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1-1 宇宙人の襲来

第一章 覚醒編

 俺の名前は、九門レイジ。

 六畳一間の安アパートで一人暮らしをしている、貧乏な高校二年生だ。


 日曜日の朝。

 テレビを点けると、いつもと違う番組が放送されていた。


「あれ、今日のヒーロータイムは特番かな?」

 白い軍服を着た、銀髪金目で長髪の美形俳優イケメンが演説していた。


『私は、銀河帝国所属、未開発航路遠征団ゲートシーカーの代表、ならびに旗艦艦長 ―― である』


 神々しいほどに整った顔立ちに白い肌。

 すらりとした細めの体型で『耳が長い』。


 まさに、実写版のエルフが動いている。


「すっげ。超絶美形なエルフ艦長じゃん。外国人俳優? 特殊メイクとCG併用? この番組お金かかってんなぁ」


 演説は続く。

『我々は、遥か遠く ―― 恒星系から、いくつかのゲートを渡ってやって来た』


「ん? 今、なんて?」

 固有名詞らしき発音が『 ―― 』と聞き取れなかった。


『いわゆる地球外知的生命体に該当する。だが、我々は宇宙人やらエイリアンなどという、無粋な呼び方は好まない。由緒正しく、誇り高く ―― と呼んでほしい』


「いや、なんて言ったかわからん。もう、お前らの呼び名は『エルフ』で良くね?」


 そのときのテレビ放送を見てそう思ったのは、俺だけではなかったらしい。

 SNSでは、美形艦長の種族名は圧倒的多数の意見で『エルフ』に確定した。


『もう一度言おう。我々は ―― である!』


 ある日突然地球にやって来た、宇宙人の翻訳機能は完璧だった。

 だが、どうしても固有名詞だけは、地球人に理解も発音もできなかった。


--

 ある日、地球に高度な科学力を持った宇宙人がやってきた。


 恒星間航行を可能とする、複数の巨大な宇宙船。

 重力制御としか思えない、鋭角な機動で地球に降下してきた飛行艇。

 あっさりと地デジ放送に割り込み、数か国語に自動翻訳する情報処理能力。


 彼らは、かなり前からインターネット回線に接続して、情報収集をしていたことが判明している。


 突如出現した宇宙人の技術力は、地球の技術力を遥かに凌駕していた。

 おそらく戦争ともなれば、地球人類は二十四時間以内に壊滅するだろうと予測された。


 だが、彼らはとても友好的だった。

 段階的な技術の供与のかわりに、地球環境の調査を希望した。


 そして、エルフめいた超絶美形なその容姿が地球人類に受け入れられた。


 半年と経たぬうちに交易と文化交流、宇宙人エルフの地球観光や留学が驚くべき速度で解禁となった。


 なお、地球に滞在を希望している宇宙人エルフのあいだで最も人気のあるスポットは、日本である。


 現在、一千人程の宇宙人エルフが地球に滞在している。

 そのうち百人程が日本に滞在しているらしい。


--

「あぁ、俺もエルフとお近づきになりたいなぁ。都心部まで行けばワンチャンあるかなぁ」


 俺の生活費はギリギリで、バイトと倹約しなければ生きていけない。

 都心部まで、遊びに行く暇もお金もまったく無い。


 そろそろ夕飯の買い出しをしようと立ち上がったとき、玄関ドアがノックされた。


「はーい。どなたですか」

 ちょうど出かけるところだったので、俺は来客者を確認もせずにドアを開けた。


 ちなみに普段から鍵などかかっていない。

 取られて困るようなものは何も無いからだ。


「こんにちは。隣に越してきた ―― です」


 目の前に、若草色のワンピースを着た髪の長い女の子が立っていた。


 良く見ると、銀髪金目で肌が白い。

 華奢で細くて耳が長い。


 童話世界から抜け出してきたエルフのような女の子が、引っ越し蕎麦(乾麺)を持って立っていた。


「え、エルフ? マジで! エルフなんで!?」

「ふーん。地球人って、私たちのことを本当にエルフって呼ぶんですね?」


 神々しいまでに整いすぎたその顔、その表情。

 恐ろしいまで冷たく、人形めいていた。


 まずい、怒ってる?

 いきなり地雷を踏んじゃった?


「す、すみません! 大変失礼な事を」


 俺は、頭を下げた。

 俺のせいで、宇宙人エルフと戦争になったらどうしよう?


「あっ。頭を上げて下さい。ちょっと驚いただけで、別に怒っているわけではないですから」


 ほ、本当に?

 上目づかいで確認すると、彼女は困ったように微笑んだ。


 これが、びっくりするほど可憐で可愛らしかった。

 天使か!

 いや、エルフだったわ。


「地球の文化を学習しに来ました。これ、お近づきのしるしです」

 彼女は、引っ越し蕎麦を差し出した。


「これはご丁寧に、どうも」

 宇宙人って意外と真面目なんだなぁと思いつつ、引っ越し蕎麦を受け取ろうと近づいた。


 すると、彼女の周囲を光る球体が包み込んだ。

 俺は、突風で吹き飛ばされるように、強い圧力を受けて跳ね飛ばされた。


 一瞬、彼女の周囲を、見たことのない言語が光り輝きながら周回しているのが見えた。


 玄関から、六畳間を横切って、壁に背を打ち付けた。

 衝撃で安アパートが揺れていた。


「ごめんなさい! 護身用の防護フィールドが誤作動しました」

 彼女が駆け寄り、泣きそうな表情で俺を抱き起こした。


「防護、フィールド……だと?」

「だ、大丈夫ですか? AEDは必要ですか?」


 それにしても、この宇宙人エルフは無防備である。

 抱きしめられて、色々当たっているし柔らかい。


 幸い、少々痛いが大きな怪我は無さそうだ。

 安アパートの貧弱な構造体が、うまく衝撃を吸収してくれたに違いない。


「ちょっと見せて下さい。重症なら適切な処置が必要です」

「待って、落ち着いて。シャツをめくらないで。本当に大丈夫。なんとも無いから」


 ちょうどそのとき、俺の携帯電話のメール着信音が鳴っていた。

「あ、ごめん。メール来てる」


 俺は、涙目の彼女からそっと離れて、携帯電話を確認した。

 差出人名は、九門レイジ。俺の名前だ。なんで?


 内容は、『エイリアンを信じるな』。


 なんなの?

 やけにタイミングが良い、迷惑メールだった。


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