兄さん』だとか『弟』、というのも存在するらしい。
〝とりで〟で『兄弟』という関係の兵士とも戦った。
でも、あの人たちは私の『兄弟』ではなかった。
もしかしたらこの人は私の『兄さん』なのかな? 『弟』? それとも他にも種類があるのかな?
家族って色々あって、考えるだけでもとても楽しい。
〜〜〜
この人と私は一緒に草原を歩いている。
ただ歩いてるだけなのに、この人と一緒に歩くのはずっと楽しい。
時折、この人はこちらをチラチラ確認をする……もしかして私がちゃんとついて来ているかを気にしてくれているのかな?
もしそうだったのなら、すごい嬉しい。
それに時々、話しかけてくれるし、土に絵を描いたりもしてくれる。
本当なら色々お話ししたいけど、昨日の戦いの中でこの人が熱い空気を作った時、すごく大きな音がしたから、耳が聞こえなくなっちゃったし、あまりの熱さに声も出せなた。
多分、耳のどこかが壊れて、喉は焼けちゃった。
こんな怪我をすぐに治せないような不出来な私でごめんなさい。
でも、この人は怒鳴らないし、殴ったりも蹴ったりもしない。すごくとても優しい。
前にいた場所で私の見張りをしていた人が言っていた通りの、優しい家族で嬉しい。
あの人の言っていたことは本当だったんだ。あの人はいい人だったんだな。
もしかしたら、本当はあの人が家族、っていうサプライズ演出を期待して殺しちゃったけど。
あぁ、この怪我を早く治して、この人が私の『何なのか』を聞きたいな。
────Tips────
〈魔術師〉が杖を持つ理由は魔力を操作する際の効率を上げるためである。
ある〈魔術〉の行使に必要な魔力を100とすると……
杖あり:魔力70でOK
杖なし:魔力100必要
こんな感じである。
そこら辺に売ってる杖でも3割減になるため、全ての〈魔術師〉は杖を持っていると言っても相違ない。
無論、良い杖だとより燃費が良くなる。
アレンの〚闇御津羽〛は7割ほど効率が良くなり、さらに持ち主に魔力の供給も行える……とっても、とっても優秀な杖である。
逆を言えばアレンは〚闇御津羽〛がないと詰む。




