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エスケープワン

「うっわ……ぁっ! 骸骨ぅぅっ」


 もし湖のそばに佇む騎士が、名のある冒険者であったなら、或いはもっと確かな地位にある強者であったなら──。


 助けてくれるかもしれない。そんなわたしの期待は、必死に逃げるわたしの足音に振り返った騎士と馬を見て粉々に砕け散った。


 代わりに訪れたのは混乱と恐怖。


 ジョブ持ちのわたしは人より精神的な強度が高いはずなのに、それなのに恐怖したのは、テイマーのわたしでは逆立ちしたって敵わない相手だからだ。


 そのうえ、目があっただけで死ぬかのような圧力を感じて口から魂が半分こんにちはしてるかも。


 もはやわたしの頭で正常な思考も判断も出来るわけがない。


 残った少しの理性でとった行動は、わたしが冒険者を目指した時に当然のように頭にあった目標によるもの。


 魔族を、魔王を討伐する。


 肉も皮もない、鎧を着た骸骨へ向けてわたしの足はもつれそうになりながらも止まることはない。勢いがつきすぎて止まらないし、止まったら今度こそスライムに食べられるの確定だもんっ⁉︎


 進むしかないわたしは腰の武器を取ろうとして──諦めた。


 あんな分厚い鎧も魔力の防壁も突破できそうにないから。何より骸骨がこわい。もうどうにでもなーれ。




 ⭐︎⭐︎⭐︎


「何故ここにそれが──」


 驚き固まる私の視界は既に人間のことなど映してはいない。そんな矮小な生き物より、その向こうから訪れるものが信じられない。人間は最後の抵抗にその手にしたものを私の顔面に叩きつけたらしいがどうでもいい。


 何やら変なものを私の顔面に叩きつけた人間は勢い余って脇を通り抜けて背後の湖に飛び込んだようだ。


 そして派手な水音を背に、それは行われた。


 赤い津波は怒涛の勢いを緩めることなくたどり着き獲物にありつく。


 ああ、何をしたのかと思えばあの人間──その人間の服の残骸が私に張り付き引っかかっていた。


 どういう経緯でそうなったのかは分からないが、とんでもない攻撃をして消え去ってくれたものだ。


 私は魔王様の配下にして魔王軍最強を担う一角。この先の華々しい活躍に、私は未来永劫魔王様と共にあるものと疑う事なく──それが愛馬とともに。


 なんとも、締まらぬ終わりであったな。




 ⭐︎⭐︎⭐︎


 わたしは陸に生きる民族の生まれで、冒険者を夢見てジョブを手にしても結果は役立たずのテイマーで、多少ひとより頑強な体を手にしても泳ぐ術なんて知らない。


 どうにか息も絶え絶えに湖の底を犬かゾウリムシのように這って岸にたどり着いた時には、骸骨の姿もスライムの姿もなく、傾いた太陽がそろそろ空を朱に染めようかという長閑な景色があるだけだった。


「死ぬかと……思った」


 這々の体という言葉をそのまま当てはめたような上陸を果たして生還したわたしは、口から鮒を吐き出して見栄を張った胸当てから鯉を取り出し、脱いだブーツを逆さまにしてメダカの親子を湖に返すと、息を整えて辺りを見る。


 まだまだ油断はならないはずだけど、スライムの姿が見えないだけで簡単に安堵して平静を取り戻した。


「おや? あれは……」


 落ち着いたところでわたしは湖のほとりに落ちているものを見つけて、なんだろうかと近づいていく。


 そこにあったのは、わたしの目にも分かる上等な鎧一式とまともに扱えるはずもない大きな大剣。それと──。


「うわあ……しゃれこうべだわ」


 そこに落ちてたのはふたつの頭蓋骨。人間のものによく似たそれと馬のものによく似たそれ。その他にもやたらとたくさんの骨が散乱していて、異臭も肉片もないことからとても古いものだと思う。


「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」


 手を合わせておざなりなお経を唱えたわたしは、転がっている骨たちを水葬と称して湖に捨てていく。


「これはわたしが使ってあげるからね」


 別にこの世界では珍しいことじゃない。死人の装備も道具だって無駄にするくらいなら有効活用することは。


 ただ──。


「……んっ。デカいしとにかく重たいな、これ」


 どんなに着方を変えてみても何ひとつとしてフィット感を得られなかったわたしは、湖の向こうに見える街で売り払おうと心に決めた。



 いちにちめ戦績。

【魔王軍幹部、無明の骸骨騎士討伐】

 戦利品

 ・滅尽大剣【阿鼻】※装備不可

 ・魂潰啜鎧【大叫喚】※装備不可 ※ジャンク



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