神官長とのお茶会①
「どうしたのリジー、少しやつれてるんじゃない?」
「うん……最近、眠れなくて」
ドワーフの曜日に、あたしとラク様は社会活動のために神殿前まで来ていた。そして待ち合わせしていたリューネが合流したのだが……早々に目の下の隈を追求されてしまった。
眠れない、と言ったけど正確には眠りたくないのだ。テセウス殿下が知らない女性 (とびきりの美人)とイチャイチャしている夢を見せられているおかげで、本人とラク様、勝手に部屋を使われているアステル様とどう顔を合わせればいいのか分からない。
(それに……テセウス殿下、最後あたしを見て「リジー」って言ってた)
所詮、夢なのだが気になってしまう。あの傲岸不遜な殿下が組み敷かれて弱々しく喘ぐばかりなのも、現実と違い過ぎてこう……
「リジーさまは、休んでいますか?」
「だ、大丈夫! 行きましょう」
ぐったりしている私を気遣い、残りの日はラク様が部活動を休む事を勧めてくれた。殿下の事さえなければいい娘なのよね。おかげでその日、夢は見ていない。
神殿での仕事は、ラク様とリューネが掃除、あたしが神官長のお世話を担当する事になった。目の見えない神官長の部屋でお茶を淹れたり話し相手になったりと随分楽な内容だが、寝不足のあたしに配慮してくれたのだろう。二人には後でパフェを奢ろう。
「やあ、よく来たね」
「お初にお目にかかります、神官長」
椅子に腰かけ、穏やかな笑みをこちらに向けている神官長に挨拶すると、後はやってもらうからと助手に人払いをさせ、二人きりになる。とりあえずお茶でもと勝手知ったる戸棚から茶筒とカップを取り出し、準備を済ませ差し出すと、神官長はお礼を言ってカップを持ち上げ香りを楽しむ。
しばらくして、一言。
「先ほどは何かの余興だったのかな? デミコ ロナル公爵令嬢」
ガチャン!
動揺のあまり、ソーサーに置いたカップが音を立ててしまった。バレている……思えばこの人に変装など、何の意味もない。しかし声色を変えても通じないとは。
「いや、意地の悪い質問だったね。私は魔力を感じ取る事で人を判断している。どちからと言えば、変わってしまったのはテセウス殿下の方かもしれない」
「はあ……魔力、ですか」
魔法の概念は殿下の婚約者だったあたしですら聞かされていなかったのだが、こうして当たり前のように口にされると……どこまでご存じなのだろうか。
それはさておき、あたしは気になっていた事を質問してみる。
「神官長は、ラク様襲撃事件について詳細はお聞きでしょうか?」
「ああ、殿下からね。だが正直なところ、混乱していて下手に口を挟めないのが現状だ。あの日、神殿にいたのは異世界人の客人と信徒が数名。他はあなたの気配どころか、四十人もの人間などどこにもいなかった。
一方で神具が使われていたようだが……王妃殿下がおいでになった形跡もないね」
どうやらアステル様が至った真相にはとっくに辿り着いていたようだ。けれど不可解な点がまだ残っていたのと、魔力が分かるなど公にはできない事から、あの時『エリザベス』を助けられなかった件を謝罪された。たとえ抗議したとしても、電光石火の断罪劇の前では無力だったろうけれど。




