1-6 MMI
翌日。
地球環境保護事業団の格納庫で、俺はガイアコアに搭乗していた。
リリカの言葉を信じるならば、ガイアコアは宇宙人に対する、人類唯一の切り札だ。
でもこの機体、全然強そうじゃないんだけど。
ちょっと虫っぽいだけのオブジェに見える。
これでどうやって宇宙人に対抗したら良いのだろうか。
操縦室の内部は球形。
壁面はすべて全周囲を表示するモニタになっているが、いまは何も表示されていない。
俺は、ガイアコア専用の操縦服を着て操縦席に座った。
自然に両手を伸ばした先には、使い方もわからない操縦桿が付いている。
操縦桿を握る。
すると、正面のモニタから順に全周囲モニタが起動して、周囲の状況が表示された。
リリカが言ったとおり、俺は操縦者として認証されたようだった。
全周囲モニタの一角に、リリカの姿が表示された。
リリカは、ガイアコアの整備担当者として登録されている。
そのため、外部からでも様々なデータを参照できる。
『パパ。今日は、ガイアコアのMMIの追加接種だよ』
「あぁ、それはわかっている」
説明は聞いた。だが、緊張する。
なんだよ、MMI=操作補助回路の追加接種って!
『九門君。聞こえる? ガイアコアの認証には成功したようね』
全周囲モニタの一角に、事業団の管制室にいる飯田青梅の姿が表示された。
リリカ一人では手が回らないため、飯田青梅が一緒にサポートをしてくれることになったのだ。
「通信状況は問題ない。委員長、事業団の制服かっこいいね」
『こちらでもできる限りのサポートを行うわ。だから、無駄口をしないでくれる?』
『パパ。心拍数上がってるよ? ちょっと、チクっとするだけだからね?』
そのチクっとが問題なのだが?
『では、始めるわ』
「あっ、委員長! まだ心の準備が『MMIの追加接種を開始します』ちょっと待っ――」
そして、操縦座席の後部から立ち上がった針無しの注射器が俺の首筋に押し当てられた。
『インストール率、十、二十、三十、』
視界が歪む。
何かが俺の脳内に入ってくる。
『――九十、百パーセント。気分はどう九門君?』
視界に様々な数値が表示されている。
しばらく待つと、それらは統合されて視界の隅に追いやられた。
電子合成された、ボーカロイドめいた女性の声が聞こえた。
『操縦者の登録手続きを完了。ご命令をどうぞ?』
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気が付くと、宇宙空間にいた。
満天の星空と、足元が透けて見えるガラスのような床に立っていた。
目の前には、ネオングリーンの髪色の美少女が立っている。
姿勢の正しい立ち姿は、仕事のできる社長秘書めいた雰囲気を持っていた。
「君は誰だ?」
『私は、ガイアコアに搭載されたサポートAI。そのアバターです。作戦の立案からその運用まで、ガイアコアに関わる全ての案件について操縦者のサポートを行います』
ここは、ガイアコアが作成した仮想現実空間ということか。
「君の目的は何だ?」
『ガイアコアに課せられたミッションは、歴史の改変です。宇宙人の侵略から地球人類とその未来を守ります』
「歴史の改変? そんなことをしても大丈夫なのか?」
『未来は常に変動しています。おそらく、私が過去に来たことで、すでに新しい人類の歴史が始まっています』
いわゆる、新しい世界線という概念か。
「わかった。俺も絶望的な未来の回避には賛成だ。俺は、何をすればいい?」
『ガイアコアの操縦と、その他必要と思われる基本スキルをまとめてラーニングしていただきます』
半透明のスクリーンに、今回の学習科目がツリー状に表示された。
Aという科目を習得するにはBとCという知識が必要らしい。
ざっと見ただけで二十科目以上あるのだが。
「こ、これ、全部ラーニングするの?」
『お任せください。思考加速によって脳を最大限活用します。実時間はさほど経過しません』
そう言って、サポートAIは微笑んだ。
「あ、うん。お手柔らかに頼みます」