眠り姫になってみたい
今日は金曜日“女のドラマシリーズ”です(*^。^*)
おばあ様の四十九日の法要がしめやかに執り行われたその週末に……私はお義父様お義母様から呼ばれて壮太朗さんの実家へお邪魔した。
この一年、お二人にはとても良くしていただいた。
恐らくは単なる“息子の嫁”としてでは無く、私と同じ歳で亡くなったお義姉様に私を重ね合わせておられたのだろう。初めてお目に掛かった時にお二人を驚かせてしまった程、お姉様と私は似ていたそうだから……
瀟洒なテーブルに運ばれて来た舶来の紅茶に誰も手を付けないまま、お義母様から口を開かれた。
「四十九日の法要の席で、壮太朗からあなた方の真実を聞かされた時は本当に驚きました」
そう! 真実を知った後でも私に優しい眼差しを向け続けて下さるお二人に、私は深々と頭を下げた。
「どうか壮太朗さんを責めないであげてください。悪いのはすべて私なのです。名ばかりの没落華族の三女に女医になる夢など元々分不相応だったのです。壮太朗さんはそんな私に援助をなさってくださった。それだけなのです。でも、おばあ様が亡くなられた今、これ以上皆様を騙すわけには参りません!私も壮太朗さんと同じ気持ちです。」
「壮太朗が!……女性に興味を持てないと聞いて私達はとても驚いた! あくまで“白い結婚”ならば、綾音ちゃんが女としても幸せを掴む事ができないと考えるのも致し方ないが……ならば、せめて私達の養女として、この一条の家から想い人の所へ嫁いで行ってはくれまいか? 私達も綾音ちゃんを家族として愛している」
「お義父様達も?」
「ああ、壮太朗は例え男色だとしても、家族として綾音ちゃんの事を深く愛しているよ」
「ええ、その通りです。 あなた方二人を見ているとそれをひしひしと感じて……『ああ!!綾音ちゃんがお嫁に来てくれて本当に良かった』って!とても喜んでおりましたのに……」
涙ぐむお義母様の顔にそっとハンカチをお当てになるお義父様……この優しいお二人の子供である壮太朗さんが優しくない訳があろうか!!
だからこそ私はこの家を出て!!壮太朗さんが長く待たせてしまっている冬惺さんの元へ彼を返してあげなくてはならない!!
だって私の壮太朗さんへの想いは……横恋慕なのだから!!
私はお二人に気づかれない様、そっと涙を拭った。
--------------------------------------------------------------------
家に戻ると壮太朗さんはまだ留守だった。
最後まで優しい壮太朗さんは私が医学に専念出来る様にと、何もかも用意して下さった。
後は身一つで、用意していただいた本郷のお家へ行くだけだ。
そんなにまでしてもらっても……私には何も差し上げるものが無い。
もちろん、壮太朗さんやお義父様お義母様に何かあった時は身を挺するつもりだけど……そんな事は起こらない方が良いのだから……
そうだ!冬惺さんにもお詫びとお礼を申し上げなくては……
受話器を取って交換手に番号を伝えると程なく冬惺さんの明るい声が聞こえた。
「やあ!綾音さん! 壮太朗とはどうですか? なにかと忙しくまだお邪魔できなくて心苦しいのだが……」
「ご心配をお掛けしましたが、それも今日までです。もうすぐ彼をあなたの元へお返しします」
「えっ?! どういう事ですか? 壮太朗とはうまくいっていないのですか?」
「……だって!! 壮太朗さんが愛しているのは冬惺さんじゃないですか!! 壮太朗さんはお義父様お義母様の前でもはっきりおっしゃったんですよ!『僕たちはお互い別々の想い人が居る』と!」
「でも、綾音さんはあの花田の正体を知って、とうにお別れになられたのでしょう?!」
「私はそうですが……壮太朗さんは違うでしょう!」
「アイツ!そんな事を!!……」
冬惺さんは電話の向こうでため息をついて“真実”を教えてくれた。
「確かに私は男色家で壮太朗の事を好きだが……綾音さんの事も“人物”としてとても好きだから。二人が幸せな家庭を作る事を心から願っています。なぜなら壮太朗は男色家ではなく、アイツが愛しているのはあなただけだから! 壮太朗が両親の前で男色と宣言したのはあなたへの愛に殉ずるつもりなのでしょう」
その言葉に私の目からブワッ!と涙が溢れた。
「私も壮太朗さんの愛に殉じてよろしいのでしょうか? こんなにも!!花田の手垢にまみれてしまっているのに……」
「もちろんです!! 今度こそ幸せにおなりなさい!」
--------------------------------------------------------------------
湯あみを終えて寝衣に着替え、洋風の大きなベッドにこの身を横たえる。
壮太朗さんが私を抱きしめてくれたのはたった一度……花田の裏切りがはっきりして、どこにも身を寄せる所が無く、途方に暮れた私をこの家に招いてくれて……「お互いの助けになるから」と私に“白い結婚”を申し込んでくれた時……それ以来、手を触れられる事も無く、それは壮太朗さんが男色家で私も穢れているせいと思い込んでいた。でも!!
壮太朗さん!
私は今、胸をときめかせてあなたを待っています。
このあなたのベッドの上で
そっと目を閉じて……
帰って来て
私を覗き込んだあなたを抱きしめ
今宵からここを……
ふたりのベッドにする為に!!
どうかどうかこの私を
あなたの本当のお嫁さんにして下さい!!
私はあなたとの愛の結晶をあなたと共に、この腕に抱きたいのです。
二人の幸せはようやくここから……
ちょっと古風な感じに書きました(#^.^#)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!