セレモニー
私は呆然としていた。
昼間、クローバが梨花なのだと知った。
私の他にも転生者が居るということの喜びに加え、嬉しかったことに転生者は梨花だったこと。
昼間は喜びで満ちていた心も夜になると大分落ち着いた。
これまでつけていたメモ帳に新しい情報を書き加えていた時妙な違和感を覚えた。
あれ?私、この行動とったことあるぞ?……と。
刹那これまでの記憶が頭に流れ込んできた。
私が王様の顔をみて倒れた事も、人見知りのチェリも、セレモニーで王子がチェリをダンスに誘ってハラハラすることも、初めての長期休暇に事故が起こることも。
……この転生が3回目であることも。
全部、全部思い出した。
軽い頭痛を覚えたが、この事を梨花と共有する為に私は筆を取った。
…といっても身分も年齢も違う私達に傍から見れば共通点は無い。
どうやってコンタクトをとったものかと頭を悩ませ夜は更けていった。
中々ゆっくりと話すことの出来ないまま王子のセレモニーという割と重大イベントの日が来てしまった。
王子の10歳セレモニーに婚約者ということは隠して呼ばれた娘に付き添う形で私だけが、パーティーに参加していた。
最低限の挨拶を終えるとチェリの元を訪れたクローバに続く形で多くのご令嬢も集まってきていた。
平穏に見えたパーティー…のはずだった。
それはダンスタイムの時、起こった。
王子が娘を一番最初にダンスに誘ったのだ。
チェリの次の言葉に皆の意識が向けられる。
誰しもが憧れの王子様と踊るチャンス…ではある、しかし、私たちには全くもっていらないチャンス。
一方のチェリはと言うと、視線を落とし、何かを深く思考しているようだった。
クローバたちの前でこそ気高く振舞っていたが、大勢の人と話す
時いつも勇気を出して話すようなタイプで、私が主役よ!などと言うようなタイプではない。
ここで、クローバが機転を利かせたのだ。
「チェリ様、少しお耳よろしいですか?」
彼女の真剣そのものの眼にチェリは頷くと、耳を傾けた。
皆が固唾をのんで見守る中、会場にチェリの実に控え目なでも心底可笑しいといった笑い声が響き渡った。
そして、王子に向き直ると最高級の微笑みで「ええ。よろしくお願いいたします。」とダンスの誘いを受けた。
その後は何事もなく淡々と進み、パーティーはお開きとなり、帰宅中の馬車内でクローバに何を言われたのか聞いたところ、心底可笑しいといったように思い出し笑いをしながら、私に教えてくれた。
「周りは皆じゃがいもやにんじんのような野菜ばかりで、華が無いわ。だからチェリ様が選ばれたのですね!」って。
そもそもあの子、私が王子と踊りたくないからすぐに受けなかったのだと思っていたらしくてね、私は何の嫌がらせかしらって思考していただけなのにね。
楽しそうに笑うチェリ、今のチェリは変わったと思う。
クローバもとい梨花と話すようになってから、どんどん前向きになっているように思う。
梨花はずっと梨花のまんまだった。転生してもなお。
私はと言ったら何も出来ずに立ち止まっていたというのに。
梨花は昔から人と接するのが上手かった。
うまく馴染めずにいた私に声をかけて、手を差し伸べてくれたり、クラスでも橋渡し的存在だった。
誰とでも仲の良い梨花は皆の人気者。
でも、時にはぶつかってケンカも全力でしたのは私だけだったようだ。
ケンカしても気づいたら仲直りしてて、私には心の底から楽しいと思える時間だった。
だから、私たちは何でも話し合える仲になれたんだと思う。
前世の記憶に浸っている間に馬車は屋敷へ到着した。
私はそっと語り足りない回想に想いを馳せた。




