探索報告書 5
覚えていたこと全てを紙に書き終えた後僕はあたりをもう一度ぐるりと見まわす。
「ここは…本当にどこなんだろう」
そんな言葉をこぼして視線をメモに落とす。
「そんなことしてなにになるの?」
ズキリと頭が痛む。こころなしか自分の心拍数が上がっているようにも感じる。
「君はここから出られない」
頭の中にそんな声が響く。
「苦しい?」
うるさい…
「おかしいな…こんな程度じゃ君は苦しまないはずなのに…」
僕のじゃない誰かが僕の脳内で言葉を紡ぐ。
「まだ…足りないのかな…」
「うるさい!!」
僕はついに怒鳴った。真っ白いこの部屋で誰かもわからない人に。
「これは私の実験なんだからあなたに決定権はないの」
僕はもうその言葉に耳を貸さなかった。その代り立ち上がり例の鏡の前に立ちこぶしを握る。
「いいの?」
それは今までの声音とは少し違う…本当に心配するような声。
「それを壊したらあなたもきっと壊れちゃうよ?」
「僕は…壊れない」
こぶしを強く握りしめる。
「そう…」
声の主は僕の行動を止めなかったけれど一瞬心配するような声が聞こえたのはなんでなんだろう。そんなことを考えながらもこぶしは鏡にたたきつけられる。
「なら私は少し黙っててあげる…キミがそれを受け止めきれるならね」
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。いいや…聴き取れなくなった。
「っ!」
頭に響く激痛に目をつむり膝から崩れ落ちる。
「がはっ…ハァ…」
強かった痛みはゆっくりと消えていきやがて僕は目を開ける。
「!?」
僕はその光景に目を疑った。
「なんだ…これ…」
目の前の光景は、真っ白だった壁のいたるところに血が付着しており、今までなかった扉が顔を出していた。