事件勃発
血塗れ事件から数日
すっかり仲良くなったチェリとクローバ、予定が無い日は屋敷に来るようになっていた。
連日様子をみていて一つ気になった事があるのだが、チェリと話している時にみせるクローバの顔に見覚えのあるような気がするのだ。
子どものような無邪気な笑顔と言いはるには絶妙な…とはいえ、影のあるような無いような妙に引っかかる部分を感じている。
そんな事を悶々と考えながら魔道具の手入れをしていると、
「それは…まさかVi〇aじゃない!?…まさかこの世界にも存在しただなんて…!!」
どうやら私の部屋の扉が少し空いたようでかくれんぼをしていたクローバに私が魔道具を使用するときはいつも気にしているのに…
そんな事今更言っても仕方がない。
未だ、興奮気味に喋るクローバに少し圧倒されたが、そんな私を気にも留めず、クローバはまだ語っていた。
「アイリーン様!こちら何処で手に入れられたのですか!?」
「…あのね、これは売り物ではないの。特注で作ってもらったものなの、だから…何処にも売ってはいないの…」
そう、これはハチェットに特注で作ってもらった一点物、つまりこの世に」2つと無い非売品だ。
申し訳なさそうに、告げた私に、残念そうな顔をしたクローバ。
「…そう…ですよね…。ははっ、これがあればベアーズリーンをまたプレイ出来るかもしれない。
チェリ様を悪役令嬢から救い出す決定的な何かが分かるかもしれないのに…」
言葉に疑問を感じたが、それよりもクローバの表情に私は目を奪われていた。
唇を噛み締め力なく笑う顔、私は見覚えを感じおも思わず呟いてしまっていた。
「梨花…?」
そう。この時完全に思い出していた。
前世で一緒に梨花の推しグループが出演する歌番組で観ていた時、梨花の推しがあまりに映らなくて見終わった後、微妙な顔をしていた梨花の面影が重なって見えたのだ。
驚いたように見開かれた瞳と視線が交差する。
「…どうして、その名を…?誰にも言えなかったのに…」
「梨花、梨花なんだね?私、私だよ、鈴音、熊田鈴音だよ。」
「鈴…音?本当にあの鈴音なの?」
「そうだよ、私、熊田鈴音だよ。梨花にもしまた会えたらって、Vi〇aにそっくりな魔道具を作って貰ったの。またあの頃みたいに笑い会えたらって…」
私たちは現在の身分も忘れ暫く笑いあった。
ひとしきり笑いあった私たちは今の状況を整理する為にたくさん話をした。
この世界がベアーズリーンの世界であること、このままではチェリが悪役令嬢にされてしまうこと。
私はチェリの母親に転生したこと、そしてこの魔道具でベアーズリーンの世界を追体験できることを説明した。
「えっと…、學園に入学しない。という選択は当然侯爵家としては無いのですよね?」
クローバこと梨花はそう問いかけた。
「流石に…ねぇ?侯爵家の人間が學園に入学しないというのは…示しがつかないしね…」
ちょっとやそっとで悪役令嬢解放ルートが開拓されるわけもなく、いつしか私たちの会話は雑談へとシフトしていった。
「え?鈴音がこの世界にやって来たのは私がこの世界に来て割とすぐなの?」
一体どういう事だろう。私がこの世界にやって来てからそれなりの年月が経過している。
それでも前世の時間では数日しか経過していないという事は、時間軸が違うという事だ。
そのことが何を指し示すのか分からないが、重要な事が隠されている気がする。
「そうだったわ!私いま、チェリ様をかくれんぼしてるの!また話そう!」と話しを切り上げ、今後の目標である、チェリの死亡を回避する為に協力するという同じ目標をもって、がっちり握手した私たちは再び笑いあった。
すると、私たちの笑い声に探し役だったチェリが顔を覗かせた。
不思議そうに私たちを交互に眺めていた。
私たちは顔を見合わせてクスっと笑うと、クローバは「チェリ様、次はわたくしが鬼ですわね!負けませんわよ!!」と息巻くと部屋を出ていった。




