夢見てたのはもう過去の話
もともと人間たちが住む世界とそれ以外の種族が住む世界はこれまで上手く棲み分けられていた。
それが魔族の中に魔王と呼ばれる王様が現れてから、少し様子を変えてしまう。
──魔族の王様は戦争が好き。
わたしたち人間よりもずっと強い魔族とは、これまでお互いに助け合う関係性だった。なのに、今は魔族が人間族を攻めて滅ぼそうとしている。共生は、魔王のたったひと声で終わりを告げて、征服する側と拒む側になってしまった。
だから人間族は魔族に対抗しうる力を手にして、毎日激しい戦闘に身を投じている。もちろんこのわたしも、人間族のため、平和のためと、そうなるはずだったんだけど……。
「お、テイマーの嬢ちゃん。今日もよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
魔族との戦闘が絶えない最前線とはほど遠い、わりかし平和な街で普通の獣や悪いことをする人を相手に、自警団の一般人に混じってパトロール。それがわたしの仕事。
本当なら今ごろはカッコいい武器を持って魔物や魔族を相手に武勇伝をいくつも作り上げているはずなのに。
それもこれも、わたしが手にしてしまったジョブが悪い。
魔族と戦う勇気のある人たちは、国に申請してジョブを手に入れられる。年齢制限があったり、ジョブ持ちは緊急時の招集を断れないとか、なれるジョブは抽選だとかあるけど、どんなジョブになったとしても一般人よりは頑丈でパワフルになれる。
打倒魔族の機運が高まってる今ではジョブを手に入れない理由はないと言っていい。もちろん仕事してたり家庭を持ってたりしたら強制召集は考えものだけど、今の若い子たちは大体ジョブを手に入れる選択をする。
「そうなんだけど、ハズレもあるんだよなぁ」
それがわたしのジョブ“テイマー”だ。愛用の武器は鞭。それもジョブを手に入れた時に記念でもらえる“テイマーの鞭”ってそのまんまの名前の鞭。
「はっは、それでも俺たちより強いんだから。頼りにしてるよ」
「はあ……」
日に焼けた自警団のおじさんが言うそれは本当であり嘘でもある。
肉体的には頑丈だし、走ってもわたしの方が速いし長く走れる。けれど技能は鞭一本。熟練のおじさんたちと手合わせしたとしたら、きっと負けるのはわたしだと思う。
「よわっちぃテイマーは猿回し……っと」
わたしがひとり愚痴ってる間に自警団は野犬か狼の群れに出くわしていた。とはいえわたしの出番はここにはない。ただの獣相手なら、おじさんたちの方がずっと対処が上手い。
観戦している間は周りを警戒しつつ、わたしの妄想時間だ。
こんなわたしでもいつか強くなっちゃって有名になって……なんて。要は暇してるってことで。髪型でも変えて遊んでみるかな? わたしの茶色い髪はいつも長い三つ編みにしてゆらゆらと揺らしている。いっそ縦ロールにでもしてみる?
今のところまだ出番はないけど、いざという時のために装備も戦闘用だ。服は白の長袖シャツと茶色いズボンにブーツ。その上から革の胸当てに小手、腰回りにスカート状の道具入れを装備している。どれもお金のないわたしの持てる最高品質だ。
物思いにふけているうちに、あっという間に獣たちを制圧したらしい。親指立てて終わったよって教えてくれるおじさんたちに引き続きついて行く。やる気なんてほぼほぼ無くて申し訳ない限りだけど、これがわたしの仕事なんだよなあ。
呑気に構えるわたしはこの先に、運命の出会いなんてのがあるなんて、この時は知る由もなかった。