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シジミの玉座 ~狂気と暴力の王位争奪戦~  作者: へびうさ
第二章 炎の内戦

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69.ニートの苦悩

 メアは残酷な処刑法に苦言を呈しただけの住民5人を、殺してしまったらしい。


 それ以前も彼女は、自分の悪口を言った者を法に基づかずに処刑していた。

 間違いなく、今後も同じようなことが繰り返されるだろう。

 ジェラールたちが死に、もうメアを(いさ)めることができる者がいないからだ。


 ユリーナの言う通り、今こそ俺が動くべきかもしれない。

 俺が王になろうと思ったのは、不当な扱いに苦しむ弱者を守るためだったのだから。


「この国の王にふさわしいのは、アクセル君だけだと思うんだ」


 ユリーナは続けた。「実はここに来る途中で知ったんだけど、カーケンが反乱軍に参加するためにドーンポリスに向かったみたいなんだよ」


「なに? そうなのか?」

「うん。このままカーケンが反乱軍を率いてメアを倒せば、今度は彼女が女王になっちゃうかもね」


 それはまずいな。カーケンが女王になれば、邪魔な存在である俺を殺そうとするだろう。

 それにあいつはメアに負けないほど暴君の素質がありそうだから、国民はさらに虐げられるに違いない。


 どうやら俺は覚悟を決める必要がありそうだ。

 というより、自分の気持ちに正直になるべきだ。


 俺は隠者よりも、王になりたい。

 待っているだけでは王にはなれない。慎重さが必要な時もあるが、動くべき時には動くべきだ。


「うう……」


 青ざめた顔のギャザリンが、ふらつきながら戻って来た。


「しっかりしろ、ギャザリン。処刑の話を聞いただけで吐いているようじゃ、戦場で敵と戦うことはできないぞ」

「戦場……?」

「俺の配下として戦うつもりがあるなら、二度と情けない姿を見せるな」

「は、はい! 申し訳ありません!」


 ギャザリンはビシッと背筋を伸ばして直立し、深々と頭を下げた。


「ティコ、旅の準備をしてくれ。明日、ここを引き払う」

「わかりました」


「アクセル君、それじゃあ――」


「ああ、その通りだ」


 俺はユリーナに向かってうなずいた。「もう隠者はやめだ。俺は王になる」




―――




(ああ、なんでこんなことになったんだろう……)


 ニートは自室のベッドの上で布団にくるまり、頭を抱えていた。


 毎日のように各地の諸侯が、反乱軍に参加するためにドーンポリスにやってくるのである。

 王家に対して反乱を起こすのは勝手だが、何もここを拠点にしなくてもいいだろうと思う。


 これではライジング家は無関係です、などと言っても通用するはずがない。それどころか、ニートはベアードと並ぶ反乱の首謀者と思われていた。


「ねえニート、お絵かきしようよ」

「ぐえーっ!」


 いきなりマクシムが腹の上に飛び乗ってきたので、ニートは悲鳴を上げた。


「ぐ……絵なんて1人で描いてればいいじゃないか」

「それじゃつまんないもん」


(なんでこの子は僕になついてるんだろう?)


 マクシムはドーンポリスに来て以来、なぜかニートの部屋に入り浸っている。

 まだ2歳なのに両親を失い、さらには知らない場所に連れて来られてさびしいのかもしれない。


「はあ……わかったよ」

「やったあっ!」


 泣き出されたら面倒なので、ニートは相手をしてやることにした。

 それから30分ほどマクシムと一緒にお絵かきをしていると、タラサンが部屋に入ってきた。


 自分のことをアクセルの家畜だと言っている変な女だ。

 ここでは食客の扱いだが、領主の仕事を手伝ったりもしてくれている。


「ニート閣下、グレンヴィル公が800の兵を連れてやってきました」

「また人数が増えたのか……」

「ライジング家の当主として、挨拶をするべきだと思いますが」

「僕はいいよ。ルースに代わりにやってもらって」


 ルースはまだ16歳だが、兄のニートとは正反対の社交的な性格だ。彼ならうまく挨拶をしてくれるだろう。


「ではルース君に伝えておきましょう。でもニート閣下も、もっと人々の前に顔を出した方がいいと思いますよ。そうしないと、反乱軍をカーケン殿下に乗っ取られてしまいます」


 カーケンも反乱軍に参加するためにここに来ている。彼女はその身分と実績によって、すでに反乱軍の中心的な存在となっていた。


「どうぞどうぞ。反乱軍なんて僕には関係ないから、好きにやってよ」

「ですがカーケン殿下がリーダーになると、あとでアクセル様が来られた時に、ひと悶着あるかもしれません」

「アクセル殿下は来てくれるかなあ」

「きっと来られます。私に会うために」


(来るとしても、そんな理由じゃないと思うけど)


 アクセルが女のために戦うとは思えないが、タラサンは背が高くて胸の大きさは控えめ。アクセルの好みのタイプではあった。


(それにしても、このタラサンという人はつかみどころがないなあ)


 もちろん悪い人間ではない。彼女は「働くのが大嫌い」と公言しているため、ニートは親近感を抱いていた。


 とはいえ、彼とタラサンとでは大きな違いがある。

 タラサンは働こうと思えば働くことができるのだ。しかも、かなり有能である。


 ニートはそうではない。彼はどう頑張っても働けない。

 何かをしようとするたび自分の無能さを痛感するので、恥ずかしくて何もできなくなってしまったのだ。


 だから1人でこの部屋に引きこもり続けていた。領主の地位もルースにゆずるつもりだった。

 それなのに父が死んだ後、アクセルはニートにライジング家を継がせた。


 どうもアクセルはニートのことを過大に評価している気がする。『不敗公』という冗談のような異名をつけたのも彼だ。

 アクセルは幼い頃、ニートを兄のように慕っていたことがある。その当時の印象が、今も残っているのかもしれない。


「ねえ、おばちゃんもお絵かきしようよ」


 マクシムの無邪気な一言で、部屋の空気が凍り付いた。


「あらマクシム君、言葉を間違っちゃだめですよ。19歳である私が、おばちゃんのはずがないでしょ?」


 タラサンはそう言って、ヒラヒラのかわいいドレスを見せつけるように、くるっと一回転した。

 しかしマクシムはキョトンとしている。


「じゃあ、おばあちゃん?」


 タラサンの背後から、どす黒いオーラが立ち昇った。


「この私のことを……よくもまあ……」

「あ、あの、2歳の子どもの言うことですから……」


 なんとかタラサンをなだめようとしていると、


「よう、邪魔するぞ」


 カーケンがノックもせずに入ってきた。相変わらずの、大胆なビキニ姿だ。


「あっ、怖いおねえちゃんだ!」


 マクシムはおびえてニートの後ろに隠れた。彼にとってカーケンは叔母だが、母親のメリアーヌを殺した仇でもある。


「私がおばちゃんで、実の叔母であるカーケン殿下がおねえちゃんて……」


 タラサンは(うつ)ろな目で、何やらぶつぶつ言っている。

 カーケンはそんな彼女を無視して、ニートに話しかけてきた。


「おいニート」

「は、はい」

「さっきグレンヴィル公が来て、800の兵が新たに加わった。これで反乱軍の兵力は1万を超えたことになる」

「そうですか」

「そうですか、じゃねえだろうがっ!」

「ヒィッ!」


 カーケンが怖いのはニートも同じだ。

 彼女はニートの父親である先代ライジング公を暗殺した疑いが濃厚なのだが、とても仇を討とうなどという気にはなれない。


「もう兵力は十分だろう、王都に攻め込むぞ。総司令官はこのアタシ、おまえは副司令官だ。さあ、すぐに準備しろ」


 カーケンは有無を言わせぬ口調で言い放った。

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