才能は開花する 1
「自己紹介も終わったし、早速案内するよ」
「いやいや、流石に早すぎる!ちなみに一つ確認なんだけど二人って日本人……だよね?」
「はい、日本人ですけど……?」
不思議そうに首をかしげるミライに、「ああ」とユナはそのまま言葉を紡ぐ。
現実とはかけ離れた空間に居るためか、この場所に滞在する者は一般的に容姿が変わってしまう。
セラのように日本人にも関わらず、金髪などの外国人風の見た目をしている人も少なくはない。
逆のパターンも勿論あるが、言語の壁が存在しないこの世界では国境を越えた関わりが無意識にも可能なのである。
「そうなんですね……」
「まぁ、私みたいに容姿があまり変わらない人も稀に居るんだけどね。あとは、兄弟で一緒にここに来ることもあるかな。二人もそうなの?」
「は、はい。生まれたときからずっと一緒で……」
「そうなんだね!ちなみに二人って学生?」
「私達二人とも中学一年生です。ソウトはこの間誕生日で、」
「え、誕生日おめでとう!年も近いみたいだし、敬語外して大丈夫だよ!」
そう言ってユナは笑いかけるも、二人とも戸惑いを含めながら感謝の言葉を溢す。
ユナはそんな二人の様子を見ながら、改めて彼らの姿を見つめる。
ミライと名乗った少女は腰まで伸びたストレートの艷やかな茶髪に檸檬色の瞳。
ソウトという青年は透き通るようなベージュ色の髪の隙間から、薄ら綺麗な空色を覗かせている。
ふと顔を曇らせた二人に、自然とユナも目線を後ろに向けることになる。
「表情筋が仕事してないけど、どうかした?」
「……誰のせいだと?」
「え、私?」
「毎回面倒事に巻き込んでくるのはこの場に一人しか居ないでしょ」
「それは……そうなんだけど、」
「そうだよね〜、だって事実だもんね?もうユナの才能みたいなものだし」
「才能じゃないんだけど……」
何やら思い当たる出来事があったのか、否、多すぎるからかユナは落ち込んだ雰囲気を見せる。
情緒が上ったり下がったりの彼女に、セラは何度目か分からないため息をつく。
こんな同期の世話をさせられるのは紛れもない自分だと分かっているからだ。
「ほら、話もこのぐらいにして。あそこに連れていくよ」
「……あの、さっきから言ってる……あそこって、どこなんですか?」
「あ〜、まだ説明は出来ないかな。ごめんね、法律で決まっているんだ」
「法律って、日本に戻れないとか、そういうことじゃ、」
「違う違う!眠りに落ちるようにこの世界に来たみたいに、再び目が覚めたら地球に戻ってるから!」
「とりあえず、ここは元居た世界とは違うとだけ認識しておけばいいよ。説明は着いてから行うから」
セラを先頭に、皆がその後に続く。
何の変哲もない場所で立ち止まったと思えば、白金に縁取られた扉が突如に姿を現した。
驚嘆とした声を上げた二人を気に留めることなくセラは黄緑色のシンプルなペンを取り出せば、二回クリックをしてたちまち鍵へと変化させる。
「!凄い……」
「特殊なペンなんだけどね、二人も持てる機会が来るといいね」
「……そうですね、楽しみです」
「ほら、行くよ」
鍵は吸い込まれるように形を見せた穴へと吸い込まれ、ガチャという音共に解放される。
ゆっくりと開かれた扉の先には、全くこことは異なった別世界が広がっていた。
洋風造りの純白の城のような建造物が目の前で鎮座している中、周辺には洋風の民家が綺麗に列を成している。
全員が潜り抜けてはあっさりと姿を消した扉の後ろには、巨大な噴水から奏でられる音だけが辺りを響き渡らせていた。
「さっきの扉は一体、」
「うーん、これも特殊としか言いようがないんだよね。まだまだ分かっていないことも多いし……あっ、でもあの扉にはさっきみたいな鍵が無いといけないかな」
「こんなところで立ち止まっていないで、さっさと行くよ」
手の届く距離にいたはずのセラが数メートル先から声をかけ、ユナたちは人混みを避けては進み始める。
体が透けている者、白騎士、黒騎士、妖精、獣人ーー多様な人種たちが行き来する度、ミライとソウトは粒らな瞳を忙しなく動かす。
城の中と外を区切る壁はなく、大きな空洞の下に広がる広場には多くの黒騎士が掲示板や受付を囲んでいるのが見て取れる。
「ここは……?」
「もう伝えていいかな……ここは夢幻郷、この世界ーー神界の中心って呼ばれてるところだよ」
そう告げたユナは、腕を大きく広げては勝ち誇ったように目の前の二人の前に立ったのであった。