1-2 エルフの魔法
美少女エルフが隣に越してきてから、しばらく経過した頃。
国際的にとんでもない事件が起こった。
ごく一部の過激な思想を持つ団体が、日本を視察中の宇宙人の外交官一行を襲撃したのだ。
飛び交う銃弾。
逃げ惑う周囲の人々の悲鳴と喧噪。
その様子は、偶然テレビ中継されており、視聴者の誰もが最悪な事態を想定した。
だが、宇宙人たちは、無傷だった。
彼らは、不思議な防御幕のようなもので守られた。
彼らの周囲を、見たことのない言語が幻想的に光り輝きながら周回している。
銃弾がその防御幕に触れると、狙いを逸らされてあらぬ方向へ飛んで行った。
さらに、宇宙人の男性が光の剣と盾を持って飛び出してきた。
光の盾で銃弾を弾き返し、光の剣でテロリスト達を打ち倒した。
その様子を見て、やはりSNSは宇宙人の話題で騒然となった。
『これ、魔法じゃね!?』
『エルフの魔法使いキター』
『彼、魔法剣士じゃん。かっこいい!』
実際は、宇宙人が個人レベルで携帯する護身用装備のひとつだ。
高度に発達した科学力は、魔法と一緒だと言うことを実証したような事件だった。
--
俺は、その事件の様子を宇宙人と一緒にテレビで目撃した。
俺の部屋で並んで夕ご飯を食べているのは、引っ越し当日に俺を謎の力で跳ね飛ばしたあの美少女エルフである。
「ねぇ、ディード。これって防護フィールドっていうんだよね」
「そ、そうですね」
俺は、何度聞いても宇宙人の固有名詞を発音できなかった。
相談の結果、俺は彼女をディードという愛称で呼ぶことを許された。
「銃弾も跳ね返すんだ? 俺、すごい勢いで跳ね飛ばされたもんなぁ」
「その件は、何度も何度も謝ったじゃないですか!」
そう言って、ディードは可愛らしく頬を膨らませた。
地球人から見て宇宙人は皆美しいが、整い過ぎていて黙っていると冷たく人形めいた印象を受ける。
だが、ディードは感情の起伏が大きく、話していて楽しい。
ディードが引っ越し蕎麦を持って来たあの日。
話の流れで、お蕎麦を食べたことが無い。と言うので「一緒に食べてみるかい?」と聞いたところ、彼女は素直に頷いた。
そして、なぜかそれ以来、食事時になるとディードは俺の部屋にやってくる。
「レイジ。一緒にご飯食べませんか? 食材なら持ってきました」
「どうして俺が調理する前提で食材を買って来るのかな? 正直、すごく助かってます」
日常生活で困ったことがあるとやってくる。
「レイジ。お風呂のお湯が出なくなったのです。壊れたのかな?」
「うわ、いくら隣だからって、そんな薄着で! しかもびしょ濡れじゃん。これ着て。ほら、髪を拭いて!」
最近は、用も無いのに遊びに来る。
「レイジ。アレ、したくなっちゃった……」
「後ろに隠しているの何? オセロじゃん!? 紛らわしいんだよ!」
この美少女エルフ、無防備過ぎじゃありませんかね。
「ディードさん。キミは女の子なんだから、気を付けないと危ないよ。マジで」
「わかっています。レイジは優しくしてくれますが、私は異星人。身を護るための装備は肌身離さず持っています」
そう言って、左手首に装着した真珠色のリングをドヤ顔で見せてくれた。
このリングは、宇宙人の多機能通信端末で、護身機能から容姿の変装機能まで様々な機能を持っている。
「いや、そう言う意味で言っているんじゃないんだよ?」
「ん? なにか間違えましたか?」
あの日以来、何度もディードと接触(いやらしい意味ではない)しているが、俺に対して防護フィールドが作動したことは一度もない。
「もしかして、その護身機能。敵味方判定は本人次第なの?」
「当り前じゃないですか。防護フィールドは、お友達には必要ありませんよね?」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
だ、ダメだこの宇宙人。
俺がしっかりしないと国際問題になる。
俺が、決意を新たにしていると携帯電話のメール着信音が鳴った。
差出人名は、九門レイジ。俺の名前だ。
内容は、『エイリアンを信じるな』。
最近、このようなメールが頻繁に送られてくる。
なんなの?
この迷惑メール流行ってるの?