浮かび上がる犯人
その日の夜、何だか気になる夢を見た。
あたしは、ディアンジュール伯爵家の廊下を歩いている。夏季休暇でお邪魔した際の記憶から、この先に何があるのか知っている――アステル様の部屋だ。
(ダメ、部屋の中は今……)
躊躇するも体が勝手に動き、あたしはドアノブに手をかけた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふあ……」
「聞いてる? リジー」
今朝の夢を欠伸しながら思い返していると、リューネに注意されてしまう。登校はいつも朝一番の誰もいない時間帯を狙っているのだが、その日はリューネも朝練のために早く教室に来ていたのだ。
「ごめん、何だった?」
「もう! アステル様に頼まれて、演劇部でカツラを発注した店で聞き込みした結果が出たんだってば。リジーにも伝えておいてほしいって言われてるから」
(アステル様、そんな事を……)
演劇部が発注したカツラというのは、テセウス殿下がクラス委員を動員して行わせた『エリザベス』の監視を攪乱させるためのものだろう。アステル様は何が知りたくて調査したのか。
「それが、私たち以前に『エリザベス』様と同じプラチナブロンドのカツラが注文されてないかって事だったのよね」
「え、演劇部以前?」
「そう、あの色を再現するために、特殊な薬品で配合しなきゃいけないから……結果は、ゼロだったわ。王都でも一番の店だから、発注するなら大抵あそこなんだけど」
あたしはリューネの話を、昼休みにそのままアステル様に伝えた。彼は納得するように何度も頷く。
「僕の方も他の店で調べさせたが、プラチナブロンドのカツラ……薬品で染色したものは発注されていない。君のものは王妃殿下が地毛から作らせたものだろう? その専属美容師にも連絡を取って確認したが、人工毛髪はもう二十年以上扱われていなかった」
「そこまでして、何か分かったのでしょうか」
「ああ、つまりラク様を襲撃した犯人はカツラではなく、地毛であった可能性が高い」
アステル様の結論に、あたしは息を飲んだ。もちろん、犯人はあたしだと言っているわけではない。ただ、地毛でプラチナブロンドとなると限られてくる。
その一人が、義弟のジュリアンだ。けれど彼の髪は短く、もしカツラを被って女装でもしていたと言うのなら、やはり事前に入手している必要がある。
(いる……もう一人、プラチナブロンドの髪の持ち主が)
あたしと同じ……違う、逆だ。彼女がプラチナブロンドだからこそ、あたしも元々焦げ茶色だった髪を染めたのだ。
でも、信じられない。何のために、彼女がラク様を……?
(お義母様……)




