旅立ちの朝は早く
つまらないミスのせいで本来手に入る金額をぐっと少なくさせたドジっ子テイマーのわたしではあったけど、それでも手元に残った金銭は少なくはなく、泊まった宿で目を覚ませば別料金で美味しい朝食に笑顔になっている。
寝起きに体を起こした時には信じられない筋肉痛に床をのたうち回ったけど、そんなことは美味しいものを口にしたところで綺麗さっぱりと忘れ去った。
ジョブ持ちの特徴として、体外から食物を取り込むことで体の治癒が早まる傾向があるとか。
そしてお腹を満たしたわたしが向かったのは、この街の広場。
宿のご主人がいうには、そこに掲示板があってこの街の周辺情報が掲載されているらしく、元の街に戻るにしても方角さえ分からないわたしは、街の周囲についても知識がないためとりあえず向かうことにした。
まだ朝も早いこの時間は、宿屋などはともかく大抵のお店は閉まっているし、人の通りも決して多くはない。
なのに、わたしの目的地あたりには人だかりができている。
「なんの集まりですか?」
当然気になったわたしは集まっているひとを捕まえて尋ねてみる。
「魔獣退治の冒険者を見送るのさ」
「魔獣の……」
ただそれだけだという。だけどその“魔獣”というのが人だかりを作った理由であるのは間違いない。
「獣でもなく魔物でもなく魔族でもなく?」
「そう、魔獣。それも北の山脈に棲む主だからね」
獣はわたしが自警団で活動していた時に相手していた魔力とは縁のないただの動物。魔物はどうかして魔力と特殊能力を身につけた獣で、魔族は人間たちの脅威。言うまでもなく魔王の配下だ。
そして魔獣は火を噴く狼やツノの生えたウサギ程度のものと一緒にするにはあまりにも強大すぎる魔物を指す言葉で、その危険度は並の魔族をも凌ぐという。
「僕たちに任せてくれ。必ず討伐してみんなを安心させてやるっ!」
人だかりの中心から爽やかで勇ましい声が聞こえてくる。小柄なわたしからは人垣に遮られてその姿も見えない。
「なんでも聖騎士さんと賢者さんに重騎士さんらしいよ」
「このあいだも西の洞窟に棲むナーガを討伐してくれたからなあ。あの人らが出張ってくれたなら間違いないよ」
「そんなに強いんですね」
ナーガは人を模した体に蛇の下半身を持つ猛毒を武器とする厄介な魔族として知られている。はじめてその存在を耳にしたとき、わたしは出会ったら即逃げだなと思った記憶しかない。
街の人たちはそんな冒険者たちに手を振り期待の声をかける。
(いいなぁ……)
そんな気持ちが胸の奥から湧き上がるのがわかる。だってああいうのがわたしが夢見た姿のひとつだったんだから。もちろん、魔族の脅威に震えるひとたちを救いたいという気持ちが一番だけども
わたしが他のジョブであったなら、もしかしたらあそこに立っているのは自分で、今頃はちやほやされて気分もいいのだろうな、なんて妄想してしまうのも仕方ない。
「ん? そこにいるのは冒険者か?」
この人だかりで、どの角度から見つけられたのか。ジョブ持ち同士であれば相手を見ればそれと分かるとはいうけれども。
冒険者の間では匂いだとか雰囲気だとかふわっとした表現で伝わる感覚が、聖騎士の男のひとにわたしがそうだと知らせたらしく──その言葉に彼とわたしの間で人だかりが割れる。
人だかりで見えなかった冒険者の男のひと──お高そうな鎧に身を包んだ金髪のイケメンとばっちり目が合った。
こんな人ならあの鎧も着れたんだろうなあ、まあ売っちゃったから知らないけど。
わたしと男のひとが見つめ合った時間はそれほど長くない。どちらもが目を離さないでいたけど、賢者の女のひとと重騎士の男のひとがわたしを見て、手を広げ肩を上げながら首を振った。
「冒険者って、テイマーじゃないの」
「戦力補強とはいかず残念だったな、リーダー」
「あ……そうだね」
「……」
そんなものだ。
人々の注目を集めてしまったうえ、ふたりがとった言動に申し訳なくなったのか、聖騎士の男のひとが視線を逸らしたすきに、わたしは足早に人だかりを離れた。




