入學式前夜
セレモニーでのあの行動によってチェリは一躍注目の人となった。
内定取り消しによる争いの芽を摘む為王家はしぶしぶチェリの誕生日の日のパーティーで、チェリが王子の婚約者だと正式に発表する運びになった。
チェリの13歳の誕生日パーティーの日、主催パーティー以外には出席しないことがこの国の一般常識の王族がたとえ、国で1番と表されている侯爵家のパーティーであっても参加することはまずない。
その為、会場内はざわめいていた。
挨拶は参加者の中で最も権力のある者が行う。
つまりこの場合、王から挨拶を頂戴し、その際正式にチェリが婚約者であると発表された。
もう、これで運命には抗えない。私は小さく息を飲んだ。
ダンスタイムが始まり例の如く王子にダンスを誘われたチェリは完璧に踊り切って見せた。
堂々と踊りきったチェリに誰もが魅了され、会場に拍手が鳴り止むことはなかった。
その後も次々と誘われるがまま、完璧に踊り続け夜は更けていった。
セレモニーでの一件により以前より力の入った妃教育、婚約発表以来ひっきりなしにくるパーティーのお誘い。
パーティーにも少しずつ慣れてきたようだが、チェリの疲労は目に見えて増えていった。
クローバとのお茶会も開催する余裕がなくなってしまうほどに。
時は巡り、この世界の満開に咲くピンクの木々にも見慣れてきた春、娘はとうとう入學する。
昨日からそわそわしている私に比べ、チェリはとても落ち着いていた。
あれ以来特に大きな事件はおきなかったし、入學式に合わせてパーティーのお誘いもピタリとやんだ。
これから起こるかもしれない事を本人に正直に話してもよいかもしれないとも考えたが、あまりにも突拍子もない話しだし、信じてもらえるとも思えず結局言えずに今日を迎えていた。
とにかくここからはチェリにかかっている、頑張ってもらうしかない。
扉をノックする音が聞こえた。
部屋へ呼んでいたチェリが来たので、私は小箱を取り出した。
中身は、チェリに内緒でこっそりと用意した私の瞳色をした、宝石の付いたアクセサリーだ。
「お母様、それはなにかしらそんなもの頼んだ覚えはないわ。」まるで安ゴミでも見るかのような目でアクセサリーを見て吐き捨てた。
減るどころかおねだりの質も量も増加し、目を肥やしていた。
未だに頭を抱えているが、やはり可愛い我が娘にねだられると強く出れないままなぁなぁに大人にしてしまった。
実家じょあるまいし、寮内で駄々をこねることも無いだろうと深く考えないことにしていた。
「これはね、貴方への入學祝いのアクセサリーよ。これは特注品だから一点物なの。
チェリに似合うように作ったから、肌身離さず身につけて欲しいの。」
そう言って、髪に留めてあげた。
しばらく鏡を見ていたチェリの顔は照れているようにも見えた。
微笑ましかったが明日は早いのだもう寝なければならない。
「さぁ明日も早いは、今日は一緒に寝ましょう!」そう提案すると娘は照れて顔を真っ赤にしたが、マクラを取ってきてくれた。
少しは寂しかった様で、眠ってしまった娘の目元は少し赤らんでいた。
髪を撫でながら私は考え事をしていた。
このアクセサリーは少し特殊なのだ。先程私の瞳色と言ったが、この宝石みたいなものは魔力を流し込むことで私の瞳とリンクする。
と言ってもあまり使うと私の魔力消費量が半端ないので、普段は前世で言うVi〇aのような形をした道具を使って観ることが出来るのだ。
もちろんこんな形の魔道具は存在しない、そこで、ハチェット・ツーラーに細かい形状を指定して作ってもらったのだ。
この形状に拘ったのも、学生時代の数少ない親友とベアーズリーンを観て笑いあった思い出の形だからだ。
暖かな思い出に包まれながら私も眠りについた。
入學式の日の朝
この世界の入學式に親は出席しないのが一般的らしい。
案の定見送りにも来なかった旦那様。
…さて、娘を送り出した私は公務に戻ることにした。
今日の入學式もまだゲームが始まる前のはずだ、ここからヒロインが転入してくるまでの間に、出来るだけ周囲の人と仲良くなっておいて欲しいものだが、あの子にできるのだろうかなど考えていた…
いくら我が儘無娘だと言っても、良いとこの令嬢の娘は大体こんなものだと思う。
チェリ自身が人をいじめたりする様な人ではないと、周囲に知ってもらうことも大切だ。
クラスにはクローバもホーも居るから、孤立するようなことはないと思う。
ただ不安があるとすれば、ピンは一つ上だから上界生だし、クローバの他に女の子の友が出来るかどうかだ。
出来ればクローバのように主従関係に近いような関係ではなく、対等な友が欲しいところだ。
そろそろ学園に到着した頃かと思い、私は魔道具に魔力を流し込んだ。
つけるとまだ入學式が始まる前のガヤガヤしたところだった。
チェリを見つけたクローバが駆け寄ってきてくれた事でひとりぼっちにならずに済んだようだった。
彼女の挨拶を皮切りに、入學式が始まるまでチェリの周りに人が絶えることはなかった。
新入生代表だった、王子のスピーチも終わり、何事もなく入學式も終わった。
式を終え、教室へ向かおうとしているとクローバがチェリに話しかけてくれた。
それ以来、彼女がたくさん話しかけてくれてくれたおかげか、チェリは緊張した様子もなく周囲の人と何事もなく会話を楽しんでいた。




