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幕間⑩日本語(ラクsideA)

「こんにちは、楽様。僕は『アステル=ディアンジュール』」


 約一年ぶりに他人の口から『日本語』を聞いた時、私は驚きと興奮で息をするのも忘れた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ディアンジュール伯爵ことアステル様は、テセウスの元婚約者エリザベス様の新しい婚約者で、見た目は一言で言えば『ミノタウロス』――神話でしかお目にかかれない、牛そっくりな顔をしていた。まるっきり被り物風なのではなく、人間と牛を足して二で割ったような……色白ではあるけど真っ白ではなく、銀色の髪も人並みに生えていたのが、初見の人間には却って異様に見える。


『ディアンジュール伯爵家は、代々化け物のような容姿なんだ。君を襲った女には、実にお似合いだろう?』


 テセウスが吐き捨てるようにそう言ったのは、私を傷付けようとした犯人に対する怒りなのだと、その時は思ってたけど……


 彼の誕生パーティーに堂々と現れた二人を見て、私は自分の認識に自信が持てなくなっていた。アステル様は人間離れした不気味な見た目に反して実にジェントルマンな振る舞いだった。顔さえ気にしなければスタイルもテセウスとそう変わらないし、リアル『美女と野獣』を見せられているようで会場内の視線を釘付けにしていた。

 それに、エリザベス様。テセウスと仲のいい私に嫉妬して、鎧騎士たちに襲わせた……と聞いているけれど。王子の婚約者時代の彼女は確かに、笑顔が固くて暗い雰囲気だったから納得していたけど、アステル様と腕を組んでいるエリザベス様の表情は晴れ晴れとしていて、すごく幸せそうだった。


『アステル様はわたくしにとって、素晴らしい婚約者です』


 そう言って優雅に笑うエリザベス様は、一言で『美しい』としか表せなくて……自信に満ち溢れた美人の笑顔って本当に輝いて見えるのね。思わず見惚れてしまった私の横で『負け惜しみを』と呟いていたテセウスには、悪いけど同意できなかった。

 この人、本当に私を襲ったの……?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 次にアステル様と再会したのは、夏休み明けに新しく友達になったリジー様と神殿の事件現場に来ていた時だった。


 今までテセウスが紹介してきた『私の友人』になる人は、貴族から平民まで様々だったけど、みんな彼がいなくなった途端に友好的な仮面を外した。それは元いた世界でも見られた事ではあったから気持ちは分かるけど……私が異世界人だから、なんてのはただの口実で、単にテセウスと仲いいの僻んでるだけでしょ? 新しい婚約者ともう上手くいってるエリザベス様より、よっぽどあんたたちの方が犯人っぽいよ!

 ――なんてテセウスには言えるわけなく、今まで通り彼のそばからなるべく離れないようにするしかなかった。


 そんな中でリジー様は貴族の一人ではあるけど、全然嫌な感じはしなかった。地味な見た目から真面目タイプかと思いきや、可愛らしい声ではきはき喋る。何より彼女は、私の故郷である日本に興味を持って聞いてくれた。この世界に来てから初めての女友達に、私はすっかり夢中になってしまった。



『アステル様?』


 こちらに近付いてきた神官をリジー様がそう呼んだので、思わず二度見してしまった。テセウスの誕生パーティーであった人と全然違う! そう指摘すると、アハハと軽快に笑われた。


『これは変装ですよ』


 いや、無理あるでしょ。どう考えてもあの牛頭が変装マスクに収まるとは思えないんですけど!?

 どうやら彼は学校でも変装で過ごしていて、私も何度か会っているらしいのだけど……全く記憶にない。リジー様は声で聞き分けたって言ってるけど、それでもよく一発で気付けるもんね。



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