幕間⑪燻る火種(王太子sideB)
夏季休暇中、私は計画を進行しつつラクとの仲を深めていた。視察にも同行させ、この国で催される娯楽を味わわせていたのだが、その顔は晴れない。去年は楽しそうにしていたのに、やはり異世界に比べて刺激が足りないのかと思ったが、そうではないらしい。
「どうした、またエリザベスにいじめられたか」
「違う……また、じゃない。エリザベスさまとは、ほとんど会った事ない」
彼女の言う通り、これだけべったりしていればエリザベスと二人きりになる機会などそうそうない。だがラクが誕生パーティー以来あの女を気にしているのは明白だった。
「私に言いにくい事なら、友人にでも相談したらどうだ?」
「いないです」
私の言う「友人」とは、ドロンなどの息のかかった側近だ。確かにラクには同性の友人はいなかった。今までも何人か見繕ったし使用人には女もいるが、上手くいかなかったのだ。将来旗印となる異世界人がいつまでも顔を曇らせているのは良くない。休み明けにでも見所のある奴を探しておくか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして夏季休暇の終わり、報告を受けた私は学園長室を目指していた。エリザベスが寮の自室にいない事が判明したのだ。生徒が無理やり追い出そうと部屋の鍵を壊した事で発覚したのだが、それはどうでもいい。この期間中、奴を野放しにしていた事を抗議しなくては。
だが事もあろうに学園長は平然と、エリザベスの身を自宅で預かっているのだと告げてきた。そして襲撃した生徒こそを探し出し処罰すべきだとも。
「特定の生徒を贔屓するなど、それでも教育責任者か!」
「殿下こそ勘違いしていらっしゃる。学園が護るべきは生徒全員。そこにはもちろん、エリザベス様も含まれます。本来なら生徒会長のあなたがそうすべきところを、あろう事か生徒たちを煽り立てて逆に危害を加えるよう仕向けるなど、人の上に立つ者のする事でしょうか?」
「っ異世界からの客人であるラクを甚振っていたのがエリザベスだろう! 生徒たちの安全のために注意喚起をしているだけだ!」
この学園は、生徒会による自治に任されている。学園長と言えど口出しさせるかと圧をかける私を、学園長は話にならないと溜息を吐く。無礼な態度にますます苛立ちは募っていく。
「殿下、あなたがわざわざ生徒たちを動かさずとも、王妃様が直々に影を見張らせております」
「母上が……!?」
「エリザベス様は御立派に己の務めに励まれておりますよ。その結果が、こちらにも」
そう言って差し出された紙には、この間の試験結果の順位が書かれていた。母上が今なおエリザベスに肩入れしていた事もショックだったけれど、この内容にはさらに衝撃を受けた。
エリザベスが、総合成績七位!? いや、それだけではない。アステル=ディアンジュールがトップだと!?
あいつは元々好成績ではあるが、十位前後をふらふらしていてライバルにもならないような奴だった。実力を、隠していたのか? 私に目をつけられないために……バカにしやがって!
今までは王太子としての公務や生徒会の仕事で片手間だったが、こうなれば一刻も早くエリザベスの動向を掴み、計画を急がなくては。だがラクから目を離すわけにもいかない……誰か適した者はいないのか。
そう考えながら一学年の校舎を歩いていた時、人だかりが見えた。あそこには、順位表が貼り出されていたはずだ。そこでジュリアン=デミコ ロナルと揉めているのは……確か、リジー=ボーデン男爵令嬢だったか。
ドロンの婚約者の親友で、クラス委員会でも度々目にしていた。見た目は地味だが明るくはきはきとした口調で、適切な距離を保つあたりが気持ちの良さを感じさせる娘だった。エリザベスとは一度もかち合った事がないらしいが……
(謙虚で気遣いができ、さらには頭もいい。ラクの友人として引き込んでおくのも悪くない)
エリザベスの事で憂鬱だった気分を一掃し、私は委員会の後で彼女に声をかけてみる事にしたのだった。




