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銀色回路  作者: 青磁奏
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第2話 聖銀の鋳造所 ―セイント・ミント―


 首都エ・クルの北の端、きらきらと光るドームから、もうもうと煙の立ち上る煙突がそびえたっていた。

 数区画を壁で囲われた光るドームの正門へ向けて、各地の銀鉱山からの荷を載せた馬車が何台も入って行くのが見える。

 そこには、銀鉱石を加工する工房と、その工程に伴って発生するガスを逃すための煙突がある。工房の前庭では、溶かすためにまず銀鉱石を砕くのだが、屈強な男達が振り下ろす槌の響きが伝わるので、周辺には小さな地鳴りと砕かれる音が、規則正しく高く低く伸びていた。



「いつもながら凄い眺めだな」


 ドームの内側、工房の前庭で繰り広げられる光景に、金髪の若い男が感心するかのように呟いた。ちょうど正門を入ったところで、前庭がその前に広がっている。職人たちの槌の音に合わせて薄っすらとした煙が昇り、地響きと一緒に震えて消えていった。

 その若い男は背が高く、前髪が白銀のように白く抜けていた。かかる粉塵を前髪から払う白い艶やかな白羊の手袋が、午後の日差しに白く光る。


「ここに来るのは初めてかい? バリオン卿」


 男が振り向いた先には、黒い大きな狼が座っていた。

 その状態で、すでに成人の男性の肩あたりまで高さがある。艶やかな黒い毛並みが、工房の窓から差し込む日の光に光っていた。

 若い男の言葉に、ぴんと立った耳がぴくりと動く。耳の先端には、金の飾りが煌めいていた。


「君達一族が最も興味を示すところ。聖銀の鋳造所(セイント・ミント)さ。」


 黒狼が小さく唸った。

 工房内の粉塵が日の光に舞い、キラキラと光を放っている。工房にはいつの間にか職人が増えており、岩を砕く音は更に大きくなった。天候が良くなったので、工程を進めることになったのだろう。 

 そして、その区画全体を覆う光るドーム――水のドームを生み出す噴水が、工房のちょうど正面入り口の辺りに置かれていた。その水の薄い膜が、前提で砕かれた銀鉱石の粉塵を集めて外に出ないようにしているのだ。


「そのマスク、具合はどうだい? 粉塵を避けるためなんだが、声がこもるのが難点でね」


 若い男は、自身が付けているマスクを指でとんとんと叩いた。対する黒狼も、その形状にあったマスクをしている。

 薄い金属の枠に、叩いて薄くしたフェルトを幾重にも重ねてはめ込んだマスクには、目に見えない粒子も吸いつけるように、薄っすらと青白い魔力を帯びている。


「我々カドシュ王国の門外不出の工房だよ。王より命があった時は驚いたけど――」


 薄い抜けるような青い瞳が黒狼を振り返った。


「君が人の形をとらないのであれば、私ならここから先には入れない」


 黒狼は若い男を見返した。男の冷たく薄青い瞳に対して、中心に向かうにつれ、白く銀色がかって見える不思議な黒い瞳だ。


「バリオンは、この姿が本来の姿だ。人型になれというならその理由を述べられよ」

「郷に入れば郷に従え、ですよ。その姿では、この先都合が悪い」

「都合とは?」


 若い男は、軽く肩をすくめた。


「この先の工程では、防護服を着るのです。高温の環境なのでね。さすがにその姿形の防護服がない」


 黒狼はしばらく考え込んだ。


「良かろう。人型になるので、部屋を貸して頂きたい。アルギュロス卿」

「承知いたしました」


 金髪の青年は、にっこりと黒狼に微笑み、優雅な腕の動きで壁沿いの小さな離れを示した。






「ねえ、あと少し足を速められないかな?」


 カドシュ王国の首都エ・クルから離れるごとに、周辺の眺めには自然が多く入り込み始めていた。建物は低くなり、間隔が開き、牛や馬、鶏などの家畜がよく見られるようになる。空気の香りも、街中の雑多な匂いから木々の香り、動物などの自然の香りが強くなるのだ。


 


 

 


 


 



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