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ピザ二枚分

作者: 森川めだか

ピザ二枚分


 人は食べる人でおいしさを感じるのだと思う。

私が食べた「一番おいしい記憶」は母と食べたピザだ。

その日は僕も仕事で母も仕事で、偶然半額クーポンがあったからMサイズのピザを二枚頼んだ。

父が亡くなってからもう何年ぶりだろう、というくらい久しぶりのピザの出前だった。

僕は長いことうつ病でそれどころではなかった。何も楽しいこと嬉しいこと、おいしいことがなかった。

そんな僕もやっと良くなって、パートを始めるだけの体力がついて働き出せた。いつも、昼食は母が、夕食は僕が作っておくのが基本だったが、昔のことなのでなぜその時ご飯を用意していなかったのか記憶にない。

 来たピザは当たり前だけど初めて利用するピザ屋さんで、僕も母も口にはしなかったが、ピザなんて本当に久しぶりなこと、これまでの長いこと、ピザがMサイズ二つで充分なことに、知らずにウキウキしていた。

 いつもは僕ばっかり食べてしまって、母に遠慮していたのだが、この時はそんなことなかった。

食べ終わった時、充足感だけがあった。僕がどれだけ食べたか、母がどれだけ食べたか気にすることもなく食べた。

「家族」だと思った。この時、私はこの家族が生き返ったのだと思った。

私も母も「足りていた」。二人が分けたのはピザの二枚だけではなかったのだ。

「おいしい」

当たり前のことだけど、それはとても特別で得難いものだと思う。

後にも先にもあんな充足感はなかった。

それからあのピザ屋さんを何度か利用して、その度にウキウキしたがあの時のようなことはなかった。

きっとあれは神さまが特別に僕たち家族に用意してくれたものだったと思う。

これからもそんな「おいしい記憶」を作り続けようと願って私たちは生きていくのだろう。

分け合って、作り合って、向かい合って。

それは偶然にピザだっただけで、本当は何でも良かったのかも知れない。

ただ、あの時に、どっちかが苦労して作ったご飯ではなく、デリバリーされて来たピザ二枚だったことが、僕には何か特別な縁を感じるのだ。

いつも、見守っているよ、と。


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