海道梨花
私こと海道梨花はジーニアス・クローバ・フラワーとして生を受け数日が経過した。
まるで言い聞かせるように、毎日毎日「貴方の名前はジーニア・クローバ・フラワー。フラワー家の一人娘よ。」といろんな人に言われていれば嫌でも自分が異世界に来たのだと思い知らされる。
どうやってここに来たのかは分からない、前世と言ってもいいのかも分からないが前の肉体がどうなったのかも分からない。
とにかく何か情報を集めようと屋敷中を探索しては使用人に見つかり、ベットに連れ戻され、疲れて眠るを繰り返していた。
ある日、成長した私の元に婚約者が決まったとお父様に告げられた。
もしや、流行りものの悪役令嬢にでもなるのかと婚約者の名前をワクワクして聞いてみたが、聞いたことの無い名前。
家庭用ゲーム機から携帯用ゲーム機、果てはアプリに至るまで殆どの乙女ゲームを制覇してきた猛者だと自覚しているが、まるで聞いたことの無い名前。
ここにきて重大な情報の欠落に気づいたのだ、私はこの国の名前をまだ聞いていない。
まだお父様は私に話をしていたが、私は途中で遮った。
「お父様!わが国の名前はなんとおっしゃるの?」
お父様は突然の質問に驚いていたが、”アーマルカラ王国”だと教えてくれた。
アーマルカラ王国と言えば、家庭用ゲーム機『ベアーズリーン』に出てくる王国の名前である。
つまり私は本当に乙女ゲームの世界に来ていたという事だ。
それもベアーズリーンの世界。私が前の世界で最も好きで鈴音に猛プッシュしてやってもらえた乙女ゲームだ。
これまでお父様のお仕事についていく事なんてしていなかったが、こうしてはいられない!
「私、明日からはお父様についていって王宮に行くわ!」
それだけ告げると自室へ全速力で駆け戻った。
翌日お父様のもとへ行くと、「いいか、クローバ。王宮では私の指示をしっかり守って、決して勝手な行動するのではないぞ。」ときつく言いながら、私を王宮へ向かう馬車に乗せてくれた。
王宮に到着するとどこもかしこもゲームで観た光景で私はキョロキョロとしていた。
お父様の後に続いて部屋に着いた後、部屋の窓を覗くと私たちが入って来た門が見えた。
反対側の窓にはゲーム内で何度も登場する庭園。
庭園の真ん中にあるサロンにアラン様と誰かが居ることに気づいた。
ベアーズリーンの中でも割りと好きなキャラであるアラン様にもっと近くで見てみたいと思った私は、探索するなと言われていたが、どうしてももっと近くでみたいという思いを押し殺してお手洗いに案内してもらった。
「入口で待っています」と使用人に言われたので、小窓から抜けだすと、庭園の方へかけていった。
近くでみたアラン様はとっても素敵で、とても目を惹かれたが、私にはもっと目が惹かれる人が居た。
アラン様の婚約者でのちに悪役令嬢となってしまうワーリス・チェリ・エリザベート様だ。
暫く影から見つめていた私はお手洗いを抜け出してきている事を思い出し、慌てて駆け戻った。
戻ると、使用人はあまりにも長い間篭っていたので体調の方を心配した様だが、私がピンピンしているのをみて何も言わずに口を閉じた。
暫くはお父様の部屋で大人しくしていたが、綺麗な夕日に染まる空を見ようと窓に近づくと丁度チェリ様がお帰りの時ようだった。
私は慌ててお手洗いに行くと言って走り出すと出入り門へ向かった。
着いた頃にはチェリ様どころか馬車もなく去っていった後で、私は閉じている門をただただ見つめるだけだった。
お父様の部屋へ戻った私はお父様の帰宅に合わせ帰ることとなった。
次の日もお茶スペースへ覗きをしに行き、チェリ様の帰宅の際にも影から覗くという日課を続けていたある日、いつものようにお茶スペースを覗き見していると、肩に手が置かれた。
驚いた私に女性は謝罪を述べると思いもよらぬ問いかけをしてきた。
「チェリとお友達になってくださらない?」
予想外の問いに舞い上がっていたけれど、ここにきていることは誰にも言っていない極秘事項だ。
ここで御屋敷への招待状を受け取って、お父様にバレるわけにはいかない。
折角のチャンスを断ろうと口を開こうとした時女性が「明日は王子とのお茶会お休みなの、だから良ければ屋敷へ来てくださらない?ちゃんと後で正式な招待状を出すから。」
明日はチェリ様を見れないという事実にお父様にバレないようにしなくちゃという理性は天秤から転げ落ちた。
頷いた私に、女性はニッコリと微笑むと帰っていった。
昨日の帰宅後、本当にエリザベート家から招待状を受け取った私は本当にエリザベート家へとやって来ていた。
チェリ様の待つ客間へ通され私は自分を心の中で鼓舞しながら挨拶を済ませた。
いつもより近くでみたチェリ様はそれはそれはお美しくて、行き場のない感情を爆発させるときに前世でよくやってしまっていた台バン……をしそうになるの唇を食い込ませグッと堪えながらも我慢していると、あまりの強さに唇を切ってしまったようで、来ていた服に血が滴り落ちるのをただ騒然となるのを見ているだけなのでした。
その様子を見つめていたチェリ様は私をまた屋敷に呼んでくださるそうで、その言葉と共に私の意識はブラックアウトしたのだった。




