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勃発!ドラゴン戦再び!そのニ

 大地が抉れていく。

 ブレスで燃えた荒れ野に火が広がっていく。

 それらが渦を巻く。


「……っ、ぶ、ぶじ……か……?」


 もうもうと立ち込める、舞い上がる土埃と熱波と煙。


「ギャオオオオン……!」


 なおも天高く舞い上がり、高らかに咆哮するドラゴン。


「あ……まさ、か……」


 いない。

 まさか。

 跡形もなく……?


 勇者も。

 ベルラも。マレフィアも。あの男も。 


 ドラゴンの猛烈な突進に、吹き飛ばされたのか轢き潰されたのか。はたまた食われて?


 うそだ。そんなはずはない!


 勇者には神の加護がある。魔王を倒すべき運命がある。こんなところで潰えることなどあるはずがない。


 そうだろう、神よ……!


「勇者……!」


 私の声は。

 自分でも驚くほどに震え、掠れた。

 聖印を握りしめる、その手も。


 ドラゴンは悠々と羽ばたき、獲物を探すように睥睨する。

 その咆哮は、笑い声にも聞こえる。

 

「……、そんなはず……ない。……お、おまえごとき下級ドラゴン程度が! 勇者を……それにマレフィアもベルラも! 性格はともかく、優秀な魔導師に強力な戦士だぞ! おまえごときに倒されるものか! 降りてこいドラゴン! 格の違いを教えてやるぞ……!」


 御者台に立ち、手綱をしっかり握りしめながら、気付けば私はドラゴンに悪態をついていた。


「グ、ォォ、ォオオン?」

「あ……」


 私の声は、ステラヴィル大聖堂で日々朗々と説教してきて鍛えられたために、大きくよく通る。

 腹から出る声は、どこまでもよく届く。

 それは無論、上空羽ばたくドラゴンにも届いた。

 届いてしまった。


 ドラゴンは、高慢で驕った精神性がその種族特性であった。

 下級のドラゴンですら、我々人間たちよりもずっと強く優秀だと信じている。

 と、物の本には記されていた。


「あ、い、いや……いまのは……あくまでほんのひとりごとであり、負け惜しみであって……決して本心だとか悪口だとかでは……」

「グオオオオオン!!」

「どわぁぁぁあ! 全速前進〜!」


 ドラゴンのギラつく紅い目が私を見た。

 ドラゴンの凄まじい咆哮が私に浴びせられた。

 ドラゴンは怒った!

 確実に怒った!

 私は馬に鞭をくれ、一気に駆け出す!


「グ、ォォ、ォオオン!」

「ひ〜!」


 ドラゴンが猛烈な勢いで追ってくる!

 速い! 速すぎる! 

 重い荷台を引いた馬ではすぐ追いつかれる。


「あ、あ、あ……か、神……よ……ゆ、ゆ、勇者よ――!」


 ガタゴトガタゴトと揺れる御者台ではろくすっぽ何も喋れなかった。下手すると舌を噛んで自滅してしまう。


「ギャオオオオン……!」

「あ……」


 ドラゴンが旋回しながら突っ込んでくるのが見える。


「せめて……」


 荷台さえなければ、馬の足なら逃げ切れるかもしれない。

 馬と荷台を繋ぐハーネスを外し……


「ゔ……ぁ……!?」


 馬が加速する!

 手綱を握る手がその勢いに振り解かれ、私の体が投げ出された。

 そこに、突っ込んで来る……ドラゴン……


 その瞬間は、すべてがゆっくりだった。


 ステラヴィル大聖堂に、宝剣を抱えてやってきたボロボロの青年の姿が脳裏に浮かぶ。

 大神官様の説教が響き、こうべを垂れ修道士たちが祈りを捧げるいつもの勤めの時間に。

 バァンと開かれ、まろびながら飛び込んできたその青年に。

 私は、確かな光を見た……。


「“棘の壁(ウォールオブソーンズ)”!」


 大地が鳴動し、隆起する大きな刺々しい壁が盛り上がる。

 そして。

 ズガァァアン! 

 と凄まじい音がした。


「“天空かかと落とし”!」


 ドゴォォン!

 と更に凄まじい音がした。


「“閃光剣(レイ・ブレイド)”!」


 カッ――!

 と、眩い閃光が鋭く伸び、空間をも切り裂いていく。


「ぎ、ギャ、ォオオオオオ……!」


 ず、ず、ずぅん……。

 響き渡る苦悶の断末魔と共に地響きがして、ドラゴンの巨体がぐるぐると旋回しながら地に落ちていった。


「……か、神、よ」


 私の体も。

 くるくると回りながらドシャっと地に叩きつけられた……。



***



 ふわふわと、温かく柔らかいなにかに体が包まれ浮いている。ような感覚があった。

 ゆっくりと目蓋を持ち上げていくと、視界はぼんやりして掠れていた。


「目は覚めた……? 打ちどころが良かったみたいね、運のいいこと」

「…………ま、まれ、ふぃあ?」

「記憶もしっかりしてるみたいね」


 私を見下ろす銀髪に翠の瞳。

 間違えようもなくマレフィアだ。しかし、なぜ。

 ぼんやりとした記憶を辿るに、私はドラゴンに追い立てられ、突進を受けて……吹き飛んで……


「ゆ、勇者は……!」


 無事なのか。

 いつもならこういうとき私のそばで心配そうにしているのは勇者だ。

 それが居ないということに不安を感じる。

 身を起こすと、ズキズキとあちこち痛んだが、動けないほどではなかった。

 さっき感じた温かさは、マレフィアの回復魔法か。


「大丈夫、無事よ。あなた以外、誰も目立った怪我はしてないわ。フォルトは、あなたが逃した馬を保護しにいったのよ」

「お、……おぉ。無事だったのか……」

「えぇ。……ちょっと、にわかには信じがたいのだけれど。まさか、自分を犠牲にしてまで馬を逃がしてあげたわけ? あなたが?」


 マレフィアは柳眉をひそめ、その言葉通りに疑わし気に私を見つめる。

 私は。

 

「この旅に……馬車をなくすことは、大いなる損害。また、馬の足ならば逃げ切れるであろう可能性を、我が身可愛さに潰すなど、神のしもべにあるまじきこと。ではないかな……」


 応えた。

 非常に回りくどく、明言は避ける。

 実際のところ、私自身、あの時なにを思って馬を離したのか。今となっては判然としない。


「……。そう。まぁいいわ、今回はそういうことにしておいてあげる。もう日が暮れるし、ベルラがドラゴンを解体したわ。後始末できるくらいには、回復したでしょ?」


 肩を竦める仕草をしてからマレフィアが立ち上がり、テントを出て行く。

 その様子は、今までにないほどに優しい。あまりにも優しい。優しすぎていっそ怖かった。


 ふらつきながらも続けて外に出る、と。


「いやぁ、たいそうなモンですなぁ! ドラゴンまでやっちまうとは!」

「うぉあ!? なな、なんだおまえは!?」


 相変わらず縛られたままの男が、テントの外でニヤニヤと笑っていた。

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