1-5 全自動二輪車
翌朝。
俺は、アパートに帰ることにした。
「パパ、良かったら、この子使って」
リリカに紹介されたのは、流線形の大型バイクだった。
ピンと伸びたフロントカウルの稼働式スポイラーがケモミミっぽい。
「リリカ、なにこれ? 俺、バイクの免許持ってないんですけど」
「大丈夫。この子は賢いから、乗っているだけで良いんだよ?」
良く見ると、停止しているのに倒れない。
生き物のように、微妙に車体を揺らしてバランスをとっている。
これ、どういう仕組み?
「この子の名前は、ガルム。絶対に転倒しない未来の全自動二輪車だよ」
「全自動二輪車!?」
「そうだよ。ガルムお回り」
ガルムと呼ばれたバイクは、エンジン音も無く静かに動き出す。
ホイールにモータが内蔵されているインホイール・モーター式の電動車のようだ。
俺たちの周囲をくるりと回ってから、車高を下げて伏せをする。
車体中央から前後にスイングアームが伸びている。
そのため、上下の可動範囲がすごく広い仕組みになっているようだ。
「九門君、今の見た? このバイク、犬っぽくて可愛いね」
飯田青梅は、このバイクを気に入ったらしい。
フロントカウルのスポイラーが折りたたまれて余計に犬っぽい。
「どう? 勝手に走ってくれるから免許いらないんじゃ無いかな?」
「こ、こんなすごいマシンを借りて行ってもいいんですか?」
「うん! パパ、宇宙人には気を付けてね。あいつらは侵略者なんだからね」
そう言って、リリカは俺の手を握った。
「心配し過ぎだってリリカ。委員長も何か言ってくれ」
「リリカちゃん。人類はまだ宇宙人と敵対していない、危険は無いわ。大丈夫よ」
「ほら、委員長もそう言ってる。だからリリカ、手を離して」
「やっぱり、私も一緒に行こうかな?」
「リリカちゃん。あなたは事業団の敷地の外に出ちゃダメって決まったでしょ?」
「えーん、青梅ちゃんのいじわる」
今のところ、リリカとガイアコアの存在は極秘である。
特に、宇宙人に知られると、地球環境保護事業団の敷地が消し飛ばされるおそれがある。
「リリカは、留守番だな」
「ヤダー。私も、一緒に行きたいー」
「子供か!」
「娘だもん!」
「九門君。いい加減にして、その手を離しなさい?」
な、なんなのこの状況?
その後、俺はリリカをハグして、ようやく地球環境保護事業団を出発した。疲れた。
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俺は、ガルムに乗せられてアパートに帰った。
なお、ガルムと一緒に貸してくれたヘルメットは、多機能の情報端末だった。
道路ナビゲーションのほか、ガルムと連動して様々なステータスが表示される。
カーブではガルムの指示通りに、体重移動すると気持ちよく曲がれる。
運転者の腰のあたりをホールドする仕組みがあるので一体感がある。
しばらく乗ると、よりスムーズに走れるようになった。
「ありがとう。ガルム。また、帰りも頼むよ」
ガルムは、アパート脇に移動して待機状態になった。
こいつ、めっちゃ賢いな。
鍵のかかっていない俺のアパートのドアを開ける。
美少女エルフのディードが俺の部屋で待っていた。
あれ?
なんで俺の部屋にいるの?
「お帰りなさいレイジ」
そう言って、ディードは俺に駆け寄った。
「あっ、ただいま帰りました」
「夜になっても帰ってこないから。わたし、何かあったのかと心配したんですよ?」
「もしかして、昨日からずっと待っていたの?」
「はい」
当然のように頷いた。
マジか……。
「まさか、ご飯も食べていないとか?」
「そう言えば、昨日から何も食べてませんね?」
そう言って、ディードは、両手でお腹を押さえた。
「レイジの顔を見たら、なんだかお腹が空いてきました」
ダメだこのエルフ。
生活能力皆無だぞ。
それに、こんなにも無防備な侵略者がいるはずがない。
「そう言えば、お弁当もらって来たんだ。天気も良いし、たまには外で食べようか?」
「お外で? ピクニックですか!」
めちゃめちゃ食いついてきた。
「うん、そうだね。それにすごいバイクを借りてきた」
ディードにガルムを紹介したら、すごくびっくりしていた。
「えっ? これって、自律型機動車両ですよね。地球の技術力も侮れませんね」
あれ?
ディードに見せちゃまずかったかな?
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俺たちは、ガルムに二人乗りをして裏山の市民公園を目指す。
近所の商店街に寄って、お弁当を買い足した。
安全運転で峠道を駆け上がって、トンネルを抜けると市民公園の駐車場だ。
「うわー、見晴らしが良くて、ステキなところですね」
高台から見下ろすと、街並みの遠くに海が見えた。
「この公園は、春には桜がたくさん咲くんだよ」
でも、すでに花は散ってしまったので、今日は誰も居ない貸切状態だった。
木陰に敷物を敷いてお弁当を広げた。
ガルムは、シートの隣で伏せをしている。
「この子もご飯を食べられたら良かったのにね」
「そうだな」
ディードとお弁当を食べながら、アルバイト先の都合でしばらくアパートを離れる。と伝えた。
宇宙人には、ガイアコアの存在は極秘である。
ディードにも本当の事は教えることができない。
「そうですか。しばらくレイジのご飯が食べられなくなりますね」
「普通そこは、寂しくなりますね。じゃないのか?」
「何か違いが? 日本語、ムズカシイです」
「なんでそこだけカタコトなの? めちゃくちゃ日本語上手だよね?」
そう言って、俺たちは笑った。
「ディード。ちゃんとご飯食べるんだぞ」
「心配は要りません。我々は、水とサプリだけでも、七日間は生きられます」
「余計、心配になった!」
「冗談ですよ。でも、一人で食べるご飯は寂しいです。だから」
ディードは、わざわざ俺の隣に移動して、俺の手を握った。
俺に対して、ディードの防護フィールドは作動しない。
「だから、用事が終わったら、すぐに帰ってきてくださいね」
「あぁ、わかった。約束する」
宇宙人は、人類の敵で侵略者なのかも知れない。
だが、ディードだけは、俺の友達だと心に決めた。