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「君はどうやらヒトと遜色のない知性を持っているようだけど、どこから来たんだい?」
明らかにその言葉は日本語では無かったが、優はその言葉を理解することが出来た。どうやら目の前の人物は優がただの猫でないことに気づいて居るようだ。優は身振り手振りを交えながらどうにか自分の現状を説明しようとする。
「にゃにゃにゃーにゃ、にゃーにゃにゃーにゃ…にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ…にゃにゃにゃ?(オレは山岸優って言います。気が付いたら猫になってて…日本の学生だった事は覚えてるんですけど、それ以上のことは思い出せません…って伝わらないですよね?)」
「いや、伝わってるよ。」
「!!」
「どうやら君は異界から来たようだ。この世界にニホンなんて名称の土地は無いし、君がものを考える時に使用している言語体系はこの世界のものではない。この世界について少し説明してあげよう。」
そして、優は目の前の人物からこの世界についての説明を受けた。
いわく、この世界は地球とは全く異なる世界であり、この地の人々は禁域と呼ばれる領域から資源を得ながら生活していると言う。優が最初に目を覚ました洞窟も禁域のうちの1つで、下層世界へと繋がるとされる大穴の一部であったらしい。下層世界とそこにつながる大穴は<<深界>>と呼ばれ、採集者と呼ばれる人たちがそこでエネルギー資源や遺物と呼ばれる特殊な機能を有する道具を収集しているのだとか。優との会話が成り立っていたのは<<三つ目の耳>>と<<二つ目の口>>と呼ばれる2つの遺物の効果によるものであり、それぞれ周囲の思念を読み取る効果と自分の思念を周囲に伝える効果を持つと言う。優は説明を聞き終わったのち、彼自身にとって最も重要な質問をした。
「にゃにゃにゃ?(オレはもう元の世界には帰れないんですか?)」
目の前の人物は少し思案するそぶりを見せたのち、こう答えた。
「何事にも絶対はないが、まず無理だと思った方がいい。」
薄々気づいてはいたが、優は落胆を隠せずバスケットの毛布に顔をうずめる。
「私にとって君の存在はとても興味深い。身の振り方は好きにすれば良いが、ここで生活するなら寝床と食事くらいは用意しよう。」
そう言うと、目の前の人物は椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名前はユリアだ。どれほどの付き合いになるかは分からないがこれからよろしく、ユウ」