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シジミの玉座 ~狂気と暴力の王位争奪戦~  作者: へびうさ
第二章 炎の内戦

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85.王になるための戦い

 反乱軍が王都へ進軍中との報告を聞いたメアは、ギデオンを呼び出した。


「出陣の準備はできています。ネキ殿もいつでも出られるそうです」


 玉座の間にやってきたギデオンは、今回も野戦で決着をつけることを主張した。


「籠城という選択肢はないの?」


 収穫を終えた小麦を王都に集めたので、食糧の心配はなくなったはずだ。


「防衛戦では住民と守備兵が心を1つにして耐える覚悟をしなければなりませんが、破門のせいで信心深い奴らが陛下に不信感を抱いてるようなんです。籠城すれば、反乱軍に通じて門を開ける奴がきっと出てきます」


(援軍が来ることも期待できないでしょうね)


 メアが破門された影響は、やはり大きかった。

 諸侯や民兵から多くの離反者が出て、9万人いた諸侯軍は7万人に、5万人いた民兵は4万人に減っている。


 もっとひどい状況も覚悟していたが、その程度で済んだのは、宰相のマリーズが利をちらつかせて諸侯たちを引き留めてくれたからだ。


 彼らには広大な領地を与える約束をしてしまったが、反乱軍に参加した諸侯の領地を没収して与えれば問題ない。

 兵力ではこちらが大きく上回っているのだから、やはり迎撃に出るべきだろう。


「ギデオン将軍、今回も女王陛下が自ら出陣なさるのですか?」


 そうたずねたのはマリーズだ。


「もちろんです。私の身分ではプライドの高い諸侯たちを従わせるのは難しいですし、民兵は陛下がいないと士気が上がりません」


 ギデオンの言うことはもっともだ。


「メアが戦場に出るのは危険じゃないの? 敵はメアをねらってくるわよ」


 ローザがわかりきったことを言った。


「もちろん危険です。ですがここに残ったとしても、負ければどのみち終わりです」

「メアが出陣すれば勝てるの? 反乱軍の人数は前回よりもかなり増えているし、総司令官はあのアクセルだっていうじゃないの」


 ローザが無意味なことばかり聞くので、メアは恥ずかしくなった。

 もう戦う以外に道はないのだ。だったら少しでも勝つ確率を上げるために最善を尽くすしかない。


「全力を尽くします」

「全力を尽くすのは当たり前でしょう! 私は勝てるかどうかを聞いてるの!」


「そんなに心配なら、お母さまも私と一緒に来る?」


 メアがこんな嫌味を言ったのは、自分は何もしようとせず、余計な口を出すだけのローザに腹が立ったからだ。

 案の定、ローザは慌てている。


「え!? い、いえ、私は――」

「せっかくのご提案ですが、王太后陛下はいない方がよいと思います」


 ギデオンがきっぱりと言ったので、メアは噴き出しそうになった。

 ローザがいても邪魔になるだけということだろう。


「なっ!? あなた、この私に向かって――」

「まあまあお母さま、戦いのことは私とギデオンに任せて。マリーズ、後のことは頼むわね」


 メアは玉座から立ち上がった。


(今度こそ、反乱軍を完膚なきまでに叩きのめしてやるわ)


 その顔は決意に満ちていた。前回の戦いで勝利を得たことが、彼女を女王として成長させたのだ。




―――




 その日の行軍を終えた反乱軍は、宿営地を設営して休んでいた。

 すっかり夜も更けており、見張り以外の兵士たちは眠りについているだろう。


 だが俺はまだ眠るわけにはいかない。総司令官用の天幕にニートを呼び出し、明日以降の行軍について検討することにした。


 大きな木製のテーブルを囲んで、俺、ニート、ギャザリン、そしてティコが立っている。

 テーブルの上に広げられているのは、この付近の地図だ。


「俺たちはケンブリー街道を通って、王都に向かって進軍している。現在地はここだ」


 俺は地図の上にシジミの貝殻を置いた。「間者の報告によれば、メアも10万を超える軍を率いて王都を出たそうだ」


「予想通りですね。会戦でメアを討ち取れば、私たちの勝利です」


 ギャザリンが発言した。


「そのことでずっと気になってるんですが、アクセル様はメアを殺せるんですか?」

「どういう意味だ、ティコ?」

「だってメアはアクセル様の妹じゃないですか」

「忘れたのか? 俺は兄のローレンを熊に襲わせて殺したんだぞ」


 このことはニートとギャザリンにも話してある。


「ローレンは大人の男でしたが、メアは15歳の少女で、戦う力もありません。偽善者のアクセル様にとって、自らの手でぶっ殺すのには抵抗があるんじゃないかと」

「15歳なら、もう一人前だ。それに彼女が王殺しの大罪を犯した以上、許されることは絶対にない。ならばせめて俺の手で苦しまずに殺してやるのが、兄としての愛だ」

「覚悟ができているんですね。疑ってすいませんでした」


 ティコは神妙な顔で頭を下げた。覚悟を疑ったことよりも、いつまでも俺を偽善者扱いしてることを謝ってほしいんだが。


「カーケンだって、前回のヒースター平原の戦いではメアを討ち取ろうとしたはずだ。しかし敗れている」


 ティコのことを気にするのはやめて、俺は話を進めた。


「はい。ですが今回軍を率いているのは、アクセル様です」


 ギャザリンが誇らしげに答えた。「しかも参謀としてニート閣下がついています。前回と同じ結果になるはずがありません」


「その通りだ。とはいえ前回と変わっていない要素もある。今回も俺たちは、ヒースター平原を決戦の地にしようと考えている。ニートがそう決めたからだ」


 俺たちは、ワインを飲みながら地図を見ているニートに目を向けた。


「ドーンポリスと王都の間では、大軍を展開できる場所は限られています。カーケン殿下がその中からヒースター平原を戦場に選んだ判断は、間違っていなかったと思います。こちらの強みである騎兵は、大きな平野でこそ力を発揮できるからです。

 散開戦術を採用する今回は、機動力がより重要になるので、ヒースター平原はもってこいの場所です」


 ニートの説明は、相変わらず理路整然としていた。

 とはいえ先日の軍議のときと比べると、やや迫力に欠ける。まださほど酔いが回っていないからだろう。ウイスキーであるタラサン・ブレンドと比べて、ワインでは酔うのに時間がかかるのだ。

 タラサン・ブレンドも持ってきてはいるが、戦場に着くまでは温存しておきたい。


「さあ、もっとガブガブ飲んでください」


 ティコがニートのグラスにワインを注ぎ足した。


「ああ、ありがとう」


 ニートはグイっと飲み干した。さすがにティコは酒をすすめるのがうまい。


「ですが私たちにとって都合のいい場所なら、敵はそこを戦場にはしたくないでしょう。こちらの誘いに乗ってこないのではありませんか?」


 このギャザリンの疑問には、俺が答える。


「いや、俺たちがヒースター平原で待っていれば、きっと敵は会戦に応じてくる」

「なぜですか?」


「破門宣告のせいで、多くの諸侯がメアから離反した。現在メアに従っている諸侯は、ただ勝利の果実を得たいだけの奴らだ。そいつらは軍費と兵糧を浪費することになるので、持久戦を好まない。戦いが長引くほど、破門された女王に味方することには利益がないと思うようになる。メアもそれがわかってるから、短期決戦で勝負をつけたいはずだ」


「なるほど。破門の効果は大きかったわけですね」

「もちろん会戦で一気に勝負をつけたいのは、俺たちも同じだ。内戦が長引けば長引くほど、国力が疲弊する」


「フハハハッ! 殿下のおっしゃる通りだ!」


 ニートが突然大声を出した。「戦争は早く終わらせねばならない、長期戦など愚の骨頂!」


「ニートさん、かなり調子が出てきましたね」


 ティコの言う通り、ニートの顔面は紅潮し、目は大きく見開かれ、黒眼の周りを大きな白眼が取り囲んでいる。あの軍議の時と同じだ。


「そのためには、戦闘で圧勝しなければなりません。多くの被害を出した末の勝利など、吾輩は認めません」

「おお、さすがはニートだ」

「ですが、さすがに誰も死なないというわけにはいかないでしょう」

「それは戦争だから仕方がない。俺がさっさとメアを討ち取れば、被害は少なく済むはずだ」

「殿下はこの戦いの目的について、どう考えておられる?」


 唐突にニートが質問をしてきた。


「もちろんメアを倒すことだ」

「それだけですか?」

「他に何がある?」

「殿下の最終的な目的は、王になることでしょう。これから行うのは、そのための戦いであることを忘れてはいけません」

「ああ、それはそうだ。だから俺はこの手でメアを討ち取る。戦場で活躍すれば、国王選挙で諸侯たちが票を入れてくれるはずだ」


 俺は自信をもってそう言ったが、ニートは首を振った。


「殿下、わずか100騎で敵の総大将を討ち取るのはすごいことですが、それは戦士としての強さです。王としての強さとは違います」

「それは……確かにそうだな」


 武勇を示せば諸侯たちの支持を得られるというのは、甘い考えだったろうか。


「いや、吾輩としたことが、つまらないことを申しました」


 ニートは話を打ち切るように言った。「殿下は選挙のことなど考えず、戦うことに集中してください。頭脳労働は吾輩にお任せあれ」


 それからは何をたずねてもニートは答えてくれず、ひたすらワインを飲み続けた。

 俺が王になるためには、どのように戦うべきなんだろうか。はっきり答えてくれないのがモヤモヤする。


 まあいいや。

 ニートが戦うことに集中しろと言うなら、そうしよう。


 俺もワインを飲んで寝ることにした。

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